ディクトグロスとは?  おすすめの教材やアプリ・やり方も丁寧に解説 英語学習の効果とは?

はじめに

今回はディクトグロスについて考えていきます。まずはディクトグロスの言葉の定義やディクテーションとの違いを確認し、実践方法を丁寧に解説していきます。実はディクトグロスを実践することでバランスの取れたリスニングをすることができるようになり、知識を浅い理解から深い理解に転換させてくれます。英語学習への高い効果が期待できるので、ぜひディクトグロスに挑戦してみてください。

 

 

主な参考文献

 

「英語学習のメカニズム」

 

「科学的トレーニングで英語力は伸ばせる」

 

シャドーイングについて詳しく解説しています↓↓

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パターンプラクティスについて詳しく解説しています↓↓

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ディクトグロスとは?

ディクトグロスとは

言葉の定義・意味

ディクトグロス(Dictogloss)とはWajnryb (1990)が考案した英語学習のメソッドで、リスニングを頼りに英文を復元させるトレーニングです。クラスルームディクテーションと定義されているように、複数の学習者が協力してトレーニングするのも特徴です。

 

Dictogloss is a classroom dictation activity where learners are required to reconstruct a short text by listening and noting down key words, which are then used as a base for reconstruction.

引用:British councilDictogloss

 

後ほど詳しい実践方法を解説しますが、ポイントは英文の知識と聞こえた音声を総動員して英文を復元させていくことです。個人でも実践できますが、ペアやグループでトレーニングした方が自分では気づかない英語の穴に気づくことができるので、より効果が高まります。

 

  • A short, dense text is read (twice) to the learners at normal speed
  • As it is being read, the learners jot down familiar words and phrases
  • Working in small groups, the learners pool their battered texts and strive to reconstruct a version of the text from their shared resources
  • Each group of students produces its own reconstructed version, aiming at grammatical accuracy and textual cohesion but not at replicating the original text
  • The various versions are analyzed and compared and the students refine their own texts in the light of the shared scrutiny and discussion

引用:General procedure of the dictgloss, Wajnryb(1990)

ディクテーションとの違いは?

ディクトグロスとディクテーションの違いは、学習対象者や態度で大きく異なります。ディクテーションは英文の文法やスペルなどの形式に拘りますが、ディクトグロスでは形式な完全復元は求められません。多少形式が変化しても、内容が一致していれば大丈夫です。ディクテーションは個人で実践する活動ですが、ディクトグロスは共同で英文を複製していきます。トレーニングの態度はディクテーションはやや受動的ですが、ディクグロスは主体的に英文を再構築することが求められます。

 

ディクトグロスとディクテーションの違い

  ディクトグロス ディクテーション
注目点 内容 形式
対象 個人orグロープ 個人
態度 主体的 受動的

 

ディクトグロスの英語学習の効果

ディクトグロスの英語学習の効果

リスニング過程モデル

Vandergrift & Gohはリスニングのプロセスを以下のように示しました。英語の音声(speech)が3つの段階を経て処理されるというモデルです。スピーチが受容されると音素談話全体へのボトムアップ処理と、コンテクストや既有の知識(スキーマ)から意味を理解するトップダウン処理が同時に実行されると言われています。

 

スキーマについてはこちらで解説しています↓↓

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  1. 知覚処理(perception):音素や連続した音節のまとまりを認識
  2. 構文分析(parsing):メンタルレキシコンにアクセスして意味表象を構築
  3. 活用(utilization):語用論知識やスキーマを活用

 

リスニング過程モデル

引用:リスニング過程モデル(Vandergrift, L. & Goh, C., 2012)

実は、ディクトグロスは上記のボトムアップ処理を強化させることができます。私達はボトムアップ処理に自信がない時は、過度に背景知識を活用してしまう傾向があります。ディクグロスは聞いた音を丁寧に積み重ね・再構築するので、音声を頼りに英語を理解する習慣を身につけることができます。ディクトグロスを繰り返すことで、ボトムアップトップダウンのバランスの取れたリスニングを実行することができます。

 

浅い理解から深い理解へ変換

ディクトグロス実践すると様々な気づきが生まれ、「これはこの使い方で合ってたかな?」というように、英語の意味だけではなく形式にも目が行くようになります。様々な仮説検証や英文の再構成をすることで、浅い理解が深い理解へと転換されます。

 

ディクトグロスの効果

 

2012年にイランの大学でディクトグロスのライティング力向上の効果を検証する研究が実施されました。明示的な学習(伝統的な指導や練習問題を与える学習)をしたグループと、ディクトグロスを実践した生徒を比較したところ、ディクトグロスを実践したグループのほうが、事後テストの点数はほとんど減少しない結果となりました。

 

www.youtube.com

 

ゆかりんカレッジ」のYoutuneチャンネルで、ディクトグロスを勉強法を実践しているのでぜひ参考にしてみてください。ディクトグロスを実践する過程で、様々な気付きや英語の穴を発見していきます。冒頭でディクトグロスの効果も分かりやすく解説しています。

 

ディクトグロスのやり方(4ステップ)

ディクトグロスのやり方

Preparation(準備)

学習者はまず始めにトレーニグの準備として話の主旨や重要な語句について学びます。対象の英文に難しい語句があれば、書き取りの大きな妨げになってしまうのであらかじめ知らせておくことも大切です。Wajnrybが提示したディクトグロスのステップには明記がありませんでしたが、導入としては必要なステップです。

 

導入例

  • ディクトグロスの目的を伝える
  • ディクトグロスの方法を伝える
  • 英文が話されている場面や状況を伝える
  • 難しい語句や固有名詞などを提示

Dictation(書き取り)

学習者は短くまとまりのある内容の英文を2 回聞きます。英文は通常、英語母語話者が読み上げることになっていますが、英語教師やネイティブの音声が収録された音声を聞いてもかまいません。学習者は英文を聞いている間に適宜聞き取った単語や語句をメモしていきます。ポイントはメリハリをもって聞き取れたところや重要だと感じた部分を素早く書き留めることです。もし、全く音声が聞き取れない場合は以下の原因が考えられます。

 

英語が聞き取れない原因

  • 英単語と英文法の知識不足
  • 英語の発音に慣れていない
  • 英語の語順に慣れていない
  • スピードに慣れていない

 

英語が聞き取れない原因はこちらでも解説しています↓↓

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書き取りに挑戦しようとして、難しい場合はより易しい音声を選ぶことをおすすめします。急にネイティブスピードの教材を選ぶと挫折してしまう恐れがあるので、自分のレベルに合った教材を使っていきましょう。おすすめの教材などは最後に紹介します。

Reconstruction(再構築)

学習者は個人もしくは小グループを作りメモした単語や語句を手掛かりに内容を再構築していきます。全く同じ文章にする必要はなく、聞き取れなかった部分はメモや文脈から推測して文章を完成させていきます。

 

ディクトグロス

参考:Gassの第二言語習得の認知プロセスを参考に筆者が作成

 

第二言語習得研究の認知プロセスはこちらでも解説しています↓↓

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ディクトグロスによる英文の再構成は上記の第二言語習得の認知プロセスにおいては、理解を促す活動だとも言われています。例えば、リスニング音声の「weather」、「Tokyo」は単独では情報の意味(浅い理解)ですが、断片的に聞いた音声情報を文に再構成する際には、「何の前置詞を使うんだっけ?」「weatherにはtheを付けると学習したはずだ」などの仮説形成・仮説検証が行われます。ディクトグロスによって、実は浅い理解しかしてなかったという気付きや英語の穴を発見することができます。

Analysis(分析)

学習者はペアもしくは小グループで再構築したものを見比べていきます。リスニングした英文のスクリプト(原文)と自分が書いた文章を比較していきます。意味や文法が合っているかどうか確認し、間違っている場合はその原因を分析していきます。

ディクトグロス 気づき

引用:2018 年度版 |英語学習者の文法理解と協同学習による気づき

 

ディクトグロスの協同学習による気づきの研究をした結果によれば、ペアからも気づきで最も多かったのはスペルミスでした。学習者自信の気付きでは限界があるので、積極的に相手からフィードバックを受けることをおすすめします。

 

ディクトグロスにおすすめの教材やアプリ

ディクトグロスにおすすめの教材やアプリ

News in Levels(初級者向け)

英語学習者向けのニュースサイトで、レベルごと(1〜3)に記事が用意されているのが特徴です。まずはlevel1から進めていくのがおすすめです。慣れてきたらレベルアップしてきましょう。ニュースの分野(歴史や自然)をソートできるので、自分の興味のある分野だけ集中してトレーニングもできます。ディクトグロスの入門としては最適な素材になると思います。

 

www.newsinlevels.com

 

BBC Learning English(中級者向け)

イギリス英語でトレーニングしたい方におすすめです。BBCが提供する英語学習向けのサイトで、ジャンルごとに豊富なコンテンツがそろっています。ニュース、文法、語彙などラインアップが豊富で、初級者から上級者まで楽しめます。個人的におすすめなのが、語彙(Vocabulary)カテゴリにある「English In A Minute」とニュース(News)カテゴリにある「Lingohack」です。初級者の方は子供向けですが「Stories for Children」も良いかもしれません。

 

※「Note: This is not a word-for-word transcript」と記載があるコンテンツは完全に文字起こしされていないので注意してください。

 

www.bbc.co.uk

 

TED Talks(上級者向け)

TEDTechnology Entertainment Design)は、アメリカの非営利団体で定期的に世界的講演会「TED Conference」を開催(主催)しています。「TED Talks」は動画の無料配信プロジェクトで、2006年にスタートし現在では3,000以上の動画が公開されています。年々、英語学習用にバージョンアップしていて、対訳はもちろん多言語へ翻訳されていたり、音声スピードも調整できるようになっています。音声が進むと同時に、対訳のカーソルが移動するので聞き取れなかった箇所をすぐに確認できます。

 

www.ted.com

 

参考

British council|Dictogloss

日本教科教育学会誌|ディクテーションとの比較によるディクトグロスの文法知識の理解と活用の効果についての研究

アカデミック・ジャパニーズ・ジャーナル|中級学習者に対するディクトグロスの実践

日本英語検定協会|ディクトグロスを用いたリスニング能力を伸ばす指導

言語学習と教育言語学:2018 年度版 |英語学習者の文法理解と協同学習による気づき

Semantic ScholarThe Effect of Dictogloss Technique on Learners’ Writing Improvement in Terms of Writing Coherent Texts

JstageThe Potential Advantage of Dictogloss as an Assessment Tool for EFL Learner’s Proficiency

The Japan Foundation | 日本語教育通信 授業のヒント「ディクトグロス」をやってみよう!

ResearchgateAttention Control and The Effects of Online Training in Improving Connected Speech Perception by Learners of English As A Second Language