はじめに
英語脳とは?どのような感覚でしょうか。今回は英語脳の作り方と鍛え方をは解説していきます。日本語と異なる英語脳とは存在するのか?英語思考ができない原因とは?言語習得プロセスの位置付けと英語思考ができない原因を東大の研究を交え解説しながら、最後に大人でも実践できる英語脳の作り方をステップごとに解説していきます。
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主な参考文献
「はじめての英語学」
「英語学入門」
「英語学を学ぼう」
「一億人の英文法」
英語脳とは?
英語脳は存在する?
そもそも英語脳とは存在するのでしょうか? 日本の脳神経外科医 植村研一さんの論文「脳科学から見た効果的多言語習得のコツ」では、日本語脳や英語脳が存在し、それぞれ脳の活動が違うと説明されています。実際にバイリンガルの方の脳活動を見てみると、確かに英語と日本語では、活動している場所が異なるようです。
幼少期に外国語を習得した人は、第一言語と第二言語も同じ脳の分野を使うという研究結果もあるようですが、大人になってから習得した人の脳を観察すると、下記のように違う箇所が活発に動いているようです。英語脳が存在するかどうかは、科学的には確証がないようで、引き続き議論されているようです。
引用:Distinct cortical areas associated with native and second languages
ユニバーサル文法の存在
英語脳の存在を断定するのは難しいので、言語の共通のルールについて考えていきたいと思います。もし、言語の共通ルールがあるとすれば、英語脳も日本語脳も同じ思考で良いということになります。言語には共通のルール(普遍文法)があると最初に主張したのは言語学者のソシュールです。彼は個別かつ例外だらけの言語をどうにか帰納的に説明しよう普遍文法という概念を打ち出しました。
生成文法とは、様々な仮説群とレキシコン(辞書)を演算して生成された文全体と、言語における文法全体が完全に一致するという理論です。生成文法は主観が入らずに誰がやっても同じ理論・結論になります。私達が使用している個別かつ例外だらけの言語それぞれが、一つのきちんと生成できるルールに基づいていると主張しました。
引用:言語の文法処理を支える3つの神経回路を発見
脳の話に戻ると、人間の脳には元々文法能力を操る文法中枢があると考えられおり、文法処理を支える回路も発見されています。特に言葉を発する機能を担っている領域は「ブローカ野」と呼ばれ、ここが損傷されてしまうと相手の話は理解できるのに、自分ではうまく話せなくなります。
東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉助教授らは、脳の活動を外部から計測できる装置を用い、英語の文法の学習が進むと日本語の文法を処理する脳の部位と同じ部位が活発になることを突き止めました。脳には、文法を処理する中枢が存在し、その部位は言語によらず共通、というわけです。
引用:日本語も英語も活発になる部位は同じ
実は、文法処理する中枢は、外国語を習得する際も日本語と同じようにこの中枢を使うということが明らかになっています。ある被験者のグループに文法問題を課し、その時の脳の活動を映像化して調べたところ、文法を使う言語理解の際に、特異的に活動する部位が見つかりました。(さきほど説明したブローカ野)
そして、次は英語を習い始めた中学生を対象に、機能的MRIを用いた実験を行いました。「現在形」を「過去形」に変える(正しい「過去形」を選ぶ)という文法課題を与え、学習前後の脳の活動変化を調べたところ、学習の向上に比例して先ほどの文法実験で見出された活動部位(ブローカ野)と同じ部位に活動の増加が見られました。
カミンズの言語共有論
言語中枢という考え方は、カミンズ氏の言語共有論にも近く、彼はカミンズ氏は第一言語と第二言語の間には共有できるCommon Underlying proficiency(CUP)があると主張しています。第一言語能力(母国語)と第二言語は独立しておらず、相互に依存しているという理論です。(二言語共有説)
引用:Teaching for Cross-Language Transfer in Dual Language Education: Possibilities and Pitfalls (Jim Cummins,2005)
カミンズ氏は、「二言語共有説」を立証するために言語能力をBasic Interpersonal Communicative Skills(対人伝達言語能力)とCognitive Academic Language Proficiency(認知・学習言語能力)に整理しました。
Basic Interpersonal Communicative Skills(BICS)は、日常の場面に密着した(context-embedded)言語使用が特徴で、日常会話能力と言って良いでしょう。一方、Cognitive Academic Language Proficiency(CALP)は、学問的な思考をするときに必要な言語能力のことです。抽象的な事柄などを考える(context-reduced)言語使用が特徴で、認知的な負荷が高くなるようです。
引用:bestofbilash|BICS/CALP:Basic Interpersonal Communicative Skills vs. Cognitive Academic Language Proficiency
この二つの言語能力(BICSとCALP)は第一言語と第二言語両方に当てはまります。 言語形成の土台にあたるのが、CALPで能力形成まで長い時間がかかります。私たちはすでにこのCALPという論理的思考能力をもっており、日本語だろうと英語だろうと共通の土台の上で、言語を操るということです。
↓↓こちらも参考にしてください
日本語と英語の論理形式の違い
つながり(cohesion)
では、英語も日本語も共通のCALPがあるということは分かりましたが、実は日本語と英語では論理の手続きの踏み方が少し異なります。英語の論理の基本は「つながり」と「まとまり」です。
英語の論理の基本
- つながり(cohesion):各センテンスが前後のセンテンスと意味上および形式上かかわりがあり、直線的に言葉が流れている
- まとまり(coherence):すべてのセンテンスが明確に1つの話題について述べていて、全体として1つのメッセージを成している
引用:論理力を学び論理力を養う 英語スピーキングルールブック
つながり(結束性)の研究は英語学習の中でも活発に議論されているようで、結束性を初期に体系的に研究したハリデーとハッサン(M.A.K Haliday and R. Hasan)は、結束性を5つの概念を使って解説しました。
英語の結束性の5つの要素
- 指示(Reference)
- 代用(Substitution)
- 省略(ellipsis)
- 接続語(conjunction)
- 語彙(lexical chain)
引用:Cohesion in English(1976)
日本語の文章では、文全体における起承転結が重視されます。一方で、英語は語句→パラグラフ→文全体が有機的に連動し、全体としてのつながり(結束性)が求められます。下記の文章ではいかに一つの文章が恣意的ではなく、意図をもって構成されているかが分かります。
引用:はじめての英語学 P144
例文で見られる結束性
- 同義性:particular-specificなど
- 反義性:general-specificなど
- 比較語:the best move-the best or even a good move
- 接続後:for, thereforeなど
- 語の関連:answer、respondなど
旧情報から新情報
英語では文章を作る際に、すでに述べられた、相手が「知っている」情報(Known)で始めて、聞き手がまだ「知らない情報」(New)はセンテンスの後ろのほうにもっていきます。代名詞などを主語にして文を始めるのも「つながり」を出すためのテクニックです。これららは全て聞き手が大切な情報を聞き逃さないために行われています。
抽象→具体と一般→具体の原則
もう一つ、「抽象」→「具体」と「一般」→「具体」の原則を守ることです。英語では抽象的・一般的なことを述べてから、具体的・個別的のことを述べるのが鉄則です。
抽象と具体の関係を明白にするには、「a kind of〜」という言葉を入れることで確かめることができます。例えば、「Sushi is a kind of Japanese food」(寿司は日本食の一種)というように、抽象度を表すことができます。
まとまり(coherence)
英語には目的によって4つの形式(discourse)という、それぞれ決まった型(model)が存在します。それぞれの型どおりに話す(書く)ことで全体のまとまりが生まれます。これらの型は英語圏の学校教育で小学校から指導されているので、ネイティブスピーカーは自然と型通りに話すことができます。まさに英語ロジックの根幹の部分です。
4つの形式(Discourse)
- 出来事・ストーリーを語る文章(Narrative)
- 人物や場所を描写する文章(Descriptive)
- ものごとを説明・定義する文章(Expository)
- 理解してもらうために議論・説得する文章(Persuasive)
今回は出来事の語り方(Narrative)を見ていきましょう。人間のコミュニケーションの原型に当たり、英語圏では最も初期に学習していきます。基本的には、場面設定→話の流れ→一般化/考察の流れとなります。
概要となるポイントを示し、そこから枝分かれに詳細を述べていきます。出来事などを語る時は、自分が思い浮かんだ順番に話してしまいがちです。相手とイメージを共有するためには、ポイントを絞って的確に説明することが大切です。
ネイティブ感覚を身につける
論理の手続の方法に加え、日本語と英語では物事を捉える視点が異なります。日本語は下記のように、状況だけを視点で捉えます。一方で、英語は「動作主」と「受け手」が作用を及ぼしているという状況を踏まえ、全体を俯瞰して見ます。英語は日本語よりも、物事を俯瞰して捉える言語だとも言われています。無生物主語構文など英語特有の構文にも慣れる必要があります。
引用:もっと自然な英語が使えるようになる。「自動詞と他動詞」本質的な違いはこれだ!
感情表現の視点においても、日本語では人の感情が重要視されます。「嬉しい」とか「悲しい」などの気持ちだけを捉える傾向があります。一方で、英語はその気持ちを引き起こした原因も同列に扱われます。
引用:もっと自然な英語が使えるようになる。「自動詞と他動詞」本質的な違いはこれだ!
今自分がいる状況を客観的に見てみて、動作主と受けてを明確にしながら英語で整理してみる。あるいは、「嬉しい」とか「寂しい」感情の原因をつきとめて、英語に思いを乗せてみる。日々の生活の中で今まで気にしなかった事柄を英文に落とし込むことで、少しずつネイティブ感覚が養われていきます。
英語思考ができない原因
単語・動詞のコアイメージの欠如
さきほどの英語の視点や、感情表現の違いの由来はどこから来るのでしょうか?英語の視点の根幹には英語を構成する一つ一つの単語があるはずです。日本語の意味を常に変換する作業をしていては、英語の視点も獲得できませんし英語思考をすることもできません。
英語スキーマ(ネイティブが持つ構造化された知識)↓↓
英単語を覚えるときに、走る=runというように覚えてしまうと、日本語の意味を常に変換するという工程が必要になってしまいます。run= to move fastというコアの意味を覚えることで、そこから他の意味も類推することができるようになります。コアイメージを覚えることで、単語が本来持っている作用や動きを理解することができます。
英文の構造的特徴を知らない
英語と日本語は下記のようにミラー言語と呼ばれ、修飾のされ方や構造が異なります。日本語と英語では、様々な要素が全く逆の語順で現れています。
引用:英語学入門 P244
英語の視点や動きの根幹にあるのは、英単語一つ一つの意味の連なりでした。但し、英語特有の構築のされ方を知らないと、正しい視点を理解することができません。その構築のされ方の根底にあるのが英語の基本文型になります。
英語の基本文型
- 他動型:主語+動詞+目的語
- 自動型:主語+動詞
- 説明型:主語+動詞+説明語句
- 授与型:主語+動詞+目的語+目的語
引用:一億人の英文法 P20
英語は文型によって意味が異なる他、修飾語(語句)を前に置くか、後ろに置くかによって意味が変わってきます。「That is a red sweater. 」ように前に置く修飾語は限定の働き(青でも白でもない)をしている一方で、「That sweater is red.」は説明(あのセーターは赤い)の働きをしています。英語は文の配置によって品詞の役割が異なってきます。
文の配置転換による品詞役割の変化
- Red is the color of passion. (名詞)
- I love that red dress. (限定)
- That dress is red. (説明)
修飾のされ方や配置によって品詞の役割も変化し、文型それ自体の構造の変化によっても文全体の意味が変わってきます。英語の構造的特徴を知らないと、英語思考を受け取ることも、伝えることもできません。
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パラグラフ構築方法の文化的違い
パラグラフの作成方法が文化によって異なるという研究結果があります。Kaplan (1966) はアジア圏の言語は中心に向かう渦巻状と示し、英語の論理展開を直線の下向き矢印で示しました。
引用:Kaplan's (1966) diagram presenting cross-cultural differences in paragraph organization in the study on cultural thought patterns in intercultural education
三重大学では、学習者コーパス「ICNALE」を用いて日本人学習者に特徴的な結束語句の使用に関する調査を行い、以下3つの日本人学習者による英語ライティングの特徴が明らかにしました。
日本人学習者による英語ライティングの特徴
- 定冠詞、不定冠詞を用いたエッセイ内の名詞の展開が少ない。
- 前述の内容を示すitの使用が少ない。
- 同じ語の繰り返しが多い。
引用:A Study of English Writing by Asian Learners
これらの特徴から、「英語的論文展開で書くための結束語句の使用に不慣れである」、「実用的な語彙が十分に習得できていない」という2点が、日本人学習者の英語ライティングにおける問題点として指摘されています。
言語習得プロセスへの位置付け
↓↓言語習得のプロセスはこちらで解説
英語の深い理解
単語の実際の使い方や熟語も一緒に覚えることで忘れにくくなるだけではなく、より実践的な英語力を身につけることができます。ここでの英単語の使われ方とは日本語の形式という意味ではなく、英語の形式におけるという意味です。英語の形式は、下記のように語順と文型が中心となり、意味を決定づけます。さらに、文の中で中心的な役割を果たす動詞のコアイメージを意識しながら、アウトプットしていきます。
名詞などの個々の単語については、先ほど説明した「具体」⇄「抽象」や「一般」⇄「個別」というように整理しておくことが大切です。英語論理の形式で説明する際に、効果的にピースにはめることができます。
英語らしさを検証する内在化
英語らしさを検証する、ネイティブの思考の人は実際にどのようにこの動詞を使うのか?ネイティブの人との単語の使い方や、実際の語法を学ぶ・真似る事で、英語脳そのものを形成することができます。ここでは、英語らしさ=英語脳と考えます。
大人も実践・英語脳の作り方
Step1 英語のコアイメージをつかむ
英単語を覚えるときは単語のコアイメージをつかみ、自分で英語のスキーマを作れるように意識する。英語と日本語の言葉の定義は異なることが多く、言葉で説明しても限界があるので、視覚的に捉えるのもおすすめです。
単語や文法をイメージで説明するテキストもおすすめ
「イメージでわかる表現英文法」
✔️英単語のコアイメージをつかむ
✔️英語スキーマを作り上げる
Step2 文型を意識して基本動詞を使う
基本動詞は英語のコアイメージが集約されていることが多く、前置詞を組み合わせることで様々な意味を生み出してくれます。句動詞(動詞+前置詞)をマスターすれば、英語の感覚をつかめる他、感覚的に英語を操ることができるようになります。余裕があれば、無生物主語構文などを積極的に使ってみましょう。
基本動詞の使い方を説明したテキストもおすすめ
「英語は2語で何でも言える」
✔️「get」や「give」などの基本動詞のコアイメージをつかむ
✔️文型を意識しながら基本動詞+前置詞(句動詞)
✔️無生物主語構文などを積極的に使って英語の視点を獲得
Step3 英語の論理を意識したスピーキング
ネイティブの動詞感覚やコアイメージが掴めてきたら、次は実際に英語らしさが伝わる英語の論理を意識したトレーニングを実践していきます。先ほどを説明したつながり・まとまりを意識してスピーキング練習をしていきます。
英語スピーキングの方法を図式化したテキストもおすすめ
「英語スピーキングルールブック」
✔️つながり・まとまりを意識してスピーキング
✔️M(Main idea)P(Point)D(Detail)を意識
参考
認知神経科学 vol. 11 No1 2009 | 脳科学から見た効果的多言語学習のコツ
Nature | Distinct cortical areas associated with native and second languages
科学技術振興機構報 第21号 | 外国語習得も同じ「文法中枢」
科学技術振興機構報 第240号 | 「言語は特別-文法を担う大脳の部位を発見」
東京大学プレス | 言語の文法処理を支える3つの神経回路を発見
STUDY HACKER|もっと自然な英語が使えるようになる。「自動詞と他動詞」本質的な違いはこれだ!
The University of Auckland | Essay writingEssay writing, Achieving coherence
Sakai Lab, The University of Tokyo | 日本語も英語も活発になる部位は同じ
Department of English, Mie University | A Study of English Writing by Asian Learners