はじめに
今回はパターンプラクティスについて考えていきます。パターンプラクティスとはどのようなトレーニングなのでしょうか。英語学習への効果や正しいやり方を丁寧に解説していきます。瞬間英作文との違いも整理しています。パターンプラクティスを正しく理解して、ぜひ実践してみてください。
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パターンプラクティスとは
パターンプラクティスとは、日本では別名で文型学習などと呼ばれ、文の型(パターン)の知識を活かして、文を少しずつ変化させるトレーニングを指します。一般的には教師によって実践されるトレーニングですが、最近では独学用の教材もあります。
a technique for practicing a linguistic structure in which students repeat a sentence or other structure, each time substituting a new element, such as a new verb, as directed by the teacher, or transforming the original structure, as in changing a statement to a question
引用:コリンズ英語辞典
パターンプラクティスは文の基本例をもとに、その一部の単語を言い換えるトレーニングで、一般的には「置換」「転換」「拡張」の3つの作業を通して実践されます。
パターンプラクティスの主な3つの作業
- 置換:His house is big→His house is small
- 転換:His house is big→Is his house big?
- 拡張:His house is big→His house is very big
「置換」は、一部の単語を言い換える最も基本的なパターンプラクティスです。「転換」は基本例を平叙文から疑問文へ、単文から重文へ、能動態から受動態などへ転換させる、「拡張」は形容詞や副詞などの要素を追加していくトレーニングとなっています。つまり、パターンプラクティスは単純な文から複雑な文へ変換させるトレーニングです。パターンプラクティスの本質を理解するために、その歴史を簡単に振り返っていきます。
パターンプラクティスの歴史
オーラルメソッドの普及
オーラルメソッドは、19世紀までの文法・訳読中心主義の教授法に対する教授法として開発され、母語を介しないオーラル・ワーク(口頭作業)を重視します。日本においては、ハロルド・E・パーマー(Harold E. Palmer)が文部省の英語教授顧問として活躍した際に広まったようです。
パーマー氏の言語観は、実際の生活場面でコミュニケーションの道具として使えるような技術、すなわち「speech」の重要性を説き、以下の5つの習性と7つの練習活動をキーワードに挙げています。
パーマー氏の5つの習性
- 音声の観察(auditory observation)
- 口頭での模倣(oral imitation)
- 口頭での反復(catenizing)
- 意味化(semanticizing)
- 類推による作文(composition by analogy)
引用:パーマーのオーラル・メソッド受容についての一考察より作成
7つの練習活動
- 耳を訓練する練習(ear-training exercise)
- 発音練習(articulation exercise)
- 反復練習(repetition exercise)
- 再生練習(reproduction exercise)
- 置換練習(substitution exercise)
- 命令練習(imperative exercise)
- 定型会話(conversational exercise)
引用:パーマーのオーラル・メソッド受容についての一考察より作成
これらの練習活動は、後に説明する米国ミシガン大学のチャールズ・フリーズ(C.C. Fries)が提唱したオーディオ・リンガル法に 大きな影響を与えていきます。置換練習はパターン・プラクティスの原型とされ、アメリカの英語教育に大きく貢献していたようです。オーラルメソッドでは、なるべく母語を使わないで教えるため、動作、実物、写真、絵などの視聴覚教具を使うほか、適切な状況を作りだすことが重要だと言われています。
アーミーメソッドの展開
第二次世界大戦中,アメリカの軍人を対象に,短期間に集中的に外国語を教えるためのプログラムが開発されました。授業は主にフレーズや語彙を模倣するスタイルで、高い効果が出ていたようです。様々な言語がこの教授法によって教えられたようですが,特に対戦国である日本語教育では大きな成果を挙げたようです。
アーミーメソッドの効果
引用:Armed forces' foreign language teaching: critical evaluation and implication
母語の使用について最初に行われる言語学者による文法解説だけで、それ以外の母語の使用は禁止されていました。アメリカは現在でも、軍人向けに質の高い語学教育を提供しているようです。その原点がアーミーメソッドです。
アメリカの軍人向け語学学校(DLI)
オーディオリンガルメソッドの開発
1950年代の終わり,フリーズ氏はアーミーメソッドの見識に行動主義心理学の知見を加えオーディオリンガルメソッドが開発しました。フリーズ氏の言語観は最初にターゲットとなる外国語の音組織を習得した後、発音を体系的に学ぶべきだとしていいます。
さらに「pattern」を何度も繰返す基本練習である口頭ドリルが重視され、母語の使用はできるだけ避けるべきものとされています。まず、学習する内容を理解させる講義があり,その後に口頭練習が集中的に行われます。口頭練習で、今回のパターンプラクティスが考案されました。
よくある勘違い
文型学習(文法学習)を無視する
1つ目は、テキストの一文目から闇雲に英文を暗証して、文型を意識しないでトレーニングをしてしまうことです。5文型を理解をしていないのに5文型を使ったパターンプラクティスを実践しても効果がありません。もしも文型を理解していないのであれば、パターンプラクティスを始める前にしっかり5文型を整理しましょう。
実は5文型という概念はパターンプラクティスの考え方に基づいて誕生した経緯があるようです。英語をパターン化するためには、英語に一定の型を与える必要がありました。文型の理解とパターンプラクティスは切ってもきれない関係にあります。
置換・転換・拡張トレーニングをしないで満足する
パターンプラクティスは、単純に日本語を見て英語を発話するトレーニングではありません。5文型を土台にして、単語を「転換」したり「拡張」するトレーニングも大切な要素です。自分で0から文章を組み立てるわけではありませんが、文を自分なりに転換するのがパターンプラクティスです。
日本語を見て英語を発話するトレーニングは、実は「瞬間英作文」です。「瞬間英作文」だけでも英語学習への効果は期待できますが、後述する森沢氏が提唱する「文型操作力」は養うことができません。
パターンプラクティスだけで話せるようになる
パターンプラクティスの肝は、英文を訳さずに読めるようになることです。文法の知識が「わかる」から「使える」知識に変換されます。英文を見て、即座に意味をつかむことができるようになります。但し、5文型の英文をある組み立てるようになったからと言って、創造的に話せるようになるわけではありません。後述する、「情報の格差」などの気づきが必要になります。
但し、文法の知識を理解しただけではなく、運用可能な知識としてインプットしたことで今後のアウトプットの質も向上します。いちいち基礎文法を再確認する作業を省くことができるので、英語学習を効率的にすすめられます。
パターンプラクティスの目的
パターンプラクティスには、オーラルメソッドとオーディオリンガルメソッドを土台として、構造言語学・行動心理学の知見が組み込まれています。パターンプラクティスを通して得られる力は、文型に基づく文構造を変化させ多様な文を産出させること。さらに、その産出を自動化させる言語能力を獲得することです。
なぜ、パターンプラクティスだけで話せるようにならないかの一つの理由としては、インフォメーションギャップ(情報のやり取りをして自分が産出した英文を修正)する工程が欠けているからです。情報の格差を埋めるためには、コキュニケーションを重視するコミュニカティブ・アプローチが必要になってきます。
パターンプラクティスの効果・メリット
運用可能な文法知識の獲得
パターンプラクティスを何度も繰り返すことで「わかった」文法の知識が頭の中で想像したイメージと結びついて、「つかえる」運用可能な知識へと転換されていきます。パターンプラクティスのトレーニングを何度も繰り返していくと日本語の訳を介するよりも、すぐに英文を意味へと結びつけた方が早くなることに気がついてきます。
つまり、「文型」や「文法」の知識をベースに、自分で主体的に情景などを思い浮かべて発話することで、自分の体に基礎的な文法を刷り込ませることができるようになります。
簡単な小説を訳を介せずにスラスラ読める
パターンプラクティスで英文の意味を瞬座につかむことができるようになると、英文との向き合い方も変わってきます。訳に頼ることなく、英語の内容を頭の中でイメージできるようになっていきます。今までの「訓読」→「訳」という作業をしていると、処理スピードが遅くなっていました。「イメージ」から直接「意味」を産出することで、処理スピードが早くなります。
パターンプラクティス(瞬間英作文でもOK)をある程度実践できるようになったら、中学英語文法で書かれている小説などをたくさん読むことをおすすめします。レベル別の洋書や教材を活用しても良いでしょう。
↓↓洋書で多読の始め方を丁寧に解説しています
「話すための瞬間英作文」でパターンプラクティスを実践
話すための瞬間英作文とは
話すための瞬間英作文とは、英語講師の森沢氏が書いたベストセラー英語教材です。「簡単な英文をスピーディーにたくさん作れば英語が話せるようになる」というコンセプトで、日本語を見て反射的に英作文 を作るトレーニングを独学で実践できます。前述したように、瞬間英作文とはパターンプラクィスの基礎となるトレーニングであり、本シリーズではレベル1の位置づけとなっています。
第2ステージに突入すると、いよいよパターンプラクティスのトレーニングを本格的に始まります。下記のチャートの②〜⑤がパターンプラクティスの要素がつまった教材となっています。今回は、①「どんどん話すための瞬間英作文トレーニング」と⑤「ポンポン話すための瞬間英作文 パターンプラクティス」を使って、正しいやり方を丁寧に解説していきます。
短文暗唱=瞬間英作文トレーニングのステージ進行まとめ表
- 第1ステージ:中学英語の範囲内で平易な文が文型別に確実にスムーズに作れるようにする。単語・表現に難しいものが一切ないばからしい程容易な文例集を使用。
- 第2ステージ:中学英語の瞬間的な引き出し、結合が自由にできるようにする。反射的に英文を作る回路の設置完了。例文が、文法・文型別に並んでいないパターン・シャッフルされたもの、あるいは文型が統合された例集を使用。
- 第3ステージ:さまざまな文型・構文・表現を駆使できるようにする。第2ステージ終了までに獲得した回路を使用し、中学英語の枠を超えたさまざまな文例集・構文集を用い、あらゆる構文、文型、表現を習得していく。
引用:どんどん話すための瞬間英作文トレーニング
第1ステージ(瞬間英作文)
第1ステージは、「どんどん話すための瞬間英作文トレーニング」のテキストを使用していきます。本書ではpart1〜3まで計790の例文を使って瞬間英作文のトレーニングをすることができます。
トレーニングの手順
- 日本文を見て英作文:左側の日本文を見て、英文を口に出す。
- 英文を見て答え合わせ:答えの英文を見て、自分の英文と答え合わせ。
- 英文を口に落ち着ける:英文の構造・意味をイメージしながら自然に発話。
- 英作文の流し:10の日本文を連続して英作文する
まずは、日本文「これは良い本です」を見て、英文を口に出してみます。声に出して見たら、答えの英文「This is a good book」見て、自分の英文と答え合わせをします。注意したいのは、だいたい合っているから大丈夫と思わないことです。例えば、冠子の「a」が抜けていたら、もう一度やり直すことが必要です。
英文を口に落ち着けるステップでは、英文の構造・意味をイメージしながら自然に発話していきます。これはSVCの文構造で、「良い本がある」というイメージをしながらナチュラルに発話できるように繰り返し音読します。1~10の例文の構造を理解し、意味を頭の中でイメージしながら自然に発話できるようになったら、「英作文の流し」の最終ステップにすすみます。
第1ステージでは、テキストの全体像をイメージしながら790の例文を完璧に発話できるレベルまで何度もトレーニングを重ねることが必要です。今後のパターンプラクティス(第2ステージ)のためではなく、効率的なインプットやアウトプットにもつながり、今後の英語学習の土台になるからです。
付属のCDには、「日本語の音声」→「ポーズ」→「英語の音声」が流れるので、テキストを使用せずにトレーニングをすることができます。
「どんどん話すための瞬間英作文トレーニング」※CD付きを選択できます。
第2ステージ(パターンプラクティス)
第2ステージは、「ポンポン話すための瞬間英作文 パターンプラクティス」を使用していきます。第1ステージを突破してから、このシリーズを手に取ることをおすすめします。第1ステージのトレーニングをおろそかにしてしまうと、スムーズに学習をすすめることができないので注意しましょう。本書のパターンプラクティスでは、下記のように先行の文を少しずつ変化させながら、次々と新しい文を作っていきます。
パターンプラクティスの流れ
- 「私は英語を勉強します」(基本文)
- 「彼は」に置換
- 「しますか?」に転換
- 「日本語を」に置換
「私は英語勉強します」という基本文を英語で言えるようになったら、次々に英文を「置換」・「転換」していきます。教師が「彼は」と実際に自分に指示をしているようにイメージをして、テンポよく反応すると本来のパターンプラクティスの教授方に近くなります。
本書には「基礎編」と「発展編」がありあすが、基礎編だけでも十分効果があります。第1レベルのように何度も繰り返すよりは、次々に新しい項目にチャレンジして多様な文型に触れることが大切です。「置換」と「転換」に慣れてきたら、自分で英文を「拡張」するのもおすすめです。
付属のCDには、同様に「日本語の音声」→「ポーズ」→「英語の音声」が流れるので、音声を使ったトレーニングをすることができます。主語や動詞を変えたり、時制も変化させるので脳にかなり負担がかかります。情景をイメージすることを忘れずに、何度も繰り返しトレーニングを進めましょう。
「ポンポン話すための瞬間英作文パターン・プラクティス」
おすすめの教材(瞬間英作文)
中学英語で24時間話せるシリーズ(初心者向け)
「中学英語で24時間話せるシリーズ」は、市橋氏の「英文法を知っているだけでなく、使い切れるようにすることにある」というコンセプトを体現したテクストです。市橋氏は英会話における英文法の必要性を、日本の英会話教育史上初めて唱えた人だとも言われています。他に「話すための英文法シリーズ」など名著を数多く出版しています。
個人的には瞬間英作文を実践するには、まずは「中学英語で24時間話せるシリーズ」から手にとっても良いと思います。例文がとてもシンプルで、1文型にごとに7つの例文がセットになっているので無理なく始めることができます。基礎的な文法学習した後で、気軽に瞬間英作文を実践したい人におすすめです。本シリーズには「part1」と「part2」がありますが、「part1」だけでも十分です。
中学英語で24時間話せるシリーズの特徴
- 同じ文型の例文が7つセットになっている。
- 例文が短いので、テンポよく音読できる。
- ワンポイントで英文法の解説がある。
- 英文のみを読み上げたCDが付属
- 「part1」と「part2」合わせて、約900の例文を収録
「中学英語で言いたいことが24時間話せる part1」
「中学英語で言いたいことが24時間話せる part2」
基本にカエル英語の本(超初心者向け)
「基本にカエル英語の本」は英文法学習の教材ですが、瞬間英作文の教材としても活用できます。英文法の基礎から始めたい人におすすめです。特に英語の文型の概念をバケツを使って分かりやすく説明しています。難しい文法用語全く使わずに、イラストなどを駆使して視覚的に理解できるようになっています。
著者の石崎氏は英文法サイト『Get you!!English!!わかりやすい英文法』を運営しており、こちらでも英文法の学習をすることができます。英文法の学習を始めながら、瞬間英作文もやってみたい人におすすめの教材です。すでに英文法を学習している方は、少し物足りなく感じるかもしれません。
「確かめよう」のパートには左側に日本文、右側に英訳が記載されているので、瞬間英作文を実践することができます。丁寧に解説された文型知識を無理なく、インプットすることができます。
「基本にカエル英語の本 英文法入門レベル1」
参考
collinsdictionary:Definition of 'pattern practice'
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』|オーラルメソッド
VOA News | US Military's Language School Draws Positive Attention
研究ノート:日本語教育における媒介語の使用について|文法訳読法からコミュニカティブ・アプローチまで