はじめに
今回は第二言語習得研究から考える効果的な英語学習方法について徹底的に考えていきます。具体的には、第二言語習得研究の立場から最適なインプット・アウトプットを説明していきます。
英語学習者は自分の成功体験を他者に振りかざしてしまいがちです。「私は~の方法で学習したので上達した。」という体験談は他人にも果たして有効なのでしょうか?あるいは誰にでも当てはまる、必ず上手くいく英語学習方法はあるのでしょうか?第二言語習得研究者たちは口をそろえてNOと言います。
個人の成功体験を鵜呑みにしてもだめですし、誰にでも当てはまる黄金の英語学習メソッドは残念ながら無いようです。ですが、私達はこれまでの第二言語習得研究の成果を土台に自分に合った最適な学習方略は立てることができます。
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元現代文教師×クワドリンガル×第二言語習得研究
「メンターが教えてくれるペラペラオンライン英会話」
参考文献
なぜ英語を学習するのは難しいのか?
日本人の英語力について
なぜ英語を学習するのは難しいのか?というテーマに入る前に、日本人の英語力を知っておきましょう。英語学習が難しいと感じるのは、日本人の英語力と関係があるのかもしれないからです。
世界中に語学学校を展開するEFが2019年版「世界の英語能力ランキング」を発表しています。このランキングは、EF がオンラインで実施している英語標準テスト(EF SET)の結果をもとに作られています。ちなみに、この英語標準テストは読解力とリスニング力を測るテストです。
日本は100カ国中で53位という結果でした。全体の中では中間に位置していますが、やはり先進国の中では確かに低いと言わざるを得ないでしょう。
もう一つ、少し古いデータになりますが、TOEFLの点数を見てみましょう。ここでは、隣国の韓国と中国と比較してみます。結果は、日本が3位です。日本人の読解力が低いのも驚きです。
リーディング | リスニング | スピーキング | ライティング | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|
韓国 | 21 | 21 | 20 | 21 | 83 |
中国 | 21 | 19 | 19 | 20 | 79 |
日本 | 18 | 18 | 17 | 18 | 71 |
Test and Score Data Summary for TOEFL iBT® Tests
英語能力ランキングが成り立っているのは、なぜでしょうか?「日本人は英語が苦手だな」と思ってしまう背景には、各国の英語力にバラつきがあるからです。では、なぜ非英語圏の国々の英語力のバラつきがあるのでしょうか?英語は非英語圏の人にとっては、ある意味同じ外国語です。ある国では英語のスコアが高く、また別の国ではスコアが高いのには理由があるのでしょうか?
言語間の距離とは
言語間の距離という言葉をご存知でしょうか?なんとなく言語と言語の距離というイメージで大丈夫です。例えば、英語とスペイン語は距離が近く、英語と日本語は距離が遠いとかそんな感じのイメージです。
英語ネイティブにとって日本語は難しい言語だと聞きますが、本当でしょうか?言語間のマップを見ると、日本語がカテゴリーVに分類されており、勉強の学習時間は2,200時間も必要になっています。これは、カテゴリーⅠの勉強時間の3倍以上となります。やはり、英語圏の人にとって日本語は習得に時間のかかる言語だと言えるでしょう。
一方で、フランス語やイタリア語は英語と密接に関連した言語なので、英語圏の人にとっては比較的短時間で簡単に習得しやすい言語で、習得までの時間もぐっと短くなります。
対照分析仮説
この言語間の距離の元となった仮説に対照分析仮説(Contrastive Analysis Hypothesis)というものがあります。ここに、外国語学習のヒントが隠れています。
- 言語間で類似点が多ければ多いほど学習は容易になる
- 効果的な学習は相違点に焦点をあてることで可能になる
(Lado,1957)
1については、すでに説明しましたが、フランス語やイタリア語などのラテン語は英語に近い言語なので、英語ネイティブにとって、学習は容易であるということ。2に関しては、学習方法の仮説である。例えば、日本語と英語の語順は異なるという事実があります。日本人が英語を学習する時は、語順の違いを意識して学習をするとより効果的に英語を学習することができるという仮説です。
中間言語の存在
これまで、ターゲットとなる第二言語(ここでは英語となりますが)と母国語には距離があることを確認しました。それでは、どうやってその距離を縮めることができるのでしょうか?第二言語習得研究者も同じように考えました。対照分析仮説を参考に、それぞれの母国語との違いを意識して、第二言語研究を進めていきました。
しかし、第二言語習得研究を進めていくうちに、学習者が犯す誤りは必ずしも母語の影響だけでは説明できないことが判明していきました。例えば、動詞の過去形には「ed」をつけるのは日本語に同様のルールがないから間違えてしまうと考えていましたが、実は英語と言語間の距離が近い人も、同じ過ちを犯していることに気づきました。
ここで第二言語習得研究の新しいムーブメントが生まれます。母国語が異なっていたとしても、「共通の体系があるはずだ」という考えがたくさん出てきました。母国語と第二言語の間に、中間言語(interlanguage)を据える考えが研究の主流となっていったのです。
出典:「英語学習のメカニズム」(p22)より引用
中間言語という概念はラリー・セリンカーによって1972年に提唱され、人間の頭の中には潜在的な言語体系があり、第二言語学習者が目標言語を習得していくプロセス、その言語体系を参照しつつ、独自の言語体系を構築すると主張しました。また、学習者の習得レベルが上がるにつれ中間言語は変化します。学習者がネイティブに近いレベルになると中間言語は消滅するようです。
この中間言語という概念が誕生したことで、第二言語習得研究はより普遍的に世に広まり、誰もが第二言語習得研究を実践で活かせるようになりました。第二言語習得研究とは学習者の中間言語はどのような発達プロセスを辿るのかを探求する学問に成長しました。
第二言語習得研究
第二言語習得研究とは
第二言語習得研究(Second Language Acquisition)とは、母語でない言語をどのようにして学習するかを研究する学問です。実は、第二言語習得の全体像を明らかにするためには、他の学問領域の研究も必要になってきます。なぜなら、第二言語習得に様々な要素が複雑にからまっています。
第二言語習得は「ことば」を研究の対象とするので、言語学の知見が必要になってきます。さらに、学習や記憶のメカニズムを解明する必要があるので心理学の知識も必要になります。また、言語は社会と繋がるために必要となるので社会学の領域にも及ぶことになります。最後に、教師の視点から言語の指導を考えると、教育学の知見も必要不可欠です。
二つのアプローチ
第二言語習得をまずは大きく分ければ、二つのアプローチに分類することができます。一つ目は、第二言語習得の原理・原則を解明しようとする普遍性を追い求めるアプローチ。二つ目は、普遍的な原理・原則だけでは説明できない学習者の多様性を解明しようとするアプローチです。
普遍性
共通の原理・原則を明らかにしようとするアプローチは数多くありますが、一番有名なのがGassの認知プロセスです。
ミシガン州大学の研究成果
彼女は、第二言語学習者がインプットをアウトプットに転換できるようになるまでのプロセスには気づき→理解→内在化→統合という4つ段階があると説きました。インプットを受ける学習者に注目し、理解されたインプット(comprehended input)の重要性を主張しています。
- 気づき(noticing):情報を短期記憶に保持する
- 理解(comprehension):保持した情報を意味、形式、機能など多様なレベルで処理
- 内在化(intake):理解した情報を中間言語へ取り組む
- 統合(integration):知識を長期記憶として貯蔵し、処理の自動化を図る
多様性
第二言語習得研究が進むに連れて、普遍的なアプローチでは説明できない学習者の多様性が徐々に現れてきました。第二言語習得の著名な研究では、全体の訳1割程度しか学習者の多様性は研究されてないようです。
- 動機付け(motivation)
- 学習方略(learning strategy)
- 学習スタイル(learning style)
少し歴史的な話をすると、1970年頃までは学習者が「どのように」第二言語を習得するのかが研究の中心でした。1970年以降は、「なぜ」ある学習者は一定の成果をあげるのに、別の学習者は成果を上げることができないのかと考えるようになりました。
全体像
第二言語習得研究のおおよその全体像をつかむためには、言語習得の認知プロセスを俯瞰的に見る必要があります。インプットは認知プロセスを経てアウトプットされますが、そのプロセスで、音声認識力・言語分析力・記憶力に影響されていきます。
また、学習者の多様性(動機付け・学習方略・学習スタイル)によって、言語習得の成果が変化していきます。今回のブログでは、第二言語習得プロセスを示し、「自分がどこに弱点があるのか?」「自分はどこが逆に上手くいっているのか?」そんなフィードバックを与えることが今回の目的です。
出典:「英語学習のメカニズム」(p31)より一部引用
普遍性(認知プロセス)
インプットの役割
新しい第二言語を習得するために、大前提として文法や語彙を学習する必要があります。インプットなしでアウトプットするのは不可能です。目標言語との言語間の距離に応じて、ある一定の知識を吸収する必要があります。
さっそく、インプットの役割について考えていきましょう。第二言語習得研究で最も有名な理論に、インプット仮説(input hypothesis)というものがあります。人はどのように言語を習得するのかという根本的な問いに真正面からぶつかりました。インプット仮説から、インプットの大切な3つの役割が見えてきます。
第二言語学習の始まりは、インプットという仮説です。つまり、アウトプットと自らの中間言語よりもインプットの量が大きくならないとダメということです。これは何を意味するかといえば、より上級者になるにつれてより多くのインプット量が求められるということです。例えば、英語初心者は学習の上達が早いです、中級から上級になるとより成果が出なくなるのも納得できます。
二番目は、自らの作り上げる中間言語と目標言語との差に気づくことができるという仮説です。自分の中間言語が目標言語に近づいて来た時に、どれぐらいのギャップがあるのか?どんな知識が欠けているのか?それを気づかせてくれるのは、他でもないインプットです。
三番目は一番なじみがあると思いますが、英語回路を作りあげるために必要な材料という仮説です。アウトプットする基礎を作り上げるためにインプットは必要不可欠です。
インプット仮説を提唱したスティーヴン・クラッシェンの貴重なインタビューです。
"If you are a language teacher, you have to be a language learner".
インプットの質を高めるには?
インプットの質を高めるには、頭の中で行われる第二言語の認知プロセス(気づき→理解→内在化→統合)をいかにスムーズに行うことが大切です。闇雲になんとなくインプットしてはだめということです。一つ一つポイントを見ていきましょう。
気づき(noticing)
気づきという言葉とても曖昧な言葉ですが、要するに自分の注意が特定の項目に向けられることである。無意識に垂れ流しでインプットしても、効果的な気づきは望めません。それではどのようにしたら良いでしょうか?
まず始めに、インプット強化と呼ばれる方法があります。例えば、教師が大事な項目に下線を引いて、特定な文法や項目に注意を喚起させる方法です。学習者は視覚的に、今特定の文法を学んでいると気づくことができます。
インプット強化は学習者自身も実践できる方法で、例えば英文読解をしている時に、なんとなく英文を読むのではなく、助動詞に線を引きながら本文を読み勧めていく。そうすることで、本文中における助動詞の役割や意味に焦点があてられる。
もう一つは、インプット処理と呼ばれる方法で、意味のある形で数多く配列し、学習者に言語形式とそれが表す意味との結びつきに気づかせる方法である。例えば、教師が英語学習の文法指導の場面で、まず始めに関係代名詞の説明をする。その後、教師は関係代名詞を含む構文の和訳問題を連続で解かせます。生徒は関係代名詞の形式と意味の結びつきに気づきやすくなります。
学習者自身が実践できる方法としては、例えば洋書を読み進めながら、全ての関係代名詞を隠して、意味を確認しながら適切な関係代名詞を予測するトレーニングが考えられる。
理解(comprehension)
特定の形式に学習者が気づくことができたら、次は理解のステップに入ります。ここでまず考えて欲しいのは、どこまで理解したら十分ということです。例えば、英単語を理解する際に、英単語の意味だけを覚えることができれば、十分に理解できたと言えるでしょうか?答えはノーです。英単語の意味に加え、その単語がどのような形式で使われるか?文中でどのような機能を果たすのかを理解する必要があります。
- 浅い理解:情報の意味だけを理解
- 深い理解:情報の意味に加え、形式や機能も理解している
理解には浅い理解と深い理解があります。では、深い理解を達成するためにどうすれば良いのでしょうか?それは、三つの視点をもって意味処理をする習慣を付けることが大切です。
- 形式:どんな形で
- 意味:どんな意味で
- 機能:どんな場面で
英単語を覚える際に、その単語がどんな形で、どんな意味で、どんな場面で使用されるのかを意識して理解に努めることです。そうすれば単語を深いレベルで理解することができます。例えば、英単語も意味とだけ関連付けて覚えるのではなく、本文の中で覚えてしまえば同時に形式や機能も理解することができます。英単語を単語帳で覚えるのではなく、長文読解をしながら覚えるのには理由があることが分かります。
もう少し踏み込んで、なぜ深い理解(形式・意味・機能)が必要なのかといえば、自分で仮説形成をするためです。このステップがないと、次の内在化に進めないからです。
「あの表現ってこういう意味だよね?」
「おそらくこういう場面で使えば言いんだよね?」
などの心の声が必要になります。この自分なりの仮説を立てることができているなら、深い理解ができている証拠になります。
内在化(intake)
気づき・理解を突破することができたら次は内在化です。内在化とは、気づき・理解したインプットを学習者の内部(中間言語)へ取り込むことです。内在化では、すでに自らの知識=情報(中間言語)と、新しく入ってきた情報(インプット)の比較を行います。つまり、仮説検証が行われます。
インタラクション仮説という理論があります。インタラクション仮説によれば、学習者はインタラクションの活動に参加することによって、分からないことを聞きかえすなどの意味交渉が起こるというのです。たとえば、英語話者と話していて聞き取れなかったら
「なんて言いましたか?(What did you say?)」
「これはあなたが言いたかったことですか?(Is this what you mean?)」
聞き返しや確認をすることで、自身の中間言語を検証・修正することができるようになります。類似的な効果が期待できるものとして、インフォメーション・ギャップ(対話者間に情報のずれがあり、そのずれを埋めることを目標とした活動)やブループワークも有効です。
統合(integration)
統合はインプットにおける最終ステップであり、最も重要なプロセスになります。新たな言語知識として取り込んだインプットを長期記憶内にとどめ、アウトプットできるように自動化していく大事なステップです。的確に統合されなかった情報は、短期記憶として処理されてしまい、忘れ去られてしまいます。第二言語学習の成功の是非を分けるのは、この統合のプロセスに問題があることが多いのではないでしょうか。
まず、脳科学的に証明されていることですが、統合にはかなりの反復作業が必要になります。一度や二度やったからと言って、統合できるわけではありません。しつこいほどの繰り返しの学習が必要になります。統合を促してくれるのが次に紹介するシャドーイングです。
シャドーイング
シャドーイングとは
シャドーイング(Shadowing)とは英語を聞きながら、その音声を真似して発音する訓練です。通訳の訓練にも使われているメソッドです。シャドーイングは、聞こえてくる英文のすぐ後ろを影(shadow)のように追いかけるのがポイントになります。
シャドーイングは、言語知識の自動化を促進する効果があると言われています。それだけではなく、短期記憶の発展を促す効果も期待できるようです。シャドーイングの実践方法を簡単に説明します。
シャドーイングの実践方法
Step1 リスニング
まずは、テキストを見ずに音声だけ聞いて、全体像をつかみます。「どんな話をしているだろう」程度で大丈夫です。この時点では一語一語聞き取れなくても問題ありません。
Step2 マンブリング
テキストを見ずに音声に合わせて小声で話してみます。この時点では、正確な発音やイントネーションに注意する必要はありません。大切なのは、音声に合わせて口を開けて発話してみることです。
Step3 パラレルリーディング
テキストを目で追いながら音声と同時に発話していきます。リスニングやマンブリングで聞き取れなかった箇所を参照しながらやっていきます。
○テキストの音声に主として従う
○音声を聞いて復唱しながら、適宜テキストを参照する
という2パターンを併用していきます。
Step4 テキストで意味や英語の確認
Step1~3を実践して、分からなかった部分を再確認していきます。聞き取れなかった英単語を確認すると同時に、正しい発音をチェックします。意味が分からなかった単語や熟語を調べていきます。
Step5 プロソディ・シャドーイング
ここから本格的なシャドーイングに入ります。音声に合わせてテキストを見ずに発話します。ここでは、音声を上手く再現することに意識を向けます。抑揚やイントネーションなども、できるだけ真似して発話しましょう。内容の意味を同時に頭で100%理解する必要はありません。ただし、できるだけ大きな声で発話しましょう。
Step6 コンテンツ・シャドーイング
最後は、意味を理解しながらのシャドーイングです。プロソディ・シャドーイングのように大きな声で発話する必要はありません。小声で良いので、口は動かしながらも意味を同時に考えながら発話できるようにトレーニングしてください。
Step7 リピーティング
リピーティングは途中で音声を止めて、記憶に留めた文章やフレイズを繰り返すトレーニングです。リピーティングに関しては、step5やstep6が不十分で実践してしまうと、間違った発音やイントネーションのまま記憶してしまうので注意が必要です。スピーキングに使える語彙やフレイズを内在化する訓練になります。
Step8 レシテーション(暗唱)
最後のステップはレシテーションになります。テキスト全体を暗唱して発話するトレーニングです。脳の中に内在化されて英文やフレイズを繋ぎ合わせ、何度も暗唱に挑戦してみましょう。誰かに説明したり、聞いてもらうのも効果があるようです。
アウトプットの役割
アウトプットの役割を考える際に、参考になるのがU字型発達曲線と呼ばれるものです。U字型発達曲線は、言語の創造的な使用がどのようなプロセスで実現されるかの示唆を与えてくれます。
U字型発達曲線
- 第1段階:言語をそのまま暗記
- 第2段階:規則や法則を抽出
- 第3段階:創造的に言語使用
第1段階では、目標となる言語をそのまま丸暗記します。正確性は高いですが、表現が限定的な状態です。第2段階では、正確性が減少しますが、トライ&エラーを通して一般的な規則を抽出できるようになります。第三段階では、あらゆる状況で柔軟な言語使用が可能になっていきます。
アウトプットの役割は、実践的な言語使用を実現するために、失敗を繰り返し確かな規則を自分で見つけていくことだと言えます。
スウェインは地元カナダのトロント大学で英語母語話者のフランス学習について研究していました。当時、彼女はカナダはフランス語のインプットを大量に取り入れることができるカナダは、理想的な学習環境だと考えていました。
いざ学習成果をみてみると、リスニング能力はネイティブ並みの伸びが確認されましたが、文法能力や社会言語能力には期待したほどの伸びは確認されませんでした。その原因は、アウトプットの機会が不足しているからだと主張しました。すなわち、どれほど回りの環境が良くてもアウトプットの機会がないと伸びが限定されてしまうということです。
アウトプットの4つの役割
出典:「英語学習のメカニズム」(p60~62)より引用
スピーキングの仕組み
アウトプットの代表であるスピーキングの仕組みについて考えていきます。アウトプットの仕組みやプロセスを解明することができれば、後はそれを自動化していけば良いのです。
まず、最初のステップは頭の中の概念化装置で、自分の伝えたい想いを形成していきます。例えば、今お腹がすいているなと感じたとしたら、「お腹が空いたなと」心の声が生まれてきます。
概念化の次は形式化です。形式化には3つのステップがあります。
- 語彙・文法コード化
- 形態・音韻コード化
- 音声コード化
まずは、頭の中の辞書から必要な単語を検索します。「お腹が空いたなと」という心の声を言葉にのせる作業です。空腹という単語を探して「hungry」という単語が頭の中の辞書から見つける、語彙情報を活用しました。文法情報から、主語+Be動詞の後に形容詞をもってくるなと考え「I am hungry.」と出来上がりです。
次に、「hungry」を「hʌŋgri」という発音記号に変換して、音韻情報を準備します。強くアクセントする場所も確認します。
さらに、音声コードを形成するために、実際英語の音を発音する口に意識が向けられます。舌の位置や口のあけ方を整えれば音声コード化の仕上がりです。
最後の調音化は、実際に「I am hungry」と発話するプロセスを指します。
流暢なスピーキングを実現するには?
流暢なスピーキングを実現するための方法はいくつかありますが、チャンクを活用したスピーキングは即効性が高いです。チャンクを活用したスピーキングとは、単語と単語の連なりチャンクを活用したスピーキングです。チャンクの種類は以下の通りです。
- 句動詞:take in、come back
- イディオム:get along with、a piece of cake
- 固定フレーズ:of course、at least
これらのチャンクは英語の母国語話者が脳の中の辞書に、単語に分解せず蓄えているとされています。したがって、私たちも大いに活用できます。チャンクを活用することで、文の構築が楽になり、より自動化した発話が可能になります。
多様性(学習者要因)
動機付け
第二言語習得研究においても、残念ながら全ての学習者にあてはまる黄金の学習方法は存在しないようです。なぜなら学習者一人一人によって最適な学習方法も異なり、一人一人のモチベーションによっても変わってくるからです。
動機はとても不安定なものなので、一つよりも複数あった方が良いようです。一つの動機が達成してしまったら急にやる気が下がる可能性もあります。持続的な学習をするためには、複数の動機を持つほうが良さそうです。
- 動機の強度が弱い場合→学習時間・学習量の確保
- 動機の方向付けが定まっていない場合→目標の明確化
動機には強弱と方向性があります。強度が弱い場合は、積極的に学習時間を確保することが必要です。方向付けが定まっていない場合は、目標の明確が必要になります。
動機は2つの種類に分かれています。統合的動機は、第二言語社会やその文化に同化・統合しようとする動きです。一方で、道具的動機は就職や経済的成功など、何らかの実利目的を達成しようとする態度です。
どちらが優れている動機ということではなく、大切なのはバランスです。学習が長くなるほどモチベーションは下がりやすいので、達成感を保てる工夫をすることが大切です。
もう一つの分類方法は、内・外からの欲求で分類します。内発的動機は、第二言語を学ぶこと自体が目的となる動機。外発的動機は、報酬などの外からの影響などによる動機となります。こられも併用することで持続的な動機付けを支えていきます。
人間の本来もっている3つの欲求を活用して、英語学習を進めるのも効果的です。自分の欲求に合った方法で取り入れることが大切です。
- 自立性:主体的に好きな参考書を選んで、自立的に学習する
- 有能性:学習成果の可視化
- 関係性:ゲームで競い合い、コミュニティを使った学習
学習方略
学習方略は学習を効率化する役割を担っています。どうすれば英語学習をもっと効果的にできるのかを考えることです。大切なのは、学習の「量」ではなく「質」に注目することです。私たちは無意識に身につけた学習方法には注意を払わない傾向があります。学習方略を考える第一歩は少し立ち止まって、改めて自身の学習方法を振り返ることから始まります。
自分はどこが苦手だろう?(メタ認知方略)
どうやって英単語を覚えるのが良いだろう?(記憶法略)
学習方略には、直接方略と間接方略があります。学習者はこれらの方略を組み合わせて、より学習を効率的に進めることができます。残念ながら、誰にもで最適・最高の学習方略は存在しませんが、自分の学習方略を知り、それを改善していくことはできます。
直接方略
- 記憶法略(memory strategy):語呂合わせ、語源で覚えるなど
- 認知方略(cognitive strategy):類推など
- 補償方略(compensation strategy):母語使用、ジェスチャー
間接方略
- メタ認知方略(metacognitive strategy):学習計画・目標
- 情意方略(affective strategy):セルフコーチング、音楽の活用
- 社会方略(social strategy):グループで学習など
例えば、記憶法略において、既存知識の活性化と呼ばれる方法を使えば、新たに入ってくる情報をより効率的に処理することができます。後述する、学習スタイルと組み合わせて、自分にあった最適な学習方略を模索することが大切です。
学習スタイル
学習スタイルとは
学習スタイルとは、私たちの認知の違いや性格に起因するもので、一人一人に合った学習方法は異なります。私達は同じものを見えても、違った認識や解釈をすることがあります。そのような多様な学習スタイルを上手にまとめたのが「学習スタイルのオニオン・モデル」と呼ばれる理論です。
- 性格・認知スタイルの違い(玉ねぎの中心)
- 情報処理に関わるスタイルの違い(玉ねぎの中間)
- 学習環境・学習活動に対する好み(玉ねぎの外側)
中心に行くほど、外からの影響を受けいくいと考える理論です。自分の性格や認知スタイルや情報処理の得意・不得意分野を把握して、最適な学習環境と学習活動を選択することを推奨しています。それを支援してくれるのが次に紹介するPLSPQです。
PLSPQ
PLSPQ(perceptual learning style preference questionnaire)は、私たちの認知スタイルの好みなどを6つのタイプに分類・測定してくれるアンケートです。おすすめなのが、神田外国語大学が提供するオンライン版「学習スタイル診断」です。1~16の質問に答えるだけで、学習スタイルを診断してくれます。例えば、「自分は耳から情報を入れるのが得意で、個人学習を好む」など自身の学習の癖のようなものを提示してくれます。さらに、解説を読めば自分のスタイルに合った最適な学習方法を知ることができます。
私が実際に診断された結果は、Aでは視覚型の点数が高かったので、目からの情報で学習するのが得意だと分かりました。Bではどちらも2点ずつなので、知識と実践を使い分けながら学習するスタイルが好ましいと判断されました。最後のCでは、個別学習がより集中できる環境だと分かりました。