はじめに
今回は「負の感情をなくすべき?」という問いについて考えていきます。負の感情は排除するのが良いのでしょうか。実は人間にとって負の感情を抱くの当たり前のことのようです。そして、多くの心理学者は負の感情は自分を知る手がかりになると指摘しています。 ただし、そのまま放置してはだめです。感情の種類を整理してコントロールする必要があります。負の感情を整える、活かす、受け入れる3つの大切な向き合い方を紹介していきます。
負の感情とは?
負の感情を抱くのは当然
負の感情とはマイナス面に向かう気持ちで、一般的には怒りや不安を指すことが多いでしょう。心理学者ロバート・プルチックは負の感情と正の感情を合わせた「The Emotion Wheel」(感情の輪)を考案しました。8つの基本感情は怒り、恐れ、期待、驚き、喜び、悲しみ、信頼、嫌悪を表しています。そして、感情は内側にいくほどより強い感情を示しています。この感情の輪では、負の感情と思われる恐れや嫌悪も重要な基本感情と認識しています。
引用:Plutchik’s Wheel of Emotions: Exploring the Emotion Wheel
ロバート氏は基本感情を提示するだけではなく、特定の感情が湧き出る頻度や関係性も整理しています。愛は喜びと信頼によって生まれるよく感じる感情。罪悪感は喜びと恐れによって生じるというのも興味深いですね。喜び⇄悲しみは感情の輪からも見て分かります。私たちが普段感じる感情は基本の8つの感情の組み合わせで成り立っているということであれば、恐れや悲しみの負の感情も大切な感情の源泉と言えるでしょう。
引用:「EMOTION: A Psychoevolutionary Synthesis」Robert Plutchik; Harper & Row, Publishers (1980)から一部引用
負の感情を排除のだめ?
ネガティブな感情や憂鬱な気持ちになってしまったらどうすれば良いのでしょうか。負の感情と格闘するべきでしょうか。実は、ネガティブな気持ちは否定せずに受け止めることが必要なようです。トロント大学のブレット・フォード氏とカリフォルニア大学のアイリス・モース氏らが行った研究によれば、ネガティブな感情を排除しようとすると、そうした負の感情が強化してしまうことが明らかになりました。
- ネガティブな感情を受け入れると、感情の起伏に耐える心の「筋肉」が育つ
- ネガティブな感情を素直に受け入れて流す」ことで、結果的に心を健康に保てる
負の感情を整える
Healthlineの記事では感情を整理する方法を4つのステップに分けて紹介しています。他の記事も参考にしながら、一つ一つ見ていきましょう。
感情を整理する方法
- Figure out what you’re feeling(感情をつきとめる)
- Find out if this is a pattern( パターンを見つける)
- Watch out for these common distortions(共通のねじれに注意)
- Break down your worries with a journal exercise(日記で心配を解消)
引用:Healthline|The No BS Guide to Organizing Your Feelings
「so what?」(だから何?)エクササイズ
最初のステップは感情の掘り起こしです。感情の根底に横たわっている事実や状況を把握することです。記事の中では一つの事例を使って説明しています。
あなたは理不尽にも、周囲の人間に自分のスケジュールを変更されるようにお願いされて憤りを感じたとします。その時に有効なのが「だから何?」と、その事実が何を意味しているのか掘り起こしていきます。よくよく考えてみると、スケジュールを変更しないと自分は一人で行動するはめになって、孤独になってしまうという事実が明らかになりました。
- 「彼らが自分たちに合うようにスケジュールを変更させたいと思っている」
- 「だから何?」
- 「だから彼らは自分たちの行いが私の行動よりも重要だと思っている」
- 「だから何?」
- 「だから彼らは私に不便をかけてもしかたないと思っている」
- 「だから何?」
- 「だから彼らと一緒に行動したいのであれば、私は彼らに従う必要がある」
- 「だから何?」
- 「だからスケジュールを変更しないと孤独になってしまう」
認知のゆがみ(Cognitive Distortions)
第2、3ステップは、認知のゆがみ(Cognitive Distortions)を見つけて、その思考パターンを取り除いていくことです。
代表的な認知の歪み(Cognitive Distortions)
- Filtering(フィルタリング)
- Polarized Thinking(二極化思考)
- Overgeneralization(過剰一般化)
- Jumping to Conclusions(結論への飛躍)
- Catastrophizing(壊滅思考)
- Personalization(パーソナライゼーション)
- Control Fallacies(コントロール思考)
- Fallacy of Fairness(誤った公平性)
- Blaming(非難)
- Shoulds(〜すべき思考)
- Emotional Reasoning(感情の推論)
- Fallacy of Change(誤った変化への期待)
- Global Labeling(誤ラベリング)
- Always Being Right(常に正しい)
- Heaven’s Reward Fallacy(誤った天国からの報酬思考)
引用:Psychcentral|15 Common Cognitive Distortions
THRIVE UNIONがまとめた動画から認知のゆがみ(Cognitive Distortions)を取り除く法方法を見ていきましょう。最初のステップは、メタ認知(metacognition)を意識することです。認知のゆがみをしている自分を見つけて、思考が歪んでいる自分とありのままの自分(who you are )を分けていきます。
第2のステップは、「never」とか「always」の思考をやめたり、自分を怠け者だとか非難しないこと。自分自身を植物のように種をまいて芽が出て少しずつ成長させて、育てることができると信じること。自分は変化できると強く思うこと。
第3のステップは負の感情が出てきたら、同じようにポジティブな時間を与えてやること。例えば恋人と喧嘩したら、彼女の良いところを3つあげたり、日頃から感謝していることを探してみましょう。
最後のステップは、勇気をもって現実を見ること。不安になったら、彼らが本当は何を考えているのか聞いてみること。そして、彼らを信じること。相手に悪影響を与えているのは常に自分だと思わないで、「どうしてそんな気持ちになったの?」と声をかけてみることが大切。認知のゆがみを取り除くことで現実を見つめながら、ポジティブな時間と一緒にバランスよく生きることができます。
感情の日記
最後は、感情の日記をつけることです。毎日の感情を書き留めることで、感情の変化や出来事のつながりを見つけることができます。ポジティブなつながりは今後の参考になるはずです。負の感情の連鎖が見つかったら、それをどう解体できるか考えることができます。
- Emotion name
- What caused this emotion?
- Behaviors or actions this emotion caused me to take
- Is this emotion appropriate to the situation?
- Is this situation a distress to be tolerated or a problem to solve? And how?
引用:Healthline|How to Get Started on Controlling Your Emotions
例えば、夕食後子供がうるさくて叱ってしまった日があったとしましょう。その行動の背後にある感情は「怒り」(感情の基本要素から探す)だと発見しました。仕事を振り返ってみるとストレスの多い一日だと気付きました。
そのストレスの原因は一体何だったでしょうか?自分をストレスフルにさせて出来事にに対して、「So what?」(だから何?)と自問自答してみましょう。自分が取るべき行動や解決方法が見えてくるかもしれません。
感情の日記を別のかたちで綴ることもできます。その日の感情や気持ちを色や天気で表すこともできます。もやもやした気持ちに形や名前を自分で与えることによって、気持ちを包み込み、感情を抑えることができるようです。
感情を身近なものに例えることで自分自身の気持ちがより身近になり、日々の変化により敏感になることができるようです。
- この感覚が色だったら、_________________
- この気持ちが天気なら________________
- この気持ちが風景であれば、_____________
- この感覚が音楽なら、________________
- この感情が目的であった場合、それは__________________
引用:psychcentral|4 Journaling Exercises to Help You Manage Your Emotions
負の感情を活かす
Karla McLaren氏は「共感」の先駆者であり研究者です。彼女は「感情」と「共感」は私たちが自然と備えている言語だと考えています。数々の名著を出版しています。
- The Language of Emotions: What Your Feelings Are Trying to Tell You (2010)
- The Art of Empathy: A Complete Guide to Life's Most Essential Skill (2013)
- Embracing Anxiety(June, 2020)
また、彼女は心配などの 「負の感情」は決してマイナスではなく、自分がやるべきことを示してくれる大切な感情だと考えています。
負の感情は神話
Karla McLaren氏によれば、ネガティブな感情にまつわる主張はほとんどが神話だと言うのです。特に感情をポジティブとネガティブと二項対立的に考えてしまうと、思考が固定的になり視野が狭くなると指摘しています。
健康的な負の感情は私たちに明確な示唆や指針を与えてくれます。健康的な恐怖は、現在の瞬間的な本能と直感をもたらし、健康的な不安は将来への叡智を与え、健康的な怒りは境界線を明確にし、人との関係維持を管理するのに役にたちます。
感情語のリストを理解する
例えば、悲しみの感情について考えてみましょう。悲しみという感情は一般的にマイナスのイメージをもってしまいがちで、何かの喪失をもたらすと考えられています。実は、悲しみは何かを手放す必要がある時のサインとして考える良いようです。
悲しみを感じた時には「何を解放する必要があるのか?」「何を蘇らせる必要があるのか?」と自問自答します。悲しみは、機能しないものを整理し、人生に変化をもたらしながら、機能するもののための余地を作る働きをもっています。
Soft Sadness(ソフトな悲しみ)
Contemplative ~ Disappointed ~ Disconnected ~ Distracted ~ Grounded ~ Listless ~ Low ~ Regretful ~ Steady ~ WistfulMedium Sadness, Depression, and Grief(中程度の悲しみ)
Dejected ~ Discouraged ~ Dispirited ~ Down ~ Downtrodden ~ Drained ~ Forlorn ~ Gloomy ~ Grieving ~ Heavy-hearted ~ Melancholy ~ Mournful ~ Sad ~ Sorrowful ~ Weepy ~ World-wearyIntense Sadness, Depression, and Grief(重い悲しみ)
Anguished ~ Bereaved ~ Bleak ~ Depressed ~ Despairing ~ Despondent ~ Grief-stricken ~ Heartbroken ~ Hopeless ~ Inconsolable ~ Morose
引用: karlamclaren|Your Emotional Vocabulary List
ただし、深い悲しみ(Intense Sadness)を感じたら、自分一人では解決できません。セラピストの力や病院にいくことも大切なようです。中程度の悲しみまでは、自分で新たな行動を生み出す活力になります。
感情のチャートを作る
感情のチャートの使い方は毎日の自分の感情を振り返ったり、それぞれの感情の結びつきを見つけるのに役にたちます。紫(怒りのグループ)、緑(恐れのグループ)、青(悲しみのグループ)、ピンク(幸せのグループ)の4つに分類されています。
感情をグループ化させることによって傾向が顕著になり、自分がするべき行動や解決の糸口が見つけやすくなります。感情を数値化させるのも良いですし、○などを付けて有無をつけるだけでもかまいません。
引用:karlamclaren|A Free Emotions Chart!
負の感情を受け入れる
消費者の視点
私たちはある商品を購入する時に、ブランドがしかける感情デザイン戦略の上で商品に出会い、購入をしています。私たちはある程度の不安や怒りがあることで、それを解決できる商品に出会い喜びを感じることができます。
企業は必死になって、私たちの悩みや苦しみである負の感情を取り除くために、研究を進めています。赤色とピンク色の部分を減らすための努力の結晶が商品でありサービスとなっています。過度な購買意欲はよくないかもしれませんが、負の感情を認めることで生活をより良くできるかもしれません。
引用:https://pkglobal.com/blog/2017/08/strategies-emotion-design/
変化の過程
私たちは人生の家庭で様々な変化に直面します。転職や進学、会社の組織変更など大小様々な生き方の変化を経験します。その家庭には必ず、感情の起伏が生まれます。「恐れ」や「恐怖」を経験することで「自分はいったい何者なのか?」と「絶望」に陥ることも多いはずです。
その瞬間にありのままの自分を受け入れて、「自分ができることを全力でやろう」と勇気をもって行動できるチャンスが生まれます。そのチャンスをつかむことができれば人格的に成長することができます。変化の過程で自然にわき起こる感情を否定してしまうと、変化そのものに適応できないかもしれません。あるいは、その環境の中で生きづらさを感じてしまうかもしれません。
引用:Ei4change|Emotional Intelligence 4 Change
ビジネスの現場で「これは最高に素晴らしいアイデアだ!」と気持ちが有頂天になってから、その気持ちを維持できるでしょうか。商品化するまで、何度も試作品を作ったり、コストが見合わなかったり。もうだめだと気持ちがどん底に落ちることもあります。「Emotonal Journey」にしたがえば、気持ちの浮き沈みは何かを達成するための旅で、負の感情が成功には必要不可欠だと考えます。
引用:Corporatespring|The Emotional Journey of Creating Something Great
(参考)
6seconds|Plutchik’s Wheel of Emotions: Exploring the Emotion Wheel
Robert Plutchik|EMOTION: A Psychoevolutionary Synthesis
Pubmed|The psychological health benefits of accepting negative emotions and thoughts
ThriveUnion|How to Stop Cognitive Distortions: Bad Thoughts and Poison Minds
Healthline|How to Get Started on Controlling Your Emotions
Psychcentral|4 Journaling Exercises to Help You Manage Your Emotions
Healthline|The No BS Guide to Organizing Your Feelings
Psychcentral|15 Common Cognitive Distortions
karlamclaren|Emotions and Empathy Are Your Natural Language
karlamclaren|The Myth of Negative Emotions
karlamclaren|Your Emotional Vocabulary List
karlamclaren|A Free Emotions Chart!
Pkglobal|Emotion design strategy: Eliminate pain and drive joy
Ei4change|Emotional Intelligence 4 Change
Corporatespring|The Emotional Journey of Creating Something Great