はじめに
今回は第二言語習得研究に基づく英語リーディング力の科学的に正しい伸ばし方を考えていきます。英語リーディングの力を伸ばすには文法や語彙の知識だけで良いのでしょうか?まずは第二言語習得研究に基づく英語リーディングの役割を解説しながら、英語リーディングの認知プロセスを説明していきます。英語をトップダウン処理で理解する方法や、テキストを使った具体的なトレーニング方法も丁寧に解説していきます。
- 第二言語習得研究に基づく英語リーディングの役割
- 英語リーディングの認知プロセス
- 英語リーディングに必要な語彙や文法
- 英文テキスト全体をトップダウンで理解するために
- 英語リーディング力を伸ばす正しいトレーニング
主な参考文献
「英語リーディングの科学 読めたつもりの謎を解く」
「入門期からの英語文型指導」
「英語の学び方入門」
「科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!」
第二言語習得研究に基づく英語リーディングの役割
インプット・アウトプットを繋ぐ
英語リーデイィングの正しい伸ばし方を考える前に、まずは第二言語習得研究の認知プロセスを見ていきます。代表的な理論がGass氏の4つのステップ(気づき、理解、内在化、統合)から形成される認知プロセス理論です。
引用:英語学習のメカニズム p24 図2-4
私達は膨大な情報(単語、文法など)をインプットしますが、注意を向けられることによって気づきが生まれ、それらが短期記憶に保持されます。「この表現ってこんな意味かな?」と仮説を形成したり検証する(統合)ことで最終的には長期記憶に保持されます。
第二言語習得研究の全体像については上記のブログで丁寧に解説しています。特に英語学習においては最適なインプット・アウトプットが重要となります。
自動化された顕在知識
なんとなく英文を読んだり、リスニングをし続けると日本語に変換して英語を理解することになってしまいます。実は、インプットした情報を4つのプロセスを通じて統合すると自動化された顕在知識を刺激すると言われています。
引用:英語学習のメカニズム p24 図2-4を参考に筆者が作成
詳しくは以前の記事を参考にしてほしいのですが、自動化された顕在知識そのものは意味記憶と潜在記憶を往復することで少しずつ形成されてきます。この自動化された顕在知識は英語を英語のまま理解することを可能にしてくれます。
理解可能なリーディング
クラッシェンにより提案されたインプット仮説では、理解可能なインプットを取り込むことが推奨されています。この理解可能とは現在の能力よりも少しだけ難しめ(i+1)のインプットを指します。インプットが難しすぎたり、簡単すぎると気づきが生まれないと指摘しています。
初学者であれば現在の能力と同じぐらい、少し易しめ(i、i−1)のインプットも効果的だとも言われています。易しめのインプットであれば余裕をもって処理でき、情報の意味だけではなく形式や機能にも目を向けることができます。
多読学習はこちらをどうぞ↓↓
リーディングとリスニングの共通点(ワーキングメモリ理論)
ワーキングメモリとはBaddeley&Hitch(1974)が考えたモデルで、記憶や情報の処理の仕組みを明らかにしようとしています。例えば、私達は文章を読む際に前文の内容を保持しながら、次の文を読むという並列処理もワーキングメモリで説明されています。Baddeleyの近年の研究では中央実行系(central executive)、音韻ループ(phnological loop)、視覚・空間スケッチパッド(visuo-spatial sketch pad)、エピソードバッハァー(episodic buffer)の3つから構成されていると考えられています。
引用:Simplypsychology Working Memory Model
特に、音韻ループは音韻ストア(phonological store)と構音リハーサル(articulatory rehearsal process)の2つの過程の分けられています。リスニングなどは直接音韻ストアに入りますが、リーディングは一度構音リハーサルに入ってから、音韻ストアに入ります。実はリーディングとリスニングから入る情報はいずれも同じ音韻ストアに入ることとなります。
引用:英語のリーディングの科学 音韻ループの2つの過程 p73
これはどういうことかと言うと、耳から聞いて意味を理解する「聴解処理」と文を読んで理解する「読解処理」は入力のされ方が異なるだけで、脳内では基本的に同じ回路を辿っているとうことです。読解の場合は視覚で捉えた文字情報をインターナルボイスとして脳内で音声化しています。
↓↓リスニングとリーディングをつなげるにはシャドーイングも有効です
英語リーディングの認知プロセス
リーディングのプロセス
リーディングの処理プロセスは上位レベルと下位レベルに分けられます。下位レベルでは、1つひとつの文が、単語や文法の側面から処理されます。文単位で語彙やフレーズ、語と語の関係性などが意味ある形として処理されます。上位レベルでは、下位レベルで処理された文単位の情報が積み重なって、テキスト全体の意味が構築され、テキストモデルが形成されます。
引用:英語の学び方入門 図7.1 リーディングプロセス
実は、私達は文章全体を読んだ内容だけで理解しているのではなく、スキーマ(内容やジャンルに関する背景知識)と組み合わせて最終的な理解にたどり着いています。すでに持っているスキーマを使って文章を理解しようとするトップダウン処理と、下位レベルからテキストモデルを形成するボトムアップ処理に分けられます。
テキスト全体を読むとは?
仮に英語で書かれた文章の単語を全て理解し、フレーズや構文も完璧に処理することができればボトムアップ処理だけでテキスト全体を理解することができるかもしれません。但し、現実は完全なテキストモデルを形成することはできず、自分がすでにもっているスキーマを使ってテキスト全体を読むことになります。
完全なテキストモデル(単語や語彙だけを駆使して英文全体を理解するモデル)を形成できないことに悲観するべきではなく、リーディングのプロセスを知ることで自分の弱点を知ったり、スキーマを活用することで的確かつ早く理解することができます。
スキーマ(すでに持っている知識)の種類
英語リーディングに必要な語彙や文法
単語数と英文カバー率
語彙知識と英文読解には相関関係があります。Qian(2002)の研究では、語彙知識から読解力を説明できる割合は67%だと言われています。以前のブログでも紹介しましたが、2000前後の単語を覚えていれば、80%前後の英文カバー率を確保できます。
頻度レベルごとの語彙
Word family list | LOB | FLOB | Brown | Frown | Kolaphur |
---|---|---|---|---|---|
2,000 | 84.33% | 83.07% | 81.54% | 81.79% | 84.15% |
4,000+固有名詞 | 95.39% | 95.1% | 94.14% | 93.93% | 94.64% |
8,000+固有名詞 | 98.31% | 98.03% | 97.6% | 97.28% | 98.05% |
固有名詞 | 5.29% | 5.66% | 6.12% | 5.43% | 4.55% |
引用:How Large a Vocabulary Is Needed for Reading
単語の数え方のルール
- 延べ語数(token):全ての単語を1つずつカウント
- 見出し語(lemma):辞書の見出し語のように活用形をまとめてカウント
- ワード・ファミリー(word family):見出し語と派生語を合わせてカウント
↓↓英単語の覚え方に特化した記事も参考に
チャンク・センスグループを作れる文型・語彙知識
前章では、リスニングの場合には最初に音を聞きますが、読解の場合は視覚で捉えた文字情報を脳内で音声化することを確認しました。しかし、文章を読んで脳内で音声化しても、それを意味のある形で処理できるかは別問題です。ネイティブが話してくれる音声を聞く場合には、意味の固まりごとに自然と息継ぎをするので、その固まりを追って行けば意味を理解することはできます。
さきほどの意味の固まりはセンスグループ(チャンク)などと呼ばれています。読みながらチャンクに区切ることで、同時に意味のまとまりをとらえることができます。
チャンクとは数個の英単語からなる意味の固まりのことで、英文を頭から読みながら意味の切れ目を自分で判断できるようになれば、英文をより速く正確に読めるようになります。チャンク読みができるようになるということは、英文を「単語単位」で処理するのではなく「チャンク単位」で処理していくということです。つまり4語とか5語ずつ処理していくことですね。そうなると当然、読むスピードが上がっていきます。
引用:科学的トレーニングで英語力は伸ばせる! チャンクリーディングの解説p154
引用:入門期からの英語文型指導 p84〜86の内容を元に筆者が作成
人間の記憶や認知の観点からも区切りを入れることでモノの数をすぐに理解できる研究成果もあります。特に、文型という区切りを入れることで単語の数が増えても認知の負担が変わらいというメリットがあります。
↓↓パターンプラクティスも読解力の向上につながります
英文テキスト全体をトップダウンで理解するために
英語の構造とまとめ方
英文テキストをトップダウンで理解するためには、まずは英文の構造そのものの正体を明らかにする必要があります。ここでは2文以上の文と文との関係性やバラグラフについて考えていきます。英語の段落構成は3つに分類されています。主題分(トピックセンテンス)は文頭か最後にやってきます。
引用:英語リーディングの科学 英語の段落構造の例 図2.1. p34
さらに説明文に特化すれば、4つの修辞パターンに分類することができます。記述の集合、因果関係、問題/解決、対比に分類されます。学習者がテキストの構造に気づくことが大切で、日頃からシグナル(テキストマーカー)に意識的に着目しながら4つの修辞パターンを追いかける必要があります。
4つの修辞パターン
- 記述の集合:上位トピックの内容を主に時系列で説明(歴史書など)
- 因果関係:原因と結果を分析
- 問題/解決:特定のトピックに対する問題と解決策を提示
- 対比:あるトピックに対する異なる立場の議論(政治的評論など)
第二外国語のリーディングの際に、あらかじめ修辞構造を示すことで学習者の本文理解が高まることはこれまでの研究で示されています。自ら意識的に各段落の役割を考えたり次の情報を予測しながら読むことで、テキスト構造を利用しながら読めるようになるとも指摘されています。
テキストの気づきを高める活動
シグナル(テキストマーカー)に意識的に着目するトレーニングについては、事項でおすすめの教材と合わせて丁寧に解説していきます。
背景知識を効果的に活用
自分の身近ではない話をされると、母国語でも理解が難しいことがあります。一方で、外国語であっても自分の興味のある分野のトピックであれば容易に理解できることがあります。英文で読んでいても「あ、これはどこかで聞いたことがある!」、「次の展開はきっとこうだ!」と思った経験がきっとあるはずです。
参考:英語リーディングの科学 背景知識と理解の章を参考に筆者が作成
背景知識はマクロ的に既有知識を活用してトップダウン処理を促したり、読解の際の負担を軽減させる効果もあります。背景知識を活用するためには、十分なボトムアップ(単語の理解、文理解)が不可欠で、安易な既有知識の活用はミスリーディングにもつながります。トップダウン処理の理解を、ボトムアップ理解で検証するような読解が求められます。
英語リーディング力を伸ばす正しいトレーニング
ボトムアップ✗チャンクリーディング
ここではテキストモデルを形成するボトムアップが処理できる力を伸ばすために、チャンクリーディングを有効活用した学習方法を紹介していきます。使える・理解できる語句を身に着けながら、英文をまとまったかたまりごと(チャンク)に読解できる力を付けていきます。今井氏が執筆した「英語を自動化するトレーニング」を使って丁寧に解説していきます。
各ユニットの構成
- Round1:重要語句・表現をチェック
- Round2:英文を黙読する
- Round3:音読で英文を頭に取り込む(チャンクリーディング)
- Round4:英文の理解度・定着度を確認
- Round5:英語の発信力を鍛える
「英語を自動化するトレーニング」のコンセプトは、1つの英文を音読を中心としたさまざまなタスクを通じて、その英文が読めるだけではなく、学習した語彙や表現を使って発信できるレベルを目指すことです。特に「基礎編」では難解な構文や語彙は出てこないので、無理なく学習をすすめることができます。
まずは本文に出てくる重要語句と表現をチェックします。チャンクリーディングの際に単語の意味が即座にイメージできるように準備します。空欄補充の問題では語句の使われ方は頭に入れていきます。重要語句・表現を覚えたら黙読のステップに入ります。急がずにじっくり内容を理解できるように読み進めます。もし不安であれば、語句をもう一度確認してもかまいません。
本文の内容を把握したら音読で英文を頭に取り込む(チャンクリーディング)ステップに入ります。まずはフレーズにごとに区切られた英語を聞き、対応する日本語を確認したり、英語をリピートするトレーニングを繰り返します。最終的にCDで日本語を聞いて英語が出てくるのが理想です。たくさんのユニットをこなすことで意味の固まりを頭の中でイメージできるようになり、日本語を介さずに情景や内容を思い浮かべることができるようになります。
トップダウン✗速読
次は英文テキスト全体理解するためのトップダウン処理ができる力を伸ばすための、速読を有効活用した学習方法を紹介してきます。英文テキスト全体を把握しながら、スピード感をもって英文を読める力を付けていきます。ここでのポイントは、ワーキングメモリモデルでも紹介しましたが、すでに読んだ内容を保持しながら処理できる内容を読むのが前提になります。おすすめは言語学者のポール・ネーションが執筆した「Reading for Speed and Fluency」です。
「Reading for Speed and Fluency」は速読力を伸ばす教材で、パッセージの語彙と文法レベルが統一されているため、トレーニングの成果を客観的に見ることができます。巻末のスピードチャートでは読む速さと理解度テストのスコア毎回記録することで、自分の読む速さと理解度を数値化して分析することができます。
本書の使い方
- できるだけ速く文章を理解しながら読む
- 本文を最後まで読み終えたら、すぐに経過した時間を記入します
- 次のページをめくって、質問の答えを選ぶ(この時本文を見てはだめ)
- 質問の答え合わせをします
- 読解の速さと答えのスコアを巻末のグラフに記入(250w/mを目指す)
参考:Reading for Speed and Fluency テキストの使い方より抜粋
引用:Compass Publishing Reading for Speed and Fluency 1 Student Book sample
パラグラフリーディング
パラグラフリーディングを解説した教材は数多くありますが、シグナル(テキストマーカー)に意識的に着目するトレーニングとしては「パラグラフリーディングのストラテジー読み方・解き方編」がおすすめです。パラグラフリーディングを活かした、英文の読み方を丁寧に解説しているだけではなく、徹底的にテキストマーカーを意識させる内容となっています。
本書を手に取ったら、論理展開パターンを自分のスキーマとして頭にたたき込み、論理マーカーに着目して筆者のイイタイコトをひたすら追いかけます。パラグラフの冒頭や結論を重視しながら、メリハリをもって読解する習慣が身につきます。なんとなく漠然と英文を読むということがなくなっていきます。
パラグラフリーディングの基本ストラテジー
- 評論文頻出の論理展開パターンを理解
- 論理マーカーに注目
- 筆者のイイタイコトの出現パターンを知る
- 反復回避の3パターンを意識して英文を読む
- 未知語の正しい類推方法を知る
引用:パラグラフリーディングのストラテジー読み方・解き方編
解説では実際のパラグラフ単位で読解のイメージを論理マーカーに着目して振り返ってくれるので、自分の読みを検証することができます。
参考
Simplypsychology :Working Memory Model
Lextutor | How Large a Vocabulary Is Needed for Reading
gocognitive:alan baddeley: the origins of the central executive