なぜネイティブ英語が聞き取れないのか?原因は? 単語耳と英語舌の作り方・外国語認知メカニズム

 はじめに

英語が聞き取れない原因は?

今回はなぜネイティブの英語・子音が聞き取れない?その原因や英語耳と英語舌の作り方を解説していきます。まぜ、日本人がネイティブの話す英語や子音を上手く聞き取れないのか?という原因について考えていきながら、外国語の認知メカニズムを明らかにします。まずは、外国語聴解に必要な要素(英語が聞き取れない原因)を整理します。その次は、理解される外国語音声の表出するために意識するべきことを確認します。それらの基礎理論を踏まえ、ネイティブの英語耳・英語舌を作りのための具体的なトレーニング方法を説明していきます。最後に、発音の学び方として、トレーニングにおすすめの教材を紹介していきます。

リスニング学習の全体像

今回のブログではリスニング力の音声認識・認知メカニズムに焦点をあてています。頭の中で日本語から英語に翻訳してしまうなどの問題に対してはチャンク学習(パターンプラクティス)がおすすめです。

 

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英語を聞き取るためには語彙力や基礎的な読解力も必要となりますので過去記事を参照してください。

 

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主な参考文献

 

「外国語音声の認知メカニズム」

 

スペリングと発音のしくみがわかる本」

 

「英語学習論 スピーキングと総合力」

 

「英語舌のつくり方」

 

「単語耳」

 

 

 

英語が聞き取れない原因は?

外国語の聴解に必要な要素

音素レベルの識別

外国語を聞き分けるためにまずは、私達が普段「音」とどう向き合っているのかを知る必要があります。実は日本語を話したり、聞いたりする時「音素」(phoneme)というかたちで音を識別しています。「音素」とは抽象的な音のまとまりで、音声学的に異なる音価であっても個別言語(日本語や英語)の中で同じと見なされる音の集まりを指します。ロシアの言語学者ボードゥアン・ド・クルトネが初めてその概念を提唱しました。

 

英語の母音の音素を下記のように無理やりあてはめてしまうと、正しく英語の音声を認知できなくなってしまいます。英語を学習するのであれば、英語の音素の世界で音声を認知して発話することが必要となります。

 

英語の音素

引用:なぜ日本語母語話者は英語の音を聞き誤るのか?

 

「音素」を音声学的に展開したものが「異音」です。「異音」は抽象的な音素を音声学的に具現化したもので、私達が普段日本語の音素の世界で生きていることを自覚させてくれます。英語を含む外国語の発音をマスターするには、まずは日本語の音素の世界から抜け出すことが必要となります。

 

音素

日本語では「とぼ」、「きか」、「テト」の下線部の発音は全て/n/としか認識されません。但し、音声学の世界では別々に認識されています。/n/を区別する外国語話者の人にとっては、/n/の異音として【ŋ】、【m】、【n】が認知されます。

 

英語と日本語の音声の違い

周波数

日本語の周波数は他の主要欧米言語に比べてやや低くなっています。個人差や男女差はあるものの、大きな違いがあると言えるでしょうか。US English(アメリカ英語)は若干共通の周波数はあるものの、UK Engkish(イギリス英語)に関しては周波数のレベルが全く異なります。この周波数の違いに着目した英語学習の方法や発話方法も多数存在しているようです。

 

言語の周波数

引用:Sound Frequencies of Language

 

ルフレッド・トマティス博士は各言語の「Bande Passante」(Preferential Frequency Band=優先周波数帯域)を発見し、耳鼻咽喉科の専門家チームとともに耳と声あるいはリスニングとコミュニケーションのスキルの間に存在する関係を明らかにしながら、TOMATISメソッドを開発しました。声は耳が聞くものによって決定されるという理論をもとに、リスニング力を高めるトレーニングを展開しています。

 

talk-first メソッド

引用:Talk-First 

 

TEDで有名になった脳科学研究者のパトリシア・クール氏は各言語の主要音素を分析し周波数のトライアングル構造を比較しています。各言語の周波数分析は今後も注目されていくかもしれません。

 

周波数のトライアングル

引用:Cross-language analysis of phonetic units in language addressed to infants,1997


 

↓↓興味のある方はチェックしてみてください

www.ted.com

 

音節

音節とは母音ひとつを中心とした音の単位を示します。日本語の一文字を分解してみると、「1子音+1母音」となります。例えば、「n a」 (な)「z e」(ぜ)というように、「子音 母音 子音 母音・・」と規則的に並ぶことが多くなっています。一方で英語は、母音一つ、その母音の前後に合計1~7つの子音がくっつき、一音節を形成していきます。

 

英語の音節

  1. 子音+母音:go [gou]
  2. 子音+子音+母音:play [plei]
  3. 子音+子音+母音+子音:great [greit]
  4. 子音+子音+子音+母音+子音+子音:strict [strikt]

 

上記の4つは全部母音がひとつしか入っていないので、一音節の単語となります。ネイティブスピーカーにとっては一つの音と感じているようで、事項で説明するリズムを形成するために大切な要素となってきます。

 

 ↓↓こちらの動画で英語の音節について分かりやすく説明されています

www.youtube.com

リズム

英語のリズムと強弱が分からないと、具体的な音声変化同化、フラップ化などに付いていけません。マクロ的な視点(強弱のリズム)と後述するミクロ的な視点(連結、同化、脱落)などの両面から音声に立ち向かっていくことが必要になってきます。

 

英語のリズム

 

日本語のリズムは一般的には一定のリズムが続きます。一方で、英語には必ず強弱のリズムがあります。英語の強弱リズムのとり方は、後述する英語舌の作り方で詳しく説明していきます。

理解される外国語音声を表出

理解される外国語音声を表出

音声学習の臨界期

人間の音素識別の臨界期は、乳児に対する実験的研究により生後10ヶ月程度であると報告されていましたが、近年は母語以外の音素は成人でも訓練によって識別可能と近年は解釈されるようになっているようです。今回のブログでは成人がいかに、母国語の音素に気づき、事項で説明する母語同一処理をしないようにするかに焦点をあてています。幼児教育に関心があったり、バイリンガルの子供を育てたいという特別な目的がない限り、音声学習の臨界期は気にする必要はありません。

 

英語の臨界期

引用: CRITICAL PERIOD IN SECOND LANGUAGE ACQUISITION Critical Evidence : A Test of the Critical Period Hypothesis for Second Language Acquisition

 

但し、アメリカなどの移民を受け入れる国は年齢と英語の流暢さの関係を明らかにしようとする研究が盛んに行われています。一般的には若い時にアメリカに渡ってきた人の方が英語を流暢に話すデータが出ています。

 

母語同一音声処理

英語を聞き取る時に特定の音素を聞き分けることができなかったり、あるいは英語を発話する時に日本語訛りになってしまうことはよくあります。その原因は、外国語を母語同一音声処理してしまうからです。母語の音声体系で代用してしまうと、当然母語からの干渉や影響を受けてしまいます。日本語と英語は音素・音節・単語レベルで音声特徴が大きく異なります。

 

母音の母語同一化音声処理

  • アと/æ//ɑ//ʌ/ /ə/
  • イ・エと/I//ɪ//ɜ/
  • ウと/ʊ/, /uː/

参考:外国語音声の認知メカニズム p136

 

 子音の母語同一化音声処理

  • thとサ・タ・ザ・ダ行、fやvとの混乱
  • fとフ、vとバ行の混乱
  • lやrとら行の混乱、/w/化
  • /ʃ//ʒ//ʧ/ /ʤ/の正確な区別
  • /t/、/d/、/s/、/z/とッとズの干渉
  • 明るい/l/と暗い/l/の区別、英語らしいrの発音
  • /p/、/t/、/k/の呼気の強さ
  • /w/の母音化

参考:外国語音声の認知メカニズム p136

 

音声学習には、母語からの影響を受けない独立した外国語専用の音声処理システムを、聴覚器官、脳、調音器官に構築していくことが必要になると言われています。 相手に理解されやすい音声を出すには、母国語と区別させることが大切です。

 

理解容易性を上げる

話し手にストレスをかけることなく英語を理解してもらうために、理解容易性を上げることが必要となります。母音・子音を正しく発話できない(理解不可能な誤り)、苛立った滑稽な誤り(弱形や音声変化)、韻律(影響の小さい誤り)があると、理解容易性を下げてしまいます。私達が無自覚になってしまうのは、同じ日本人が話す英語は私達にとって理解容易性が高くなってしまっているからです。 

 

誤りの許容度と深刻度

  • 第1種 言語として認識されない理解不能な誤り:母音に関する間違い、硬音・弱子音と軟音、子音のまとまり・音節構造、意味にかかわる子音の区別、/h/の脱落、単語の強勢
  • 第2種 苛立った滑稽な誤り:/r/の発音、子音の誤り、微妙な母音の誤り、/l/の発音(明るいL、暗いL)、弱形や音声変化、不適切な間の位置
  • 第3種 影響の小さい誤り:韻律、音節主音的子音(子音+/l/)、第二強勢

引用:外国語音声の認知メカニズム p65

 

上記の表は、多国籍の話者を対象として、英語圏で実施された実証研究に基づいて作成されたものです。特に、音節を作り出す母音の間違いと単語の強勢を間違ってしまうと、相手に全く伝わらないという事態に陥ってしまうので注意が必要です。

 

モニタリング

日常生活で母国語を使用する時は、誤りなどを瞬時に修正して流暢に話すことができます。実は私達の脳の中で言語活動が絶えずモニタリングされています。日本語であればそれらは無意識に行われています。英語を含む外国語を話す時には、まずは発言内容を組み立てて、思った通りに表出できているかを、脳内にあるモニターで意識的に監視していくことが求められます。 

 

モニタリング

 

ネイティブのような単語耳作り

ネイティブのような単語耳作り

全ての音を聞き取らない

英語を聞き取る(リスニング力を高めるためには)まずは英語の子音・母音の全ての発音をマスターする必要があります。但し、「話される単語の子音、母音をすべて聞き取らなければいけない」わけではありません。実際のネイティブが話す英語の2〜3割は手を抜いて話されています。発音記号通りに発音されているケースの方が少ないの実態のようです。

 

ネイティブはアクセントのある箇所だけをしっかり発音をして、その他の音は脳で補っているのです。一方で、英語を均一にアクセンをつけて発話してしまうと、ネイティブも単語の予測ができなくなってしまいます。どこに力を入れて、他は手を抜いて良いかを体得するには、しっかりとした母音と子音の発音がしっかりできるのが大前とはなってきます。

アクセントのある音節で単語を識別する

実際に自分の脳にある単語データベースからどうやって単語を識別するかと言えば、音節によって単語を予測することができます。リーディングの際にはできませんが、リスニングでは可能です。ネイティブ・スピーカーは会話の際に英単語を引っ張りやすいように、脳に英単語を整理・格納しています。

アクセントのある音節

例えば、英語では[s]音で始まる単語が一番多く、[s]で始まる音節を含み、そこにアクセントがくる単語は1,500語ほどあります。数は多いですが、[s+子音+母音]で検索すると、10〜20に絞ることができます。ネイティブは絞り込み(先読み処理)を無意識に行って、英会話を効率よく理解しています。

  

英語耳作りの実践方法

子音・母音の発音方法を習得

例えば、[s]という発音を学ぶ際は、母国語同一音声処理して日本語のシ[ʃi/]にならないように注意することです。発音の教材などを使って[s]の音の出し方をマスターしたら、[s]が語頭にある単語を列挙しながら発音の練習を繰り返していきます。

 

[s]が語頭にある単語

  • see
  • sea
  • seem
  • city
  • sys-tem
  • sim-ply
  • sim-ple

 

レーニングを繰り返していくと、発音で単語を覚えていく感覚を得られます。インプットの際にスムーズに音声処理されるだけではなく、アウトプットの際にも土台になるので丁寧に練習を進めていきます。

音声変化のルールを学ぶ

英語には様々な音声変化があります。代表的な連結、同化、脱落の3つです。最低限この3つをマスターしていれば大丈夫です。

 

代表的な音声変化

連結:単語と単語の音がつながる現象

同化:2つの単語がくっついて音が変化する現象

脱落:文末の破裂音や子音が発音されなくなる現象

 

こちらの過去記事で詳しく説明していますので、参照してください。 

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英語舌作りのステップ

英語舌作りのステップ

内容語と機能語に強弱

英語の品詞は「内容語」と「機能語」に分かれています。内容語は文字通り文の中で大切な内容を伝える単語です

  • 内容語:名詞、動詞、形容詞、副詞、指示・所有代名詞、疑問詞、再帰代名詞
  • 機能語:人称代名詞、助動詞、前置詞、冠詞、接続詞、関係代名詞

内容語は大きく、はっきりと長く発音され、機能語は小さく、速く、短く発音される特徴があります。機能語は弱形化されやすくリエゾンや脱落の対象になります。

 

内容語と機能語

 

弱拍・強拍を作って英語の波を作る

内容語と機能語に分類ができたら、それぞれに拍を入れていきます。内容語はそのまま強くはっきりと拍を入れ、機能語には弱い拍を入れていきます。機能語は/h/音やthが脱落したりします。

 

文章に弱拍・強拍を入れる

 

ネイティブの発音を平坦なリズムに変換したものと、日本人の発音を強弱リズムに変換したものをネイティブスピーカーに聞かせた実験を行ったところ、後者の日本人発音を強弱リズムに乗せたものがより理解が高い結果となりました。多少発音が間違っていても、強弱リズムに乗せることで伝わる英語となります。

イントネーション

最後は英語の音程(ピッチ)をマスターして、正しいイントネーションで英語を発話する ステップです。英語には大きく分けて4つのピッチがあります。発音を始める高さは2のノーマルからですが、文の形態などによってピッチが上下していきます。

 

イントネーション 

ネイティブスピーカーはこの4つのピッチをフル活用しています。大切なのはパターンに従って多少大げさになってもいいから真似ることです。パターンを無視して日本語を話すようなイントネーションで話してしまうと、全く相手に伝わらない英語をは話すことになってしまいます。

 

英語舌の作り方

 

リスニング教材などに上記の3ステップで音声を自分で整理すると自然と英語舌が定着していきます。

 

発音の学び方(実践編)

発音の学び方

英語の発音が正しくなる本

まずは、ボトムアップ的に英語の発音を正しく身につけるためにおすすなのが、「DVD&CDでマスター 英語の発音が正しくなる本」です。基礎的な母音と子音の発話方法をDVD、CD、テキストを使って始めから丁寧に学習することができます。Youtubeなどで発話方法を練習するのも良いですが、本書は一般的な英語の発音が録音されているので、安心して学習をすすめることができます。

 

英語の発音が正しくなる本

 

基礎編の主要母音と子音をマスターするだけで、英語の聞こえ方が変わってくるのが実感できます。使用される単語も中学で既得したものばかりで、負荷なく発音の練習をすすることができます。

 

英語の発音が正しくなる本

 

 

 

英語の発音ジム

「通じる発音」と「聞き取れる発音」をマスターすることをコンセプトに日本人が間違いやすいポイントを矯正するために11のミッションのクリアを目指していきます。対話方式になっているため、理論を理解しながら着実にトレーニングを進めることができます。著者の高山氏は発音指導のスペシャリストでNHKラジオの「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ」の監修も務めています。

 

英語の発音ジム

 

11のミッション

  1. 余分な「あいうえお」を切り離せ!
  2. 音のかたまりを教えよ!
  3. 「強く・高く・長く・はっきりと」発音せよ!
  4. 子音のかたまりは一気に発音せよ!
  5. こどもとお母さんをくっつけよ!
  6. 音変化に挑戦せよ!
  7. 音を落とせ!
  8. 文をリズミカルに発音せよ!
  9. 音程をコントロールせよ!
  10. 音と文字を一致させよ!
  11. 母音読みにのルールを身につけよ!

 

各ミッションは問題点→解決策→トレーニングという構成になっているので、一つ一つのミッションを達成することでリスニング力を高めることができます。

 

大学受験 リスニングマスター

本書は大学受験向けのリスニング教材ですが、一般の英語学習者におすすめの教材です。音声の話されるスピードも速く、上記の2つの教材を終えた総仕上げに最適です。演習問題を解きながら、音声変化のポイントも復習できるのでおすすめの一冊です。

 

リスニングマスター

 

  • Unit1 単語内の音を聞き取ろう
  • Unit2 単語間の音を聞き取ろう(1)
  • Unit3 単語間の音を聞き取ろう(2)
  • Unit4 弱い・速い音を聞き取ろう
  • Unit5 強い音を聞き取ろう

 

スクリプトが別冊になっているので復習がしやすく なっています。聞き取れなかった音声変化に印をつけたり、強弱やイントネーションを考えたりすればより学習の効果が上がります。

 

リスニングマスター スクリプト

 

 

 

参考

立命館大学研究活動報|なぜ日本語母語話者は英語の音を聞き誤るのか?

Medium | Sound Frequencies of Language

Talk-first | The Tomatis Method®

Institute for Learning & Brain SciencesCross-language analysis of phonetic units in language addressed to infants. 

TEDThe linguistic genius of babies

Semantic ScholarCRITICAL PERIOD IN SECOND LANGUAGE ACQUISITION Critical Evidence : A Test of the Critical Period Hypothesis for Second Language Acquisition