モノリンガルとは? メリット・デメリットを徹底解説  バイリンガルとの違いとは!?

はじめに

今回はモノリンガルについて考えていきます。モノリンガルは単一の言語を話す人やその主義を表します。モノリンガルの意味や脳の仕組みも解説していきます。日本のような単一の言語しか話さない国はどの国なのか、モノリンガル主義についても考えていきます。最後にモノリンガルとバイリンガルのメリット・デメリットを解説していきます。バイリンガル教育や言語学習のヒントもたくさん詰まっていますのでぜひ参考にしてください。

 

 

 多言語話者のメリットなどを解説しています↓↓

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主な参考文献

 

「よくわかる言語発達」

  

「レキシコンの構築」

 

「第2言語ユーザのことばと心」

モノリンガルとは?

モノリンガルとは

モノリンガルの意味

モノリンガルとは英語で「monolingual」で、ギリシア語系の接頭辞「mono」(1つの)に「lingua」と「言葉」、「al」(性質)という言葉が一緒になった言葉です。文字通り、1つの言語を話す人やそのグループを指します。

 

able to use one language well

(of a group or place) using one language as the main language

引用:Cambridge Dictionary

 

ケンブリッジディクショナリーによると、メインの言語(母語)を上手に使うことができるのが条件になっています。メインの言語を疎かににしてしまうと、セミリンガルになる危険もあります。詳しくは過去記事を見てください。

 

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話す言語が増えていくと「bi」(2)、「tri」(3)、「quadr」(4)と変化します。数字の1、2、3であればonetwothreeとなりそうですが、バイ(bi)、トリ(tri)、クワド(quadr)はそれぞれラテン語の数字に由来しています。

  

言語の数 英語名
1言語 monolingual(モノリンガル)
2言語 bilingual(バイリンガル)
3言語 trilingual(トリリンガル)
4言語 quadrilingual(クワドリンガル)
5言語 quinqulingual

 

トリリンガルはこちらで解説しています↓↓ 

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モノリンガルの脳

 モノリンガルの脳とバイリンガルの脳の構造そのものに違いはありませんが、モノリンガルとバイリンガルの脳を比較した研究はあるようです。モノリンガルの脳は前頭葉に依存する傾向があり、加齢と関連性があるようです。一方で、バイリンガルの脳は「temporal 」(側頭葉)と「parietal cortex」(頭頂葉)との行き来が増加していると報告されています。

 

モノリンガルの脳

引用:Cognitive control, cognitive reserve, and memory in the aging bilingual brain,2014

 

バイリンガル話者の言語切替による脳の機能的連結性の研究などもあり、今後もますます注目される研究分野かもしれません。特に、個別の言語刺激に対して脳の各分野でどのような反応があるのかが研究の中心になるようです。

 

モノリンガルの国

モノリンガルの国

モノリンガルの割合

世界全体でモノリンガルの割合は約40%と言われています。2ヶ国語を話せるバイリンガルは全体の43%、3ヶ国語を話せるトリリンガルは全体の13%となっています。世界の約6割の人は2ヶ国語以上の言語を話せるという結果になっています。

 

割合 言語
40% monolingual(モノリンガル)
43% bilingual(バイリンガル)
13% trilingual(トリリンガル)
3% Multilingual(マルチリンガル)
1%未満 Polyglot(ポリグロット)

 引用:ILANGUAGES.ORG | Multilingual People(調査年不明)

 

マルチリンガルになる勉強法などを解説↓↓

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モノリンガルの国

モノリンガルの国はいったいどこの国になるのでしょうか。完全なモノリンガル(単一言語を話すグループ)は存在していませんが、モノリンガルの傾向が高い・低い国は分かります。

 

世界の言語多様性

引用:What countries have the most languages?

 

Ethnologueが2021年に発表した言語の多様性ランキングでは、パプアニューギニアが1位となり、世界で最も言語が多い国となりました。人口はわずか880万人と小さいですが、合わせて840の言語が話されていて、その言語数は世界言語のほぼ12%にあたります。

 

一方で、最も多様性が低い国(つまりモノリンガルの国)は、イギリス領インド洋地域British Indian Ocean Territory)と北朝鮮で、1言語しか話されていない国となりました。日本は、詳細は不明ですが18の言語が話されているという結果で全体の117位という結果になりました。(全体は国と地域合わせて235カ国)

 

欧州モノリンガル

引用:What languages have high percentage of monolingual speakers?

 

ヨーロッパに絞って、モノリンガルの割合を調べた調査もあります。6年前の古いデータになりますが、欧州ではギリシャ(EL)、スペイン(ES)、イタリア(IT)、イギリス(UK)、アイルランド(IE)は二ヶ国語以上を話せる人の割合が2割未満となっており、モノリンガルの国の傾向が強いと言えるでしょう。

 

アメリカのモノリンガル主義

アメリカでは1970年代後半からバイリンガル教育への疑問視やヒスパニック系の移民の増加に対して、州単位でも英語公用語の動きが始まりました。2003年には23の州が英語を公用語として認めています。実は以外かもしれませんが、アメリカに国家単位での公用語の規定はありません。現在は32の州で英語が公用語として設定されています。

 

アメリカのモノリンガル主義

引用: Toward a Monolingual USA? The Modern English-Only Movement

 

アメリカの移民の数は世界で一番多く、2020年には5,000万人を突破しており移民国家とも言えます。国家を1つにまとめあげる英語の重要性も分かりつつも、バイリンガルワーカーの地位も着実に上っているようです。

 

www.bbc.com

 

YouGovの調査ではアメリカの43%の人は第二言語を学びたいと思っているという結果が出ました。他の28%の人は第二言語を話す必要はない、13%の人は旅行に行く時のみ基本的な知識が必要だと感じています。残りの15%の人は、その言語が主要な世界言語である場合にのみ必要性を感じると回答しています。

 

アメリカの第二言語

引用:75% of Americans have no second language,2013

 

おそらくアメリカ人にとって世界的に重要な言語の1つとして挙げられるのはスペイン語となるでしょう。アメリカに渡ってくるヒスパニック系の人の存在を無視することはできません。Pew Research Center が2013年に実施した調査によると、スペイン語しか話せない人が38%と一番多い結果となりました。

 

ヒスパニック系のバイリンガル

引用:A majority of English-speaking Hispanics in the U.S. are bilingual

 

モノリンガル・バイリンガル(メリット・デメリット)

メリット・デメリット

語彙サイズの広さ

2008年に神経言語学の雑誌で紹介された研究では、モノリンガルはバイリンガルよりも語彙力が豊富で、流暢に話すという結果が出ています。但し、バイリンガルのそれぞれの語彙サイズを足すと、モノリンガルと同じ語彙サイズになるとも指摘されています。つまり、モノリンガルは単一の言語に集中できるので、その言語では優位性があるということになります。一方で、バイリンガルの語彙量はそれぞれの言語に分散されてしまいます。

 

語彙サイズ

引用:Lexical access in bilinguals: Effects of vocabulary size and executive contro,2008

 

モノリンガルの流暢性が多言語を学ぶことによって、どれぐらい下がってしまうのかが気になるところです。2014年に実施された研究によれば、周囲の環境によりますが語彙力は10〜30%減少してしまいます。

 

モノリンガルの語彙サイズ

引用:Expressive Vocabulary Development in Children from Bilingual and Monolingual Homes: A Longitudinal Study from Two to Four Years, 2014

 

メンタルヘルス

複数の言語を話すことは、脳の健康に寄与するという研究成果が数多く報告されています。2007年にカナダで行われた研究によれば、バイリンガルの人はモノリンガルの人より認知症の発症を4年遅らせるという結果が出ています。

 

project.nikkeibp.co.jp

 

また、別の研究では認知症患者の進行具合が同程度のモノリンガル・バイリンガル患者の脳をスキャナーによって調べたところ、バイリンガルの患者の方が脳が萎縮しているという結果が出ました。つまり、複数の言語を話すことによって脳機能が低下がしないように何かによって守られているということが示唆されています。

 

柔軟性

バイリンガルはモノリンガルよりも認知的柔軟性が高いという研究が数多く報告されています。出生直後ではモノリンガル・バイリンガルともに母語とそれ以外の音を区別できるという点では共通しています。その後、モノリンガルは母語音韻のみを聞けるように音韻の弁別能力が減少するのに対して、バイリンガルは多少の変動はあるものの弁別能力は失われません。

 

柔軟性

 

認知的柔軟性においては、モノリンガルは基本的に1つの単語に対して1つのラベルしか許容できませんが、バイリンガルは常に異言語間同義語を獲得する必要があるので、認知柔軟性を高く保つことができます。

 

Bialystok,1999の実験では、子ども達に一つ目のルール (例えば同じ形のものを分類する) でカードを分類するように教示し、その後新しいルール (例えば、同じ色のものを分類する) で分類するよう教示した時に、バイリンガルの子どもがモノリンガルよりも柔軟にルールを切り替えることができるという結果が出ました。

 

メンタルレキシコン

バイリンガルの認知はモノリンガルに比べやや複雑な構造になっていると言われています。バイリンガルの情報認知のシステムにおいて、最初に提案されたのが階層モデル(Kroll& Stewart,1994)になります。階層モデルの最大の特徴は、全ての概念(意味要素)をL1とL2で共有していることです。一方で、モノリンガルは当然ですが単一の言語形式と概念が強く連結されています。

 

メンタルレキシコン 

但し、階層モデルでは言語間の意味領域の差異をうまく説明できていないことから、特徴要素モデル(De Groot, 1995)も提唱されています。特徴要素モデルでは、L1とL2それぞれ固有の語彙が存在すると主張しています。

 

メンタルレキシコン2

  

参考

Cambridge Dictionary

WikipediaMonolingualism

Dana FoundationThe Cognitive Benefits of Being Bilingual

Researchgate | Cognitive control, cognitive reserve, and memory in the aging bilingual brain

ILANGUAGES.ORG | Multilingual People

Science Direct | Lexical access in bilinguals: Effects of vocabulary size and executive control

Europe pmc |  Expressive Vocabulary Development in Children from Bilingual and Monolingual Homes: A Longitudinal Study from Two to Four Years.

Ethnologue What countries have the most languages?

ATLAS & BOOTS | WORLD’S MOST MULTILINGUAL COUNTRIES – RANKED

reddit | What languages have high percentage of monolingual speakers?

立命館大学 |  論説 アメリカにおけるバイリンガル教育と英語公用語化の是非論

Colorincolorado | Toward a Monolingual USA? The Modern English-Only Movement

YouGov |  75% of Americans have no second language

Pew Research Center A majority of English-speaking Hispanics in the U.S. are bilingual

Science direct | Lexical access in bilinguals: Effects of vocabulary size and executive control

Biology news | Canadian study shows bilingualism has protective effect in delaying onset of dementia by four years

Wiley Online Library | Cognitive Complexity and Attentional Control in the Bilingual Mind