ビジュアルシンカーとは? ビジュアルシンキングの最新研究も紹介・日本人の6割が実践すべき英語学習方法とは!?

はじめに

ビジュアルシンカー

今回は近年その存在が注目されているビジュアルシンカーについて考えていきたいと思います。視覚的戦略思考やビジュアルシンキングの最新研究を紹介しながら、視覚と記憶のメカニズムについても考察をすすめ、最後にビジュアルシンカーが実践すべき英語学習についても考えていきたいと思います。

 

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主な参考文献

 

「ビジュアル・シンカーの脳: 「絵」で考える人々の世界」

 

「13歳からのアート思考」

 

ビジュアルシンカー

ビジュアルシンカー

ビジュアルシンカーとは

動物学博士テンプル・グランディン氏は世の中には視覚で考える人と、言葉で考える人がいるとし、視覚や絵で考える人をビジュアル・シンカーと呼んでいます。視覚優位か言語優位かは連続していて、なかには極端に偏っている人もいますが、多くの人は両者の間のどこかに位置するとされています。

 

↓↓世界中のビジュアルシンカーを救った動画

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今の授業や標準テストは言語思考者向けで、才能ある視覚思考者をふるい落としてしまっている可能性があるとしています。物事の捉え方やアプローチは人によって異なり、当然、編み出される解決方法も千差万別のはずです。現在の社会課題は多種多様で、異なる思考方法を持つ人たちが協力し、多様な解決方法で挑むほうがよく、その点でビジュアル・シンカーが注目されています。

ビジュアルシンカーの特徴

ビジュアルシンカーは頭のなかで具体的なイメージを操作する「物体視覚思考者」と、抽象的なパターンや概念で物事を捉える「空間視覚思考者」に分けられます。前者には機械設計者や画家が多く、後者は数学が必要とされる職業者に多いとされています。脳の多様性によって知覚情報の処理の仕方が違い、問題解決や創造の仕方が異なります。

 

  • 物体視覚思考者:頭のなかで具体的なイメージを操作
  • 空間視覚思考者:抽象的なパターンや概念で物事を捉える

 

そもそも私たちの社会は、人を多様な尺度で評価できるようになっているのかは疑問です。様々な思考タイプの人たちが自然と出会い、組み合わせられるように、社会の仕組み自体を少し変えるべきかもしれないという議論もされ始めています。

 

視覚思考判定テスト

  • 考える時には、言葉ではなく、主に絵を使う
  • 物事がわかるが、その方法や理由は説明できない
  • ふつう違う方法で問題を解決する
  • 物事をありありと想像する
  • 見た事はぼんやり覚えているが、耳で聞いた事は忘れる
  • 単語をつづるのが苦手
  • 物体をいろいろな視点から思い浮かべることができる
  • 整理整頓が苦手
  • 時間の経過がわからなくなることがよくある
  • 行く先は言葉よりも、地図を見た方がよくわかる
  • 一度しか行った事のない場所も道順を覚えている
  • 字を書くのが遅く、他の人には読みづらい
  • 他の人の気持ちがわかる
  • 音楽か美術か機械がとくい
  • 周囲が思っている以上に物知り
  • 人前で話すのが苦手
  • 歳を重ねるごとに賢くなっている
  • コンピューターに熱中する

上記の視覚思考判定テストですが、10個以上あてはまる方はビジュアルシンカーである可能性が高いと言えます。

ビジュアルシンキング

ビジュアルシンキング

ビジュアルシンキングとは

ビジュアルシンキングという言葉は1969 年、知覚心理学者のルドルフ・アルンハイムによって作られました。視覚的思考は他の言語と同様、要素 (視覚的なアルファベット)、ノード (単語)、リンクとフレームワーク (文法)、およびアプローチ (スタイル) を学ぶ必要があるとし、世界を理解する最も自然な方法と評価しました。

 

リーダーシップ開発の専門家トッド氏によると、ビジュアルシンキングをコミュニケーションに活かすことができれば、より効果的なイノベーター、コミュニケーター、マネージャー、リーダーになれると主張しています。

 

↓↓リーダーシップ開発の専門家トッド氏が語るビジュアルシンキング

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児童発達理論家のリンダ・クレーガー・シルバーマン氏の研究によると、視覚的・空間的思考を強く利用している人は人口の30%未満で、さらに45%がその両方を活用し、残りの25%がもっぱら言葉で思考しているとされています。彼の研究によると、他のすべての思考形式よりも視覚的/空間的思考を使用する人はごくわずかで、その人たちを真の画像思考者と呼んでいます。

ビジュアルシンキングの効果

ビジュアルシンキングはアイデアを素早く伝える長けており、日常の伝達やビジネスの現場でも有効な思考方法です。下記のように思考を視覚的にシンプルに整理することが可能です。

 

ビジュアルシンキング

引用:Thinking Maps Visual Thinking Tools A presentation By Violet DeLuna A strategy that makes learning any subject easier

 

単純な図形や線を描くだけでも、言葉だけでは表現できない複雑なアイデアが伝わりやすくなります。前述したように意外と多くの人がビジュアル思考をすることから、言葉だけではうまく伝わらない場合は、意思伝達の有効な手段と言えます。ビジュアルを使うことで、情報をスピーディに処理し、長期にわたってその情報を思い出せるようになります。また、アイデアを整理して形にすることで、見る人にとってもその背後にある思考が理解しやすくなります。

 

ビジュアルシンキングと意思決定

引用:Decision making with visualizations: a cognitive framework across disciplines

 

また、私たちは2Dの画像を使用されている記事よりも、3D画像が記載されている記事の方がより科学的だと評価する傾向もあるようです。

アートの力

アート

視覚的思考戦略(VTS)とは

では視覚的思考が苦手な人はどうすれば良いでしょうか?心配は必要ありません。認知心理学者のアビゲイル・ハウセン氏と当時ニューヨーク近代美術館で部長を務めていたフィリップ・イエナウィネア氏は、ビジュアルシンキング力を養成する視覚的思考戦略(Visual Thinking Strategy)を開発しました。芸術を観察し議論することによって、画像や情報を説明、分析、解釈する生徒の能力を向上させる探究ベースの教育方法でもあります。

 

視覚的思考戦略

 

具体的には、あるアート作品を見て、下記の3つの問いを考えることによって作品を説明、分析、解釈するトレーニングとなります。訓練者が自分で実践するよりは、ファシリレーターが問いを引き出すとより効果的だと言われています。

 

3つの問い

  1. What's going on in this picture?
  2. What do you see what makes you say that?
  3. What more can we find?

視覚的思考戦略の効果

視覚的思考戦略は芸術だけではなく、教育分野にも応用されています。ある研究によればVisual Thinking Strategy (VTS)の戦略を取り入れたところ、訓練を受けた生徒の読解力が向上したとも報告されています。

 

VTSの効果

引用:Eye of the Beholder: Research, Theory and Practice

 

米国の高等科学校で行われた調査では、Visual Thinking Strategy (VTS)の訓練を受けた後に論理的思考能力が向上したという結果が出ています。

 

VTSの効果

引用:Evaluating the Effectiveness of Visual Thinking Strategies

 

視覚と記憶

視覚と記憶

記憶の仕組み

少し記憶の仕組みについて考えていきます。私たちの記憶は感覚記憶→短期記憶を経て精緻化(イメージ化したり関連付けること)されたものが長期記憶に移されていきます。日々膨大な情報をインプットしていますが、長期記憶に貯蔵されるのは一部にしかすぎません。

アイコニックメモリ

感覚記憶は視覚からのアイコニックメモリと、聴覚からの感覚記憶のエコイックメモリの2つに分類されます。視覚からのアイコニックメモリの持続時間は約1秒以内とされています。たとえば私たちが外出をするとき。道ですれちがう人や建物にぶつからずに歩いていけるのは、目から次々に入ってくる光景を瞬間的に記憶にとどめるアイコニックメモリが働くからです。

アイコニックメモリ

アイコニックメモリは基本的には意味のない情報です。ですからその瞬間だけ記憶されて、その情報から離れたり通り過ぎたら思い出すことなく忘れてしまうことが大半です。

精緻化リハーサル

例えば、ある英単語を長期記憶に持っていくには、目で見た単語に注意を向けて、感覚記憶から短期記憶に移し、精緻化(リハーサル)をする必要があります。情報をイメージ化したり関連付ける精緻化をすることで覚えたい項目を長期記憶に保存することができます。また、イメージ化された情報は想起されやすいと言われています。

 

精緻化リハーサル

引用:ECCベストワン藤沢校 | 記憶の仕組みを知って暗記の達人になろう

脳のイメージ形成

では、精緻化を支えるイメージは脳内でどのように形成されているのでしょうか?イメージは情報を長期的に繋ぎ止めたり、想起しやすくしてくれます。下図によると、脳内のイメージは側頭葉のニューロンによって形成されるのが分かります。ニューロンの組み合わせによって、ニューロンの総数をはるかに上回る、無限に近い多くのイメージを形成させると言われています。

 

脳のイメージ形成

引用:色彩の不思議  第3回

 

脳と心は直結していますが、「心象」や「印象」はイメージと同じものです。イメージが浮かぶと何らかの心理作用が生じます。これを感覚といっています。イメージが持つ意味の解釈は小脳で行われますが、その感度は個人によって差があり、それを私たちは感性と呼びます。

心的イメージの世界

心的イメージ

心的イメージとは

上記の「心象」や「印象」は哲学や認知科学の分野では心的イメージ(mental image)と呼ばれています。心的イメージははこれまでの感覚的な記憶を頭の中で再現する能力です。

 

A mental image is an experience that, on most occasions, significantly resembles the experience of "perceiving" some object, event, or scene but occurs when the relevant object, event, or scene is not actually present to the senses.

 

心的イメージとイマジネーション(想像)の違いについて説明すると、心的イメージは、赤いリンゴをイメージしたり、アイスクリームの味を思い出したりするなど、感覚的な記憶を頭の中で再現する能力を指します。一方で、イマジネーションは、より抽象的な言葉で、頭の中で架空のシナリオや未来の出来事を想像する能力のことを指します。例えば、お菓子の家を想像できるかもしれません。しかしこれは、お菓子の家を頭の中で視覚化したり、味を再現したりすること(心的イメージ)とは異なります。

 

心のイメージ

引用:Wikipedia, mental image

 

心的イメージの物理的根拠は解明した研究があります。視覚的心的イメージの尺度であるVividness of Visual Imagery Questionnaire (VVIQ) スコアと、海馬、扁桃体一次運動野、一次視覚野、紡錘状回を含む脳構造の体積との関連性を調査しました。すると、視覚的なイメージと、海馬および一次視覚野の体積との間に有意な正の相関があることが判明しました。

概念メタファー

脳内のイメージ形成は記憶と密接に関わっていることは分かりましたが、それを上手に表出したり他者に伝えるにはどうすれば良いのでしょうか。ある概念領域を別の概念領域を用いて理解する事を認知言語学の用語で概念メタファーと呼びます。たとえば、私たちは「気分が高揚する」とか「気分が落ち込む」といった言い方をしますが、それは私たちが「哀楽」を「上下」になぞらえて理解しているからだと言えます。

 

  • 「楽しいは上、悲しいは下」(HAPPY IS UP; SAD IS DOWN)
  • 「良いは上、悪いは下」(GOOD IS UP; BAD IS DOWN)

 

人の感情から、「地位」などの社会的概念、そしてさらに「善悪」という抽象概念までもが、「上下」という人間の肉体感覚に根差した単純な概念によって理解されていると気づきます。これはメタファーが単なる言葉の綾ではなく、私たちの認知に深く根差した存在であるからです。アナロジーやメタファなど様々な用語や考え方は複雑ですが、下記のように整理されると理解しやすいのではないでしょうか。つまり、関係の共有と属性の共有の2つの軸ににって区別されます。

 

 

心的イメージ

引用:メタファーと意味の構造性 : プライマリー・メタファーおよびイメージ・スキーマとの関連から

 

私はイメージシンカーの人が上手に考えを伝えるための鍵は心的イメージ力を駆使してメタファーを有効に活用することだと思います。そして、その心的イメージの塊であるスキーマ(後ほど説明)を脳内にとどめることで、文法や語彙を脳内から取り出しやすくなると考えています。

 

ビジュアルで語彙と文法を強化する

語彙と文法

イメージスキーマ

イメージ・スキーマとは、身近な身体経験(自分自身を中心とした空間的位置の経験や、モノをつかんで位置を移動させるなどの身を持って経験できること)の中で、一定のパターンを認識し、心の中に貯えたものです。

 

代表的なイメージ・スキーマ

  • SourceからPathを通ってGoalに向かう
  • AとBがlinkしている
  • あるモノがContainerの中に入っている

 

 

イメージスキーマ

参考:Image Schemas: The Physics of Cultural Knowledge?

 

イメージ・スキーマは国籍や文化によって使用される頻度は異なりますが、言語を跨いだ共通の概念となっています。例えば「in」というイメージ・スキーマは、多くの人がボックスの中に何かがあるという図をイメージすることができます。私達は身近な身体経験を通して、対象となるモノの性質やサイズを乗り越えて、それらに共通する位置関係を概略のみを抽出しています。

 

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グラフィックオーガナイザー

グラフィックオーガナイザーは情報やアイデアをシンプルに整理して管理するのに使用する教育学習ツールです。グラフィックオーガナイザーを使えば、用語、事実、概念間の関係やつながりを、比較または定義する事ができるので、より内容を理解しやすくなります。

 

 

特別な補助を必要とする生徒にとって、グラフィックオーガナイザーが効果的な学習ツールであることが証明されていて、文章作成やアイデアをまとめる時など、目的に応じてさまざまなタイプのグラフィックオーガナイザーが、教育現場で使用されています。また、最近の研究では第二言語である英語学習において、グラフィックオーガナイザーを利用すると読解力が上がったという研究も報告されているようです。

相性が良いチャンキング

チャンキング(chunking)とは、複数の語を一つの塊(chunk)にまとめることです。人間の言語及び非言語情報処理は、符号化(coding)、貯蔵(storage)、検索(retrieval)の3段階から構成されていると考えられ、チャンキング(chunking)は符号化に寄与すると言われています。文章を視覚的な塊と捉えるチャンキングは、ビジュアルシンキングと相性が良いと言えます。

 

↓↓チャンキングを応用したパターンプラクティスを解説

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チャンキングの大きな利点は、処理の効率性(processsing efficiency)にあり、言語処理過程において、一つ一つの語に注意を向けるのではなく、一つの単位(unit)と処理されることで、それを認識したり産出する時間のスピードが早くなると言われています。

 

非選択原理の有効活用

連結項目(multi-word item)は上記のコロケーションが固定化したケースと考えられ、2語以上の語からなり意味的あるいは統語的に特定の意味を有する連続体と説明されています。以下が連結項目の具体例となります。連結項目を引き出すことで、適切な語句の選択や統語的に正しい文生成をする必要がなく、言語処理の認知負荷が軽くなると考えられています。

 

連結項目(multi-word item)の具体例

  • 複合語(compounds)
  • 句動詞(phrasal verbs)
  • イディオム(idioms)
  • 固定フレーズ(fixed phrases)
  • プレハブ(prefabs)

 

言語学者のJohn Sinclair氏は、長年のコーパス研究から文生成には自由選択原理(open-choice principle)と非選択原理(idiom principle)の2つの原理が働いていると指摘しました。チョムスキー的言語観では、文生成は規則体系システムに基づき創造的に行われるとされていますが、それだけではカバーできない領域については、固定的に使えるフレーズを記憶して、使用されると指摘しています。

2種類の文生成

ビジュアルシンカーの方はイディオムやチャンクを活用した反応速度が速い発話を実現できる非選択原理を有効活用すると良いでしょう。

 

↓↓こちらで解説しています

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ビジュアルシンカーの英語学習

英語学習

Step1 表現の背後にあるイメージを捉える

まずはStep1 では英語表現の背後にあるイメージを捉えましょう。イメージシンカーの方は英文法を定義で覚えるのではなく視覚的に理解するのがおすすめです。

 

↓文法のコアイメージをつかみましょう

表現英文法

 

「イメージでわかる表現英文法」

 

↓表現の背後にあるイメージを捉えましょう

絵でわかる英文法

 

「絵でわかる英文法」

Step2 文法のビジュアルと図式化

表現の背後にあるイメージを捉えることができたら、今後は文法を図式化していきましょう。「基本にカエル英語の本」は英文法学習の教材ですが、英語の文型の概念をバケツを使って分かりやすく説明しています。難しい文法用語全く使わずに、イラストなどを駆使して視覚的に理解できるようになっています。

 

基本にカエル英語の本

 

著者の石崎氏は英文法サイト『Get you!!English!!わかりやすい英文法』を運営しており、こちらでも英文法の学習をすることができます。初心者向けなので、すでに英文法を学習している方は、少し物足りなく感じるかもしれません。

 

基本にカエル英語の本2

 

「確かめよう」のパートには左側に日本文、右側に英訳が記載されているので、瞬間英作文を実践することもできます。丁寧に解説された文型知識を無理なく、インプットすることができます。

Step3 状況別パターンプラクティス

表現の背後にある捉え方を理解して、英語を図式化・パターン化できるようになったら、それを状況別に転換したり置換していく最終トレーニングに進みます。パターンプラクティスは文の基本例をもとに、その一部の単語を言い換えるトレーニングで、一般的には「置換」「転換」「拡張」の3つの作業を通して実践されます。

 

パターンプラクティスの主な3つの作業

  • 置換:His house is big→His house is small
  • 転換:His house is big→Is his house big?
  • 拡張:His house is big→His house is very big

 

「置換」は、一部の単語を言い換える最も基本的なパターンプラクティスです。「転換」は基本例を平叙文から疑問文へ、単文から重文へ、能動態から受動態などへ転換させる、「拡張」は形容詞や副詞などの要素を追加していくトレーニングとなっています。つまり、パターンプラクティスは単純な文から複雑な文へ変換させるトレーニングです。

 

↓↓下記の動画シリーズでパターンプラクティスに慣れてみましょう

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基本文のパターンプラクティスができるようになったら、今度は状況別のトレーニングに移っていきましょう。例えば、自己紹介という特定の状況に焦点をあてて徹底的に反復していきます。「自己紹介」という引き出しを準備しおけば、そこからの出し入れが容易になります。

 

↓↓Part2〜4も随時追加していきます

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参考

Grand Valley State University | Visual Thinking Strategies

Western Connecticut State University | THE EFFECTS OF VISUAL THINKING STRATEGIES ON READING ACHIEVEMENT OF STUDENTS WITH VARYING LEVELS OF MOTIVATION

Semantic Scholar | Evaluating the Effectiveness of Visual Thinking Strategies

Visual Understanding in Education | Eye of the Beholder: Research, Theory and Practice

Semantic Scholar | The Effect of Learning Strategies on Higher-Order Thinking Skills Students with Different Learning Styles

Semantic Scholar | The Effectiveness of Visual Mind Mapping Strategy for Improving English Language Learners' Critical Thinking Skills and Reading Ability

Semantic Scholar | Visual Thinking Strategies and Creativity in English Education

関西大学学術リポジトリ | メタファーと意味の構造性 : プライマリー・メタファーおよびイメージ・スキーマとの関連から

Coretokyo Web | 色彩のふしぎ 3

京都大学 | 視覚認知において色と形の情報が統合される仕組み -位置に依存しない物体記憶の生成-

ECCベストワン藤沢校 | 記憶の仕組みを知って暗記の達人になろう

Semantic Scholar | Fostering critical thinking using Graphic Organizers in English language reading class

リテリングとは?やり方・効果を解説 アウトプット重視英語学習法・3STEPの効果的インプット法とは!?

はじめに

今回はリテリング(retelling)を活かしたアウトプット重視英語学習方を紹介していきます。やり方や効果を解説していきます。言語習得にはインプットがもちろん大切ですが、アウトプット仮説によれば、構文への意識など様々な効果が期待されると言われています。その中でもリテリングは要約やパラフレーズを必要とするため、日頃からリテリングを意識する事で、インプット環境も劇的に変化させることが可能で、ぜひ、今後の英語学習の参考にしてみてください。

 

↓↓Youtubeチャンネルも随時英語学習の動画を追記しています

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参考文献

 

「リテリングを活用した英語指導」

 

「はじめての認知言語学

 

 「第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法」

 

第二言語習得の普遍性と個別性」

 

「英語エッセイ・ライティング」

 

リテリング

リテリングとは

リテリングとは

リテリング(retelling)とは見聞きした事を補助的なメモなどを参照しながら他者に伝える第二言語学習メソッドです。元々のリテリングの定義は下記のように、見聞きした情報を伝達する用語でしたが、第二言語学習の習得を促進する活動としても近年注目されています。

 

(Story) retelling is post reading or post listening recalls in which readers or listeners tell what they remember orally (Morrow, 1989)

 

英語指導法におけるストーリー・リテリング(story retelling)は学習者のアウトプットを自然な形で引き出す効果的な読後活動だと言われています。物語を聞いたり読んだりした後, キーワードや絵をヒントに,英文を再構成して自らの言葉で話す活動です。

 

↓↓ストリー・リテリングの方法が解説されています

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リテリングの手順・やり方

具体的なリテリングの手順は指導する教師や対象によって異なりますが、一般的に下記のプロセスで実践されるのが望ましいと考えられています。リテリングの全体像を簡単に紹介し、それに関連するアウトプットメソッドをのちほど詳しく解説していきます。

 

リテリングの手順

  1. 内容理解
  2. 音読による内在化
  3. 発話情報の選定
  4. 英語への変換
  5. 発話

引用:リテリングを活用した英語指導

 

リテリングの最初のステップは最終的な発話をする素材の内容理解です。大まかな流れとしては本文の要点を理解してから、細部情報を付け加えていきます。大切なのは、本文をどうまとめるかが鍵で、詳細は後述する自律要約法の章で詳しく解説します。その後必要に応じて音読による内在化を経て、発話情報の選定作業に進んでいきます。

 

だれが する(です) だれ・なに どこ いつ
警察は 見つけた 盗まれた 家の中で 昨日
The police found The stolen ring In the house yesterday

引用:リテリングを活用した英語指導, p49

 

たとえば意味順に言葉を整理して発話情報を選定する方法もあります。理解した内容の概念を抽出して整理するコンセプットマップも有効で、こちらも後ほど解説していきます。適宜、パラフレーズなどを活用しながら最後の発話のステップの進んでいきます。

 

リテリングの効果・最新の研究

リテリングは複数の研究で第二言語の習得を促進させると言われています。2018年に日本公立高校でICレコーダーを使用したスピーキング研究が実施されました(引用:リテリングを活用した英語指導,p134)。リテリング指導前後のスピーキングのスコアを測定したところ、生徒の発話語数と文の数が指導後に高まる結果が出ました。

 

2020年にインドネシアの学生を対象に実施したストーリーリテリングの効果を測る研究では、リテリング指導後にスピーキングの正確性が高まったと報告されています。さらに再話(Retelling)と筆記再生課題(recall)を比較した研究では理解度テストにおけるスコアが筆記再生を行ったグループより再話を行ったグループのほうが高いという結果が出ました。口頭タスクと筆記タスクの違いについては、後ほどモダリティの項目でも説明していきます。

リテリングを取り入れた指導モデル

リテリングは再生と産出に関わり、形式と意味重視の学習を合わせた学習メソッドと考えられています。形式重視のリプロダクションは本文と同じ、あるいはほぼ同じ言語形式で再生されたもので、認知負荷は比較的低いとされています。

 

↓↓リプロダクションについて解説しています

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リテリングを取り入れた指導モデル

形式重視 形式+意味重視 意味重視
インテイク アウトプットI アウトプットII アウトプットIII
内在化 再生 再生+産出 産出
音読 リプロダクション リテリング 自己表現
            認知負荷が低い→認知負荷が高い

引用:リテリングを活用した英語指導, p8

 

一方で、リテリングは本文の言語形式を自分の言葉に言い換えたもので比較的認知負荷が高い活動と言えます。高度なリテリングを実践するためには関連する英語学習メソッドを理解し、日頃から適切なインプット環境を整える必要があります。

 

次からの項目では、まずインプットとアウトプットの役割を統合的に考察するために、英語アウトプットの役割及びプロダクションモデルを概観します。それらを前提にリテリングをゴールにインプット(語彙、文、パラグラフ)をどのようにアウトプットに繋げていくかを、様々なアウトプット重視の英語学習法を紹介しながら考えていきます。

 

英語アウトプットの役割とは

英語アウトプットの役割とは

アウトプット仮説

アウトプット仮説とはスウェイン氏が唱えた第二言語習得においてはインプットだけでは十分ではなく、「話す」「書く」といったアウトプットも必要であるという仮説です。スウェイン氏は、クラッシェン氏が唱えた第二言語習得においては理解可能なインプットだけが有効であるとする「インプット仮説」に疑問を投げかけ1985年にアウトプット仮説を提唱しました。

 

インプット仮説を重視した英語学習方法はこちら↓↓

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スウェイン氏は決してインプットの重要性を否定しているわけではなく、それだけでは「不十分」だと主張しました。アウトプット仮説においては、インプットは言語の意味処理において主な役割を果たしているのに対して、アウトプットは言語の構文や形式の算出における正確さに貢献する可能性があると指摘しています。このアウトプットが第二言語習得において果たす役割について、スウェイン氏は下記の3つを挙げています。

 

  • Noticing function(気づき機能)
  • Hypothesis-testing function(仮説検証機能)
  • Metalinguistic functionメタ言語的機能)

 

特に言語の構文や形式への気づきはインプット段階では不十分だと言われています。では、具体的にアウトプットにおける構文への意識はどのようなプロセスなのでしょうか。次の項目で見ていきましょう。

統語処理・文法意識化

統語処理とは

りんごという音を聞くと、赤くて丸いフルーツのイメージ(視覚・嗅覚・味覚情報)が頭の中に浮かんでくると思います。頭の中では音と意味(イメージ)が結びついて、単語が理解できます。外国語を勉強する時も単語は音と意味はセットで覚えていると思いますが、実は語彙だけを知っていても、文を読むことはできません。

 

概念操作

引用:はじめての認知言語学 第1章認知 p15(図1) を参考に作成

 

実は文の理解に必要なのは統語処理です。統語とは文法のルールのことなのですが、文法といっても学校で教えられるような文法事項ではありません。単語と単語をつなぐ規則とでも言えるような、文の背後に潜むルールのことです。たとえば、「りんごは赤い」は瞬時に文として理解できても、「赤いをりんごは」だとすぐに文ではないと判断できるのが統語処理です。

 

認知言語学はこちらで解説

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言語学の理論では人間の言語能力を3つの要素(統語・意味・音韻)に分けています。統語処理は言語システム自体を構成する三大要素の一つになり、これができないと言語システムが育っていかないと言われています。母語では完全に無意識になっていて見逃されがちですが、正しい処理がされないと単語の羅列が文になっているかどうか判断できません。統語処理への意識は、アウトプットする事でさらに高める事ができます。

文法への意識

スウェイン氏によれば、第二言語を聞いたり読んだりする時には主に名詞や動詞などの内容語(content word)の意味を中心に言語を処理する意味処理(semantic processing)が主に行われると言われています。一方で、話したり書いたりする時には意味処理に加えて、語をどのような順番で並べるのか、時制やアスペクトはどのように言語化すべきかなどの文法的な言語処理が求められるとしています。

 

↓↓英文法の勉強法はこちら

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特に、彼はアウトプットするこによって学習者が文法規則について意識的に考えるようになること(conscious reflection)も重要だと主張しています。詳しい英文法の勉強法は過去記事を参考にしてみてください。

構文プライミング効果と研究

言語産出の基底にあるメカニズムや言語表象の性質を解明することを目的とした心理言語学研究では、統語的プライミング(syntactic priming)効果がよく利用されます。統語的プライミングとは、言語産出プロセスにおいて、直前に処理した文と同じ統語構造パターンを用いる傾向を指します。

 

Pickering & Branigan (1998)

引用:Syntactic priming and children’s production and representation of the passive

 

Pickering and Branigan (1998) の統語表象モデルによると、メンタルレキシコン(心的辞書)内の階層に は統語範疇(syntactic category)、時制・相・数などの素性(feature)、言語単位の結びつきを指定する情報 (combinatorial information)などの統語情報が貯蔵されていると言われています。統語構造は語彙表象の組み合わせによって構成されており、特定の統語構造が繰り返されることにより活性化すると考えられています。

 

↓↓メンタルレキシコンについてはこちらで解説

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統語プライミング効果は実は同一言語だけではなく、別の第二言語でも効果があるとされる研究もあるようです。中国語話者を対象に日本語の読みのスピードにおいて、プライミング効果が発揮されるか実証研究がなされました。L1(中国語の文)を読んだ後に同一の統語構造をもつL2(日本語の文)を読む際に、読むスピードが早まるという結果が出ています。特に、低習熟度群(日本語に慣れていない)において、副詞の読みのスピードは大きいな有意差が出ました。

 

態と語順のプライミング効果

引用:日本語と中国語 2 言語併用者䛾文理解䛾検証

プロダクションモデル

アウトプットを重視した第二言語学習を行う際に参考になるのがプロダクション・モデルの理論(levelt, 1989)で、人間が言語を算出および理解する際にどのようなプロセスが関わるのかを示したもので、様々な第二言語習得研究において理論的モデルとして使われています。

 

プロダクションモデル

引用:Connectionist language production: Distributed Representations and the Uniform Information Density Hypothesis

 

プロダクションモデルでは、話者がメッセージを伝えようとする際に、まず初めに図の左上の概念化装置(conceptualizer)の中で概念が生成され、その下の形式化装置(formulator)に送られます。その中では、中央のレキシコンを参照しながらメッセージが作成されます。出力されたスピーチは最終的に概念化装置にフィードバックされて、モニタリングされます。アウトプットは言語習得を回す重要なプロセスだと言えます。

アウトプット重視の英語学習法

アウトプット重視の英語学習法

自律要約法

インプット教材の選定

ここからは具体的なアウトプット重視の英語学習法を紹介していきます。自律要約法とは学習者が自ら選んだ素材を読み聞きし、その内容をまとめる学習法です。ここでは教師が学習者の要約をガイドする誘導要約法と区別します。自律要約法のテキストを自分で探す場合は以下の4つの条件を満たす必要があります。やみくもにニュース記事を選んだり、自分のレベルに合わない教材を選んでしまうと効果が低くなってしまいます。

 

好ましいインプット教材の4つの条件

  • 理解可能(comprehensive)
  • 関わり(relevant)
  • 本物(authentic)
  • 文字と音声で構成されている

実は上記の4つは効果的なインプットを促す4項目でもあり、インプットの量と質を高めてくれます。

テキスト読解

テキストを選定したら、その文章全体を把握していきます。トピック・センテンスおよび意味上の重要な語句を拾うように読んでいきます。適宜、スキミング・スキャニングを取り入れていきましょう。詳しいテキスト読解の方法などは下記の記事を参考にしてみてください。

 

英語リーディングの実践方法はこちら↓↓

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語彙には自分が発話で使用できる発表語彙と、内容だけを理解できる受容語彙があります。読みの段階でも次のステップを意識して発表語彙を増やすことをこころがけましょう。たとえば、英英辞典などを使って受容語彙をかみくだき、平易な語句に適宜直していくのも推奨されています。

 

語彙の種類

  • 発表語彙(productive vocabulary)
  • 受容語彙(receptive vocabulary)
コンセプトマップと要約

次は自分がチェックしたトピック・センテンスをやキーワードを使って、本文の概要を表すコンセプトマップを作成していきます。概要を表す上で重要な意味をもつ語句をフローチャートのような形式で並べていきます。コンセプトはマップは様々な研究で、ライティング力や思考力を向上させると実証されています。下記のように言葉の結びつきが視覚的に整理されて、次のライティングへスムーズに移行できます。

コンセプトマップ

引用:Improve Your Writing by Using Concept Maps

 

↓↓コンセプトマップ開発者ジョセフ・D・ノヴァク氏

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ディクトグロス

ディクトグロス(Dictogloss)とはWajnryb (1990)が考案した英語学習のメソッドで、リスニングを頼りに英文を復元させるトレーニングです。クラスルームディクテーションと定義されているように、複数の学習者が協力してトレーニングするのも特徴です。

 

ディクトグロスを実践すると様々な気づきが生まれ、「これはこの使い方で合ってたかな?」というように、英語の意味だけではなく形式にも目が行くようになります。様々な仮説検証や英文の再構成をすることで、浅い理解が深い理解へと転換されます。

 

ディクトグロスの効果

 引用:The Effect of Dictogloss Technique on Learners’ Writing Improvement in Terms of Writing Coherent Texts

 

2012年にイランの大学でディクトグロスのライティング力向上の効果を検証する研究が実施されました。明示的な学習(伝統的な指導や練習問題を与える学習)をしたグループと、ディクトグロスを実践した生徒を比較したところ、ディクトグロスを実践したグループのほうが、事後テストの点数はほとんど減少しない結果となりました。

 

↓↓詳しくはこちらで解説

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アウトプット重視の英語指導法

アウトプット重視の英語指導法

タスクベースの教授法(TBLT)

容量制限仮説

タスクベースの教授法において、Skehanは情報処理の観点から注意資源に着目したタスクの提案を行なっています。。彼の前提では注意は単一資源のプールから成り、容量制限があることが前提になっています。この注意モデルでは認知的要求度の高いタスクは注意資源をより多く消耗してしまうので、言語形式への注意配分が難しくなると言われています。

 

容量制限仮説

引用:Task Complexity and Linguistic Complexity: An Exploratory Study

 

人間の脳の限られた注意量をどのように調整して分配するのかが、英語スピーキングを実践するうえで大切になります。このような調整や選択はトレードオフ仮説と言われています。この理論に基づくと、英語で話す時は話し手の注意量は2段階で分散していきます。

 

1 段階目では、流暢さと言語形式が分散されてしまいます。経験があると思いますが、英語をすらすらと話そうとすると文法形式への注意がおろそかになってしまい、間違いの数が多くなってしまいます。2段階目では、複雑さと正確さに分散してしまいます。複雑な構文などを使っていざ話そうとすると正確に話すことが難しくなってしまいますので、注意量を調整して話すことが大切になります。

モダリティの違い

タスクの認知的複雑さに関する実証研究の多くは、口頭の言語産出に焦点を当てられていますが、筆記モードへの影響を扱った研究もされているようです。2017年にアメリカの大学で、スペイン語学習者を対象に、口頭タスクと筆記タスクの違いを分析しました。結果としては、筆記タスクの方が誤りが少ない(正確性が高い)結果となりました。迅速なオンラインの言語処理が求められる口頭モードと比較して、より長時間のプランニングやモニタリングが可能な筆記モードは誤りが少なくなると言えるかもしれません。

タスクの繰り返し

同じテーマの反復学習(タスク)の繰り返しは退屈で学習効果が低いと思われるかもしれません。実はタスクを繰り返すことで、第二外国語学習者の流暢さ(1秒ごとの音節の数)が向上する研究成果もあります。

 

タスクの繰り返し

引用:TASK REPETITION AND SECOND LANGUAGE SPEECH PROCESSING

 

流暢さが向上する要因としては、下記の研究でも明らかになっている概念化への注力の減少があるかもしれません。言語形式(sytax)に意識を向ける余裕が生まれると、流暢さも向上するはずです。初学者は様々なテーマのスピーキングに挑戦するのではなく、同じトピックの課題を繰り返しトレーニングすることが大切です。

センテンス・コンバイニング

センテンスコンバイニング(Sentence-Combining)とは英語の短文を学習者が繋ぎ合わせる訓練法で、元々は母語教育のために考案されたものです。1960年代からアメリカでライティングのカリキュラムに導入され、母語教育でも一定の成果を得ました。

 

センテンスコンバイニングの種類

  • Basic Pattern Exercise(2つの文を接続詞等を使ってつなげる)
  • Creative Pattern Exercise(2つの文の因果関係を考えてつなげる)
  • Story making Exercise(複数の短文を並び変える)

引用:ライティング指導における Sentence− Combiningに関してより一部編集

 

センテンスコンバイニングのねらい

  • 構造的に複雑な文を産出
  • 文章全体の質を高める
  • 読解力を高める
  • 作業に意欲的に取り組ませる
  • 自分で使ったことのない文法構造になれる

引用:ライティング指導における Sentence− Combiningに関してより一部編集

 

ESL(英語を第二言語として勉強する生徒)生徒を対象にした研究においても、使用する文の語・節の数が増えより複雑な文をかけるようになり、作文の質が高まったという研究も数多くあるようです。

リテリングを活かしたアウトプット重視英語学習法

3step

効果的インプット法

Step1 インプットの環境を作る

Step1ではインプットの環境を作ります。今後のステップのためにも普段から英語をインプットできる環境が必要です。そのためには英語への苦手意識をもたないような工夫やインプットそのもののレベルに注意する必要があります。初学者であれば現在の能力と同じぐらい、少し易しめ(ii−1)のインプットも効果的だとも言われています。易しめのインプットであれば余裕をもって処理でき、情報の意味だけではなく形式や機能にも目を向けることができます。

 

↓↓少し易しめの大量インプットには多読がおすすめ

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先ほど紹介した、好ましいインプットの4つの条件(理解可能で自分に関わりがあり本物の音声と文字で構成)を満たせるものとしておすすなのが音声サービスのポッドキャストYoutubeです。ネイティブ話者と日常的につながることができ、自分の好きなジャンルのインプット環境を作ることができます。

Step2 インプットの形を変える

Step2ではインプットされたものをできるだけ発表語彙に変換する段階です。自分が理解したインプット内容を誰かに伝える際に、使える語彙が必要になります。先ほど説明した、難しい表現に出会ったら英英辞典などを使って平易な語句に直すのも大切ですが、日頃から下記の単語の様々な情報を意識してインプットするのも必要です。

 

単語のさまざまな情報

  • 単語のパーツ:接頭語、語幹、派生語など
  • 複数の意味:2つ以上の意味がある場合は注意
  • 他の語を連想:他の単語との抽象及び包括関係
  • 文法的機能:品詞、使用する際の文法的ルール
  • 使用する際の注意点:単語のニュアンスなど

 

難しい語句やフレーズをパラフレージングできるか日頃から意識を持つことが大切です。その主要な目的は読み手にとって、さらにわかりやすくすることです。

 

パラフレーズ パラフレーズ 意味
Vacate leave 立ち退く
Reveal show 表す
acquire get 手に入れる
eventuate Happen 起こる
In the commencement At first 最初は
feasible possilble 可能な
aptimum best 最高の
Give assistance to assitst 援助する
Reach a decsion Decide 決める
Have a preference to prefer 好む
In the course of time Soon やがて
According to the law Legally 合法的に
In advance of before 先立って、前に
A sufficient amount of enough 十分な
Give an account of describe 説明する

引用:英語エッセイ・ライティング

 

Step3 インプットを整理する

Step3では自分がチェックしたトピック・センテンスをやキーワードを使って、本文の概要を表すコンセプトマップを作成していきます。概要を表す上で重要な意味をもつ語句をフローチャートのような形式で並べたり、下記のようにキーワードと矢印を使って内容を整理していきます

コンセプトマップの例

リテリング式アウトプットフローチャート

なぜリテリング式アウトプット?

リテリング活動には本文の要約や内容の再構築が求められます。実はこられのスキルは多くのスピーキングテストで課せられます。たとえば、日本経済新聞社とピアソン社が共同で実施しているVersant Speaking TestにおいてもでPart Eでストーリーテリングのパートがあります。

 

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Verasantのテスト作成においては、言語学第二言語習得研究などの知見が活かされています。特に聞く(Listen)と話す(Speak)を合わせた一つのプロセスとして会話を捉えており、テスト項目として、この2つの力を促進するリテリングが選定されたと考えても良いでしょう。私たちは学習者としても安心してリテリングを英語学習へ取り入れることができます。

 

versant テスト作成

引用:Versant™ English Test Test Description and Validation Summary

フローチャート

効果的なアウトプットのためにはインプット段階からアウトプットを意識することが大切です。語彙、文、パラグラフを自分なりに変換したり(発表語彙の獲得)、繋げたり(センテンス・コンバイニング)、まとめたり(コンセプトマップ)することで、その後のアウトプット活動をスムーズに実践することができます。

効果的なインプット

全てのインプットをアウトプットする必要はありませんが、日頃から相手にわかりやすく伝えるためにどんな表現が適切か考えながらパラフレーズすることで、実際の会話でも慌てることなくコミュニケーションができます。頭の中で具体⇔抽象を意識しながら、コンセプットマップを作成する習慣ができれば、物事を相手にわかりやすく伝えることもできます。

ストーリーリテリング

ストーリー・リテリングや要約を繰り返す際は、できるだけ同じジャンルのものを選ぶことで、より言語形式(sytax)に意識を向ける余裕が生まれてきます。そして、スピーキングの際には言語形式への余裕が生まれれば、流暢さも向上していきます。

 

引用

ResearchGate |  The Effectiveness of Retelling Short Story towards Students’ Accuracy in Speaking Skill

J-Stage | Comparison ofTwo Post-ReadingTasks: Retelling vs. Recall

Advances in Language and Literary Studies (ALLS) | The Use of Retelling Stories Technique in Developing English Speaking Ability of Grade 9 Students

ResearchGate | Syntactic priming and children’s production and representation of the passive

Semantic ScholarThe Effect of Dictogloss Technique on Learners’ Writing Improvement in Terms of Writing Coherent Texts

中国地区英語教 育学会研究紀要』Na25 | ライティング指導における Sentence− Combiningに関して

ResearchGate | Connectionist language production: Distributed Representations and the Uniform Information Density Hypothesis

Semantic Scholar | Task Complexity and Linguistic Complexity: An Exploratory Study

日本言語学会 | 言語間で共有される統語処理:日本語と中国語䛾 2 言語併用者䛾文理解䛾検証 謝 尚琳・木山 幸子・小泉 政利 (東北大学)

Voice of America |  Improve Your Writing by Using Concept Maps

Semantic ScholarThe Effect of Dictogloss Technique on Learners’ Writing Improvement in Terms of Writing Coherent Texts

Versant™ English Test Test Description and Validation Summary

メンタルレキシコンとは?わかりやすく解説・心理学との関係 英語学習への効果とは?

はじめに

今回はメンタルレキシコンについてわかりやすく解説していきます。メンタルレキシコンとは、どのような意味や性質を持ち、学ぶ意義は何なのかを考えていきます。心理学との関係や英語学習及び語彙学習への効果についても考えていきます。メンタルレキシコンを正しく理解して、正しい効率的な語彙学習をぜひ取り入れてみてください。

 

↓↓第二言語習得研究に基づく英語学習動画をアップしていきます。

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参考文献

 

「外国語を話せるようになるしくみ」

 

「音読で外国語が話せるようになる科学」

 

「レキシコンの構築」

「英語のメンタルレキシコン」

メンタルレキシコンとは?

メンタルレキシコンとは

メンタルレキシコンの意味

言語の活動は基本的に脳の活動だと言われています。 心理言語学でいうレキシコン(lexicon)とは , 脳内の単語や形態素の記憶の集合です。脳内にあると仮定されているので メンタルレキシコン (mental lexicon) と呼ばれています。私たちが母国語あるいは外国語を話すときに必要な頭の中にある辞書と考えても大丈夫です。

メンタルレキシコン

引用:The nature of the mental lexicon: How to bridge neurobiology and psycholinguistic theory by computational modelling?

 

心理言語学の分野では単語の認知や産出のメカニズムを説明するために後述する様々なモデルを構築してきました。そのため、語彙処理が 実際に「 機 能 」するための「 構 造 」を持っていなくてはなりません。

メンタルレキシコンの性質

メンタルレキシコンは単なる単語の集合体ではなく、様々なレベルで相互にリンクされていると考えられています。新しい単語を学習するにつれて個人の心の語彙は変化し、成長し、常に発展していますが、これがどのようにして起こるのかを正確に説明しようとしているいくつかの競合する理論があります。後ほど詳しく説明していきます。

 

単語の構造

引用:Psycholinguistics/The Mental Lexicon

メンタルレキシコンを学ぶ意義

私たちの頭の中に、それぞれの単語はどのような音韻をとり、どのような概念(意味)に対応しているかを記した辞書をもっています。だからこそ、私たちは耳にした発話の流れがどのような意味かを理解したり、話したいことに応じて単語を選んだりすることができます。

メンタルレキシコンを学ぶ意義

引用:第二言語の英単語親密度データは母語の英単語行動指標といかなる関係があるか

 

さらに、下図のようにメンタルレキシコンから単語の情報検索を行い、その結果に基づいて言語化装置が動き出します。情報検索は単なる語彙情報だけではなく、語彙を正しく使うための語法情報も検索されます。メンタルレキシコンの存在を正しく理解しないで、闇雲に英単語を学習してしまうと、スムーズにアウトプットをすることができません。そのためメンタルレキシコンの機能や役割を知ることが大切です。

メンタルレキシコンと認知プロセス

引用:音読で外国語が話せるようになる科学

 

↓↓英語スピーキングの理論はこちらで解説しています。

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メンタルレキシコン内の語彙知識モデル

メンタルレキシコン 語彙発達

階層的ネットワークモデル

メンタルレキシコン内の語彙項目は、単純にアルファベット順に羅列されているのではなく、意味的ネットワーク(semantic networks)によって互いに結びつけられ、相互関係に基づいて意味概念が規定されていると考えられています。このネットワークは、さらに階層構造(hierarchical structure)を形成して、包含関係をなしています。

 

An illustration of Collins and Quillian (1969) hierarchical network model.

引用:An illustration of Collins and Quillian (1969) hierarchical network model.

 

実は幼児の言語獲得は下層(基礎水準)から積み上げられていくことが明らかになっています。語の水準レベルの差が大きいほど、語彙の関連性を理解する把握速度も遅くなると仮定されています。但し、このモデルでは階層の水準が必ずしも、判断の容易性やスピードを反映していないという批判を受けて、次のモデルが考えられました。

活性化拡散モデル

メンタルレキシコン内に意味的関連性をもとに、柔軟でダイナミックな語彙ネットワーク構造が形成されているという考え方が活性化拡散モデル(spreading activation model)です。語彙と語彙の間ににはノード(node)によって結びつけられ、意味的関連性に基づいて柔軟に組み立てられていると考えます。

活性化拡散モデル

引用:The spreading activation model

 

一番濃度が濃い中心にある「dog」の影響度は、周辺に広がっていくほど影響度が薄くなっていきます。これまでの研究では、意味的関連性がある場合は関連性がない場合に比べて、その後に示した語に対する語彙性判断(lexical decision)がより速くなるプライミング効果(後述する)が見られるとしています。

母国語のメンタルレキシコン

母国語のメンタルレキシコン

子供の語彙の増加

個人さもありますが、幼児は1歳半を過ぎた頃から語彙数を急増させていきます。語彙急増が起こる理由は諸説ありますが、語は特定の自分を指しているのではなく、カテゴリーを指していると理解できるようになる、あるいは音韻体系の性質の変化が寄与しているのではないかとも言われています。

 

幼児期期の語彙発達

引用:Variability and Consistency in Early Language Learning The Wordbank Project

 

上記の語彙爆発を支えているのが象徴機能の発達です。例えば、「バス」という語は、basuという音声と、それが意味する「バス」のイメージ(表象)と結びついています。言語の意味作用は語の音声のもつ聴覚表象(能記:いみみするもの≒能力を記す)と、それによって指示される対象(所記:意味されるもの)の表象関係からなると考えられています。この関係性を理解できる能力が、言語獲得には必要とされています。

語彙発達

引用:よくわかる言語発達 p40を参考に作成

 

↓↓言語学得や母語習得についてはこちらで解説しています。

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即時マッピング

幼児は示された語を驚くべきスピードでは覚えてしまいます。これは幼児の記憶力が優れているわけではなく、認知が制限されているがゆえに起こります。子供はその語が示すただ一つの事例を示されただけで、その語が指示するカテゴリー全体推論してしまいます。大人が「この単語はどのカテゴリーに属するのか?どのように使うのか?」と思考するステップがないため、子供は驚くべきスピードで単語を覚えていきます。下記の研究では、子どもが大人と比較してより多くの単語をretention(忘れない)できる結果がでました。

 

高速マッピング

引用:Fast mapping across time: memory processes support children’s retention of learned words

 

但し、即時マッピングにも弱点があります。動詞や形容詞は一緒に使われる名詞によって、使い方が変わってしまうため即時マッピングは難しいと言われています。状況ごとに変わる変数が存在すると、ある原則をまた別の原則に当てはめる作業が必要となるため、幼児はつまづいてしまいます。

第二言語学習への示唆

子供が母語のレキシコンをいかに構築するかについてのモデルは第二言語の学習のヒントにもなります。一般に、母語における語彙獲得は経験に直接接地(grounding)されていると言われています。対応する概念が切り出しやすいかたちで世界に存在している場合は下記のようにラベル(labeling)を貼り付けていけば良く、母語用に作り上げた概念を第二言語に当てはめる学習は悪くないと言えます。

Classroom Labeling Worksheet (Teacher-Made) - Twinkl

引用:Classroom Labels - Labelling Worksheet

 

 但し、前述したよように動詞や形容詞のように対応する概念が目に見えない場合は少しやっかいです。経験や上位の概念が必要となりますし、それぞれの言語によって基準が異なります。第二言語の動詞を覚える際は、同時に関係概念(位置や区分が必要)もセットで必要となります。この場合は、対象言語の意味領域における分類基準が母国語とどう異なるのかトップダウン的に学習する方が効率的だとも言えます。

バイリンガルの語彙発達

バイリンガルの語彙発達

バイリンガルの言語的特徴

バイリンガルはモノリンガルよりも認知的柔軟性が高いという研究が数多く報告されています。モノリンガルは基本的に1つの単語に対して1つのラベルしか許容できませんが、バイリンガルは常に異言語間同義語を獲得する必要があるので、認知柔軟性を高く保つことができているようです。

 

↓↓バイリンガルについてはこちらで解説

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Bialystok,1999の実験では、子ども達に一つ目のルール (例えば同じ形のものを分類する) でカードを分類するように指導し、その後新しいルール (例えば、同じ色のものを分類する) で分類するよう教示した歳に、バイリンガルの子どもがモノリンガルよりも柔軟にルールを切り替えることができるという結果が出ています。

バイリンガルレキシコン

バイリンガルの認知はモノリンガルに比べやや複雑な構造になっていると言われています。バイリンガルの情報認知のシステムにおいて、最初に提案されたのが階層モデルになります。(Kroll& Stewart,1994

 

バイリンガルレキシコン

階層モデルの最大の特徴は全ての概念(意味要素)L1L2で共有していることです。モノリンガルは当然ですが単一の言語形式と概念が強く連結され、よりシンプルな構造になっています。バイリンガルとモノリンガルの概念連結の違いは、言語学者の立場からは興味深い分野とされ、現在でも数多くの研究が実施されています。

メンタルレキシコンと心理学

メンタルレキシコンと心理学

二重符号化モデル

二重符号化モデル(dual-coding model)とは図表やイメージを使うことは意味理解を助けるだけではなく、記憶するのにも効果的だとする理論です。具体的なモノや絵などのように、視覚化できるものは脳の中で言語と心象(イメージ)で二重に表象されるため、より想起されやすくなり、記憶再生が向上すると言われています。

 

↓↓イメージスキーマについて解説しています。

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イメージ・スキーマも表象の一種で、身近な身体経験の中で、一定のパターンを認識し、心の中に貯えたものです。例えば英語の「in」というイメージ・スキーマは、多くの人がボックスの中に何かがあるという図をイメージすることができ、表象という概念は幅広く英語学習に活かすことができます。

ライミング効果

ライミング(priming)とは認知心理学において、これまで熱心に研究されてきた分野で、先に示された単語や文が後に続くものに何らかの影響を与える効果を指します。例えば、hospitalという単語の認知スピードを測るときに、直前にteacherという単語よりもnurseを先に見せた方が、認知の速度が速くなるという効果です。このプライミングは語彙だけではなく、統語にも影響を及ぼすという研究結果が出ています。

 

↓↓こちらの動画で解説されています。

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統語プライミングに基づくスピーキングは、事前に読んだり、聞いたりして文の処理をした文法構造(構文)をそのまま活用して文発話をしようとする方法です。実は、日常的に英語母語話者が活用しているスピーキングと言われています。

メンタルレキシコンを活かした語彙学習

語彙学習

コロケーションとコーパス

互いに共起する語の連鎖をコロケーション(collocation)と呼びます。例えば、ある名詞には別の形容詞が頻繁に共起するケースなどがよくあります。このコロケーションという考え方は、学習用の辞書記述にも実は取り入れています。

 

↓↓コーパスについて解説しています

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コロケーションの膨大な言語資料を電子データ化したものがコーパス(corpus)です。様々な電子コーパスが言語分析のために日々作成されています。電子コーパスを利用することで、頻出の表現やフレーズだけを抽出して学習することができます。

チャンキング

チャンキング(chunking)とは、複数の語を一つの塊(chunk)にまとめることです。人間の言語及び非言語情報処理は、符号化(coding)、貯蔵(storage)、検索(retrieval)の3段階から構成されていると考えられ、チャンキング(chunking)は符号化に寄与すると言われています。

 

↓↓チャンキングを応用したパターンプラクティスを解説

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チャンキングの大きな利点は、処理の効率性(processsing efficiency)にあり、言語処理過程において、一つ一つの語に注意を向けるのではなく、一つの単位(unit)と処理されることで、それを認識したり産出する時間のスピードが早くなると言われています。

連結項目の役割

連結項目(multi-word item)は上記のコロケーションが固定化したケースと考えられ、2語以上の語からなり意味的あるいは統語的に特定の意味を有する連続体と説明されています。以下が連結項目の具体例となります。連結項目を引き出すことで、適切な語句の選択や統語的に正しい文生成をする必要がなく、言語処理の認知負荷が軽くなると考えられています。

 

連結項目(multi-word item)の具体例

  • 複合語(compounds)
  • 句動詞(phrasal verbs)
  • イディオム(idioms)
  • 固定フレーズ(fixed phrases)
  • プレハブ(prefabs)

 

言語学者のJohn Sinclair氏は、長年のコーパス研究から文生成には自由選択原理(open-choice principle)と非選択原理(idiom principle)の2つの原理が働いていると指摘しました。チョムスキー的言語観では、文生成は規則体系システムに基づき創造的に行われるとされていますが、それだけではカバーできない領域については、固定的に使えるフレーズを記憶して、使用されると指摘しています。

2種類の文生成

メンタルレキシコンの観点からすると2種類の原理を柔軟に使いこなすためにはメンタルレキシコンがアルファベット順に並んでいるだけでは不十分です。言語の規則体系やコロケーションを意識した心の辞書を準備しておく必要があります。

メンタルレキシコンの形成

レキシカルアプローチ

語彙を最大限に活かした、まさに語彙を中心とした教授法を採用するという立場がレキシカルアプローチです。この教授法の背後にあるのが、学習者を意味ある言語環境に置くこと(meaning exposure)がまず大切で、コーパスに基づく自然言語に近い環境を作り出すことで、学習者は自然に生得的に備わった言語学習装置(language acquisiotion device)が刺激されるとも言われています。

 

レキシカルアプローチのエッセンス

  1. 文法と語彙の二分化には根拠がない。言語は主に語彙チャンクから成る。
  2. 言語教育で重要なことは学習者の語彙チャンクに対する意識を喚起し、うまく言語をチャンクできる能力を養うことである。
  3. シラバスや指導順序にはコーパス言語学および談話分析による見地をを取り入れる。
  4. 書くことをより話すことを第一とする。書き言葉話し言葉の文法とは大きく異なり二次的符号とみなす。
  5. 社会言語学的能力(伝達能力)は文法能力に先行し、その基礎となるが、その産物とはならない。
  6. 類似点や相違点を理解できる受容能力としての文法が優先される
  7. タスクやプロセスが練習や産出より重視される
  8. 受容能力、特にリスニングを重視する

引用:英語のメンタルレキシコン p260

 

レキシカルアプローチには議論の余地があり、言語は語彙化された文法ではなく、文法化された語彙から成ると考えます。オーディオリンガルメソッドの提示-練習-産出(present-practive-produce)をやや批判している立場となっており、学習者の目的やレベルに応じてそれぞれのメソッドの使い分けが求められます。

 

参考

CORE | 第二言語の英単語親密度データは母語の英単語行動指標といかなる関係があるか

Radboud University | The nature of the mental lexicon: How to bridge neurobiology and psycholinguistic theory by computational modelling?

名古屋大学 | チュートリアル メンタルレキシコンと語彙処理 : レフェルトのWEAVER++モデル

Frontiers | Fast mapping across time: memory processes support children’s retention of learned words

Wikiversity | Psycholinguistics/The Mental Lexicon

wordbank.stanford | Variability and Consistency in Early Language Learning

ResearchGate | The Relational Luring Effect: Retrieval of Relational Information During Associative Recognition

SB Creative | 音読で外国語が話せるようになる科学

カランメソッドとは?DMEメソッドとの違いや効果・ネイティブキャンプの受け方・最新の研究も紹介

はじめに

今回は近年再注目されているカランメソッドについて考えていきます。DMEメソッドとの違いや、英語学習への効果、第二言語習得研究に基づく正しい受け方について解説していきます。まずはカランメソッドの意味や定義について解説し、最新の研究を紹介しながら正しいやり方について説明していきます。最後にカランメソッドを受けられるオンライン英会話を紹介していきます。私もオーストラリアに短期留学していた際にカランメソッドを受講した経験がありますが、正しい受講方法やメソッド自体への理解が欠けていたので、最大限に活かすことができませんでした。挫折してしまった方、退屈だと放棄してしまった方、ぜひもう一度トライしてみてください。

 

↓↓第二言語習得研究に基づく英語学習動画を随時追加しています

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参考文献

 

「英語学習の科学」

 

「外国語を話せるようになるしくみ」

 

「音読で外国語が話せるようになる科学」

カランメソッドとは

カランメソッドとは

カランメソッドの意味

カランメソッド(Callan Method)とは、日本語を介さずに相手の質問に対して反射的に答える訓練を繰り返すトレーニンで、ダイレクトメソッドの一種です。直接英語を使って英語をインプットさせる指導スタイルで、のちほど説明する直接教授法が元になっています。

 

カランメソッド

引用:JET English College

 

The Callan Method is a fast and dynamic approach to language teaching and learning that consists of guided conversations with native speakers. In the lessons, students are encouraged to speak from the moment they enter the classroom. The learners actively practice English during the lesson, speaking the entire time.

引用:Europass Teacher Academy SRL

 

一般的には、上記のようにネイティブスピーカーによる指導と定義されていますが、現在ではカランメソッド指導の訓練を受けたノンネイティブ講師も該当します。オンライン英会話ではフィリピン人の講師が多いのが現状です。

カランメソッドの歴史

カランメソッドは名前にある通り、ロビン・カラン氏によって考案されました。彼は20代の若さでイギリスから単身でイタリアに渡り、語学学校で英語講師としてキャリアをスタートします。しかし、学校の指導法に疑問を感じ独学で言語教授法の研究を進めます。当時の主流であった文法訳読法(グラマートランスレーションメソッド)に異議を唱え、英語を英語のまま理解するメソッドを作れないか考えました。

 

直接教授法の歴史

 

その後10年以上の経験と研究を積み、カランメソッドを考案します。広まったのは1960年代と言われ、教授法の歴史的に言えば、直接教授法がやや停滞していた後の、オーディオリンガルメソッド最盛期頃と言えます。

 

オーディオリンガルメソッドや英語教授方の歴史↓↓

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カラン氏はイタリアの語学学校でメソッドの実証結果を得た後、イギリスへ戻りカランスクールを開校しました。今では世界30カ国、500校の語学学校でカランメソッドが導入されています。

直接教授法(Direct method)

さきほども説明しましたが、直接教授法はカランメソッドの原型となった英語教授法です。直接教授法は、文法・訳読法の反動として誕生した教授法で、第一言語を使わずに、授業のすべてを第二言語でおこなうことが原則となってます。そのため、ネイティブかそれに近い能力を持った人が授業をおこなうことが望ましいとされています。講師がジェスチャーを使う、質問の回答のパターンを重視する点がカランメソッドに受け継がれています。

 

直接教授法の特徴

直接教授法は特に、Listening Comprehension(リスニング理解)、Speaking Capability(話す能力)を伸ばすことに長けていると言われています。一方で、読み書きの力には重点が置かれていません。

 

ダイレクトメソッド

引用:ALTA Language Services

 

1880年代から1930年代に広まったのだが、2000年代に再度注目を集めるようになりました。直接教授法は学生の注意力と参加を促進させる、あるいは語彙力が向上させるという研究が数多く報告されています。

DMEメソッドの違い

DMEメソッドはカランメソッドの要素を取り入れつつ、より文法的な学習をとりいれ、インタラクティブな内容になっています。カランメソッドを長年教えた先生たちが2000年初めから開発を始めて完成させたようでイングリッシュベル などがこのメソッドを導入しています。

 

DMEメソッド

引用:ENGLISH-BELL

 

テキストの内容が2〜3年に一度更新されるので、学ぶ内容も比較的新しい内容になっています。上記のように文法理解をチェックさせる問題が含まれているのが特徴です。但し、全体の内容的には、カランメソッドと大きな相違点はないと言えます。

カランメソッドの効果は?

カランメソッドの効果とは

TOEICへの効果

QQEnglishはカランメソッドが本当に効果があるのか、明治大学「文明とマネジメント研究所」と提携して実証研究を行いました。大学生21名にマンツーマンのカランメソッドの授業を80時間受講させてTOEICで結果を測定しました。その結果、最高250点アップ、平均110点アップとなりました。

 

カランメソッドの学習効果

引用:QQEnglish

 

但し、他の学習メソッドを受講したグループとの比較なしに、カランメソッドの効果が高いとは言い切れないのが実情です。今後はより詳細な実証研究の取り組みに期待したいと思います。

英語脳を作る

日本語を母国語とする者が英語を話す際、調音器官を含む脳の広範囲を使用しなければいけない事が科学的に証明されているようです。ですが日本の英語教育では、ボキャブラリーと文の構成を司る部分の訓練が重視されがちです。

カランメソッド 脳

引用:QQEnglish

 

英語を話すため必要な反射神経と、発音・発話を司る調音器官のトレーニングが不足しているのが現状で、カランメソッドの訓練は調音器官を効果的に訓練することができると言われています。そのため、調音器官が効果的に鍛えられ、脳全体が活性化して、英語脳に切り替わると言われています。

 

私なりの英語脳の作り方を考えています↓↓

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講師の評価(メリット・デメリット)

次はカランメソッドに対する講師の評価を見ていきましょう。英語教授法の認定資格を受けたTEFL(Teaching English as a Foreign Language)の団体が以下のような見解を出しています。

 

TEFL

引用:i-to-i TEFL, COMPARING DIFFERENT TEACHING TECHNIQUES

 

上記によれば、カランメソッドは綿密に設計された教材とシンプルなレッスン構造によって学習者を引き付け、英語を話す力を伸ばすといわれています。数多くのメリットが示されています。但し、講師側のメリットは受講側のデメリットでもあります。カランメソッドは経験の浅い講師でも務まるということは、逆に言えば講師の質が良くないケースもあるので、受講する側は注意する必要があります。

 

カランメソッドのメリット

  • 講師の計画と準備が不要
  • 経験の浅い教師に最適
  • レッスンが経済的
  • 初学者に最適
  • 基本2,000単語を効率よく習得

 

一方でデメリットとして、レベルの高い生徒にとっては退屈で物足りない内容に陥ってしまう可能性があることが言及されています。これらのデメリットも逆に言えば初心者にとっては最適だとも言えますし、創造的な思考を排除=日本語での思考をストップさせるという良い面でもあります。

 

カランメソッドのデメリット

  • ハイレベルなレベルを提供できない
  • 創造的な思考(柔軟性)を排除

第二言語習得研究から期待される効果

カランメソッドの効果

音声と理解の一致

英語が聞き取れない原因の一つにリスニングとリーディングの乖離が挙げられます。下記のように文字情報だけに頼って発音をしてしまうと、いざ音声を聞いても聞き取れない事が起こってしまいます。読解力中心の学習に力を入れてしまったり、英単語を正しい発音と一緒に学習しないと乖離の状態に陥ってしまいます。

 

音声と理解の一致

引用:音読で外国語が話せるようになる科学, p15

 

それを防ぐためには文字情報を頼らずに音声だけを使った発話のトレーニングが求められます。実はカランメソッドでは授業中に教材を見るのは禁止されているので、音声から理解する状態が作られます。さらに、講師は発音を矯正するので正しい音韻表象も作り出すことができます。

リピーティングで意味理解促進と記憶力向上

リスニングの際は、頭の中で音声知覚と意味理解の2つのプロセスを経てインプットされます。とくに音声知覚はこれまでもブログでも紹介してきましたがシャドーイングなどによって高められると言われています。一方で、リピーティングによって短い意味の塊や文章ごとにポーズを置くことによって、語彙・文法の処理操作の時間的余裕が生まれ、意味理解が促進されます。

 

リスニング

さらに、リピーティングは聞いたものをその場で覚えて口に出さないといけないため、短期記憶力の向上という効果があります。 また何度も同じ文章を繰り返して練習することで、単語やフレーズがしっかりと根付き、長い期間記憶することが可能となります。 リピーティングによって培われた記憶力は、日常のほかの場面でも役立てることができるでしょう

カランメソッドの正しいやり方・復習方法

カランメソッドの正しいやり方

レベルチェック

カランメソッドはCEFRの基準によって1〜12のレベルに分かれています。初心者の形でも一つ一つレベルを上げていく事が可能です。カランメソッドを始める前には、必ずレベルチェック診断をしましょう。自分のレベルに合わない教材を選択してしまうと、英語習得へ悪影響が出てしまいます。

 

カランメソッドのレベル

引用:Callan School of English

 

レベル診断が出た後に「こんなに低いレベルから始めるの?」と不満を持つことがあるかもしれません。実はカランメソッドでは、英語を瞬間的に反応する事が求められます。頭で理解できても発話できない状況であれば、A1〜A2レベルから始めるのがおすすめです。

英語の化石化を防ぐ

ある特定の言語項目や規則が誤って習得され、その誤用がそのまま定着してしまうと化石化(fossilization)が起こってしまうと言われています。例えば、英語が得意ではない状態で、カタコトの英語を話して相手が理解してしまったら、その表現をずっと使ってしまう恐れがあります。カランメソッドでは、それを防ぐためにレッスン中に行われます。

 

↓↓英語の化石化についてはこちらで解説

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また、第二言語習得研究者であるスウェイン氏は間違いの指摘は学習者のアウトプットを促進させると同時に、自分の中間言語に 「穴」 があることに気づかせることができると主張しています。(Swain, 1995, 2000)

ついていけない時の解決策

英語学習の最も重要な原則の一つは簡単すぎるぐらいのスモールステップを貫くことです。背伸びしてしまったり、なんとなく理解してしまうのは良くありません。簡単なタスクを一つ一つクリアしていく事で達成感が得ることができますので、もしもついていけないと感じたらレベルを下げてトレーニングを再開しましょう。

 

↓↓インプットの質を高める方法はこちらで解説

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そもそも言語習得は、理解可能(comprehensible)なインプットによって起こると言われています。言語学者のクラッシェン氏は現在の能力よりほんの少しだけ難しめ(1+i)のインプットが望ましいと主張しています。インプットが難しすぎると、第二言語習得のプロセスを促進できなかったり、気づきが生まれません。

受講する際の注意点

カランメソッドが欧州圏で瞬く間に広まったのは欧州圏の例えば、フランス語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語などが英語と語順が一緒だからという意見もあります。日本語と英語は語順が異なる言語なので注意が必要です。基本的な英文法を理解していない状態でカランメソッドを受講してしまうとレッスンそのものの意味がなくなってしまいます。必ず受講前に基本的な英文法をマスターしておきましょう。

 

↓↓英文法の学習はこちらから

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カランメソッドが学べるオンライン英会話

カランメソッドが学べる英会話

ネイティブキャンプ

ネイティブキャンプはレッスン回数無制限でレッスンを受講できるため、英語に多く触れることができます。「25分のレッスンでは物足りない」「時間がある時にはもっとレッスンを受けたい」といった方も料金を気にすることなく、何度でもレッスンを受講することができるのが特徴です。

 

↓↓カランメソッドステージ1の様子です。

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ネイティブキャンプ公式サイト によればアメリカ・イギリスなどのネイティブスピーカーや、英会話講師歴が豊富なフィリピン・セルビアなど世界130ヵ国以上の講師が在籍しているようです、それぞれの特性を活かした、バラエティ豊かなマンツーマンレッスンが受講できます。

QQ English

月会費2,980円からとお手軽に始められるのが特徴で、コスパ重視のコースが豊富に揃っています。また、高速回線のオフィスからレッスン提供しているので、小学校など教育機関にも多数選ばれているようです。

 

↓↓カランメソッドの全体像がわかります。

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QQ English公式サイト によれば、講師全員に国際資格のTESOLの取得を義務付けており、採用後も時間をかけトレーニングを続けてさせているようです。全員正社員でレッスン品質を売りにしています。

 

参考

Callan Method Organisation | The Callan Method is the fast, fun and effective way to master a language

Europass Teacher Academy SRL | Speak English Confidently with the Callan Method

JET English College | What is the Callan Method ?

TJ Taylor Language Training | Language Teaching Methods: An Overview

ALTA Language Services | What Is The Best Language Teaching Method?

ENGLISH-BELL | DMEのテキストブックについて

i-to-i TEFL | COMPARING DIFFERENT TEACHING TECHNIQUES

Callan School of English | Callan Method levels 

ResearchGate | TEACHING VOCABULARY USING DIRECT METHOD AT SEVENTH GRADE OF JUNIOR HIGH SCHOOL

ResearchGate | THE EFFECT OF USING DIRECT METHOD IN TEACHING SPEAKING SKILL AT THE SECOND YEAR OF SMK NEGERI 1 BENER MERIAH-ACEH

宮崎公立大学人文学部紀要 第 24 巻 第 1 | 日本人英語学習者に適した英語教授法・指導法

イマージョン教育とは? メリット・デメリットを解説 小学校での失敗例・英語学習への効果とは!?

はじめに

今回は注目度が高まっているイマージョン教育について考えていきます。イマージョン教育のメリット・デメリットを徹底解説するために、まずはイマージョン教育の意味や定義について解説し、具体的な効果や問題点・失敗事例についても考察を進めます。さらに日本のイマージョン教育(幼稚園・小学校)の事例やアメリアのイマージョン教育も紹介していきます。英語学習への効果を検証するために、最新の研究や論文も紹介しているのでチェックしてみてください。

 

↓↓英語学習の動画を随時追加していきます

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参考文献

「よくわかる言語発達」

 

バイリンガルの教育方法」

 

「日本のバイリンガル教育」

 

イマージョン教育とは

イマージョン教育とは

イマージョン教育の意味・定義

イマージョン教育とは外国語を教科としてではなく、手段としてその他教科を学習する教育方法を指します。イマージョンは英語の「immersion 」(浸す)という言葉からきてますが、まさにイマージョン教育では幼いころから外国語環境に浸されます。

 

instruction based on extensive exposure to surroundings or conditions that are native or pertinent to the object of study

引用:Merriam-Webster Dictionary

 

イマージョン教育の第一人者と言われるFred Genesee氏は1976年からイマージョンプログラムについて執筆を始め、1987 年に「Learning Through Two Languages: Studies of Immersion and Bilingual Education」でイマージョン教育に関する書籍を出します。その中で、イマージョン教育の特徴を下記に記しています。

 

Generally speaking, at least 50 percent of instruction during a given academic year must be provided through the second language for the program to be regarded as immersion. Programs in which one subject and language arts are taught through the second language are generally identified as “enriched second language programs

引用:Learning Through Two Languages: Studies of Immersion and Bilingual Education

 

↓↓こちらでインタビューを受けています

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一部インタビュー内容抜粋

Over 40 years of research on the native language development of immersion students in Canada has taught us that these students’ competence in oral and written aspects of their native language does not suffer(40年以上の研究から、イマージョンプログラムの学生の母語の力は損なわれないことが証明されている

 

One of the biggest challenges for teaches and administrators working in immersion is to be knowledgeable about and understand research findings on immersion.(働く教師や管理者にとって最大の課題の 1 つは、イマージョンに関する研究結果について知識を持ち、理解すること)

 

Fred Genesee氏らの研究をバックにイマージョン教育は1960年代に英語とフランス語を公用語にしているカナダで始まり、外国語習得の最も効果的な方法として世界各地の学校で導入されています。

 

↓↓イマージョン教育の全体像がわかります

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イマージョン教育の歴史

カナダ

イマージョン教育は、1965年にカナダモントリオールのサン・ラベール幼稚園で初めて導入されました。フランス語圏ケベック州の幼稚園で、第二外国語として子供がフランス語を身に付けられないと保護者が意見したことから始まったのがイマージョン教育です。その後、1970年代にアメリカで導入され欧米を中心に拡大していきました。

 

カナダでなぜフランス語と思うかもしれませんが、かつてフランス軍が植民地支配を進める際に開拓の中心がケベック州であったこともあり、現在でも8割以上の方がフランス語を話します。

 

カナダの言語割合

引用:These Are the Languages Spoken in Canada According to 2021 Census

 

カナダで実践されたイマージョン教育は下記のように教師に与えられた課題をタスクに分割して、生徒自ら考えながら4技能を駆使して課題を解決します。教師は内容教科を教えながら、聞くこと・話すこと・読むこと・書くことの4技能をなるべく自然な形で導入できるように工夫しています。

 

イマージョン教育成功の要因

引用:カナダのイマージョン教育の成功を支えた教授学的要因に関する研究

 

日本での広がりと成功

日本では1992年に静岡の加藤学園暁秀初等学校で、初めて本格的なイマージョン教育が導入されたと言われています。現在も加藤学園の幼稚園、小学校、中学校でイマージョン教育が実施されています。

 

イマージョン教育

引用:加藤学園英語イマージョン/バイリンガルプログラム 組織と沿革

 

小学校のイマージョンプログラムは日本語と一部の教科を除き、英語で教えられます。1年生〜6年生の授業の約 50%60%は英語で行われます。

 

加藤学園カリキュラム

引用:加藤学園英語イマージョン/バイリンガルプログラム カリキュラム

 

2005年にはぐんま国際アカデミーが開校。2020年度には国内で初めて公立小学校(愛知県・豊橋市立八町小学校)にイマージョンプログラムが導入されました。

イマージョン教育の種類

言語の使用割合

外国語に触れる時間の長さによって、Full Immersion(完全イマージョン)と、Partial Immersion(部分的イマージョン)に分けられます。完全イマージョンでは低学年の教科学習は100%外国語で行われ、学年が上がるごとに、その割合は下がっていき、5・6年生になるころには50%程度になります。

 

言語の使用割合

  • Full Immersion(完全イマージョン):低学年の教科学習は100%外国語
  • Partial Immersion(部分的イマージョン):外国語は50%

 

部分的イマージョンは外国語の指導を50%ほどに維持する方法です。通常は母国語を話す教員と外国語を話す教員のティーティーチングで行われます。日本の場合は、この部分的イマージョンを取り入れる学校が多く見られます。

イマージョン教育プログラムの種類

イマージョン教育は方式によって二つに分かれます。One-Way Immersion (一方向性イマージョン)と Two-Way/Dual Immersion(双方向性イマージョン)の2つがあります。

 

イマージョン教育の方式

 

イマージョン教育の2つの方式

  • One-Way Immersion(一方向性イマージョン)
  • Two-Way/Dual Immersion(双方向性イマージョン)

 

一方向性イマージョンは全員同じ外国語で学ぶイマージョン教育を指します。双方向性イマージョンは、2つの言語で学ぶ方式です。例えば、アメリカでは英語とスペイン語の双方向イマージョン教育が実施されています。クラス編成は、英語話者とスペイン語話者それぞれが全体の2/3以上にならないように調整されます。

 

イマージョン教育の開始時期

  • 早期イマージョン(5歳〜)
  • 中期イマージョン(8歳〜)
  • 後期イマージョン(12歳〜)

※ 学校や団体によって開始時期の定義は異なる

 

学校や団体によって開始時期の定義は異なりますが、主に早期・中期・後期に分類されています。本場のカナダではさらに、時期と形式を合わせて6つに分類されています。

 

6つのイマージョン方式

  • 早期トータル・イマージョン
  • パーシャル・イマージョン
  • 中期イマージョン
  • 後期イマージョン
  • 教科別補強フレンチ
  • トライリンガル・イマージョン

引用:バイリンガル教育の方法  第5章イマージョン方式の教育より抜粋

 

早期イマージョン(5歳から)と後期イマージョン(12歳から)の教育を受けた子供を比較するフレンチイマージョン(英語を母国語とする生徒に対してフランス語のイマージョン教育をするプログラム)の実態を調査した研究が実施されました。結果は、早期イマージョンは聴解力が高くなり、後期イマージョンは読解力が逆に高くなりました。

 

  早期イマージョン(4,000時間) 後期イマージョン(1,400時間)
聴解力 15.2 12.0
読解力 14.8 18.2

引用:バイリンガル教育の方法  第5章イマージョン方式の教育より抜粋

 

イマージョン教育を支える理論

イマージョン教育を幼児期にする背景は、人間の脳がかなり早い時期に言語および認知能力を形成すると考えられているからです。できるだけ早いうちに、外国語に浸ることによって子供達の言語の習熟度は高まると考えます。

human brain 2

引用:OUR EDUCATIONAL APPROACH

 

もう一つはカミンズ氏の言語共有論です。彼は第一言語第二言語の間には共有できるCommon Underlying proficiency(CUP)があると主張しています。第一言語能力(母国語)と第二言語は独立しておらず、相互に依存しているという考え方です。カミンズ氏は二言語共有説を立証するために言語能力をBasic Interpersonal Communicative Skills(対人伝達言語能力)とCognitive Academic Language Proficiency(認知・学習言語能力)に整理しました。

 

二つの能力

  • BICS:日常の場面に密着した(context-embedded)言語使用が特徴
  • CALP:context-reduced)言語使用が特徴で、学問的な思考

 

この二つの言語能力(BICSCALP)は第一言語第二言語両方に当てはまります。イマージョン教育論者に言わせれば、このCALPを育てるためには日本語だろうと英語だろうとかまいません。できるだけ早い時期に適切な言語教育を施すことが大切で、イマージョン教育であれば、より認知的・学術的能力を伸ばすことができると考えます。

 

BICSとCALP

引用:日本のバイリンガル教育 学校の事例から学ぶ p34を参考に作成

 

↓↓バイリンガル教育についてはこちらで解説

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イマージョン教育の最新の研究・論文

英語学習の効果

英語学習の効果を考える際に、イマージョン教育における学習方法と記憶方法の特徴を知る必要があります。従来の教室学習では、生徒はL2の単語を明示的に教えられ、文法規則を暗記することが多く、主に宣言的記憶を働かせると言われています。一方で、イマージョン教育では、生徒はL2の単語を暗黙的に提示され、手続的記憶を使って文法を処理しています。ある研究ではイマージョン教育の方がより学習者に大きな負担(脳に刺激を与える→学習効果が高い)を強いるという結果が出ています。

 

英語学習の効果

引用:Effects of Language Immersion  of Language Immersion versus Classroom  Exposure on Advanced French Learners: An ERP Study, 2017

 

2017年にアメリカのテネシー大学でイマージョン教育の効果について研究が行われました。流暢性を測るテストで、イマージョン教育の量が多い(High immersion)生徒の点数が一番高くなるという結果がでました。また、脳波計を使用して、文を読む作業中の脳の電気的活動を観察したところ、イマージョン教育の量が多い(High immersion)生徒はネイティブに近い動きが出たとも報告されています。

Proficiency Scores

引用:Effects of Language Immersion  of Language Immersion versus Classroom  Exposure on Advanced French Learners: An ERP Study, 2017

 

↓↓言語獲得についてはこちらで解説

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イマージョン教育の問題点・失敗

イマージョン教育

イマージョン教育の問題点や課題は、子供たちのその後の人生を追えていないことが挙げられます。小学校では近年導入されたケースも多く、卒業後の進路データが不十分で、教育の是非を判断材料する材料が少ないとも言えます。但し、これらはイマージョン教育の卒業者が学術的な立場に将来なることで解消されると思います。

 

失敗例としては、学校側の要求する外国語と子供の到達レベルのギャップが生じる際に起こると言えるでしょう。また、イマージョンプログラムは、クラス外での母語習得環境が十分整っているという前提で第二言語の習得を目指すものであり、母語習得に支障が生じるほど母語の使用時間が極端に短くならないことが前提です。

イマージョン教育の失敗

イマージョン教育を受けるために、幼児の状況と学校がマッチしているのか事前に確認することが大切です。安易に入学をさせてしまうとセミリンガル(母語が不十分)になる危険性もあります。

日本のイマージョン教育

日本のイマージョン教育

幼稚園

日本では先ほど説明した加藤学園幼稚園で早い段階から取り入れ、その他多数の私立学校の附属幼稚園としてイマージョン教育が導入されています。各スクールで特徴が異なるので、子供の状況に適しているか見極める必要があります。

 

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大阪府摂津市にある摂津ひかり幼稚園では脳発達研究者の大井静雄氏から助言を受けて4歳児イマージョンクラスを開始しています。言語獲得期に異なる言語を学ぶことはお互いの言語回路を刺激し、母語を使ったコミュニケーション力をも向上させるとし、イマージョンクラスを拡大させてきました。

 

摂津ひかり幼稚園の英語活動の沿線

  • 2001年 英語教育の開始(週1回程度)
  • 2010年 委託により行っていた英語活動を園独自の内容に変更
  • 2013年 4歳児イマージョンクラス開始 ネイティブの先生を配置
  • 2014年 5歳児イマージョンクラス開始
  • 2015年 3歳児イマージョンクラス開始
  • 2016年 園外の2歳児を対象に親子で学べるHOPクラス開始

引用:Englishイマ―ジョンについて

 

小学校

数多くの小学校でイマージョン教育が導入されています。近年はイマージョン教育を導入する学校が爆発的に増えていますので、学校選びには注意が必要です。学校の英語力の見極めるためには募集要項や学校説明会で確認するとよいでしょう。

 

例えば、英語経験なしでも入学可にしている場合は英語力は低くなります。逆に、原則プリスクール(未就学児を対象に英語で保育を行う施設)卒生のみ受け入れというクラス募集をしている学校の場合は、ある程度英語力が保たれますので、一定レベル以上の授業が期待できます。

 

イマージョン教育が導入されている関東の小学校(一例)

 

イマージョン教育は私立学校というイメージがありますが、2020年に愛知県豊橋市の八町小学校で公立学校としては初となるイマージョン教育が導入されました。

 

news.yahoo.co.jp

 

愛知県豊橋市では1990年代から「臆することなく英語でコミュニケーションを図れる児童の育成を」を市の教育施策として掲げ、英語教育に力を入れてきました。豊橋市の研究実践校の名乗りを上げたのが八町小学校で、学習指導要領に示された学習内容の定着が確実に行われることを大前提に、最初は図工や体育など視覚的支援が比較的しやすい教科から、英語を使って学ぶ授業が始まりました。

 

2019年に小学3年生で、1年を通して算数の授業を英語で進めたところ、一定の学習成果が得られることがわかり、2020年度から国語と道徳以外の教科は主に英語を使って学ぶ「イマージョン教育コース」が開設されました。

 

↓↓早期英語教育についてはこちらで解説

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アメリカのイマージョン教育

アメリカのイマージョン教育

イマージョン教育が盛んなアメリカ合衆国においては、カリフォルニア州は特徴的です。カリフォルニア州はメキシコとの国境に接しており、メキシコからの移民が非常に多い地域です。メキシコはもともとスペインの植民地だったため母国語はスペイン語です。そのため、下記西海岸のカリフォルニア州は200以上のDual Language Immersion (DLI) programsの学校があります。その他、200以上の地域はテキサス州ノースキャロライナ州ニューヨーク州となります。

 

アメリカのイマージョン教育

ARC(The American Councils Research Center)の調査によると米国全体で 3,600 以上の DLI プログラムがあり、カリフォルニア州テキサス州ニューヨーク州ユタ州、およびノー スカロライナ州がすべてのプログラムの約60% を占めています。スペイン語のプログラムは全体の約 80% を占めます。その他の言語では、中国語 (8.6%) とフランス語 (5.0%) が続きます。フランス語も182の学校があり、4位は日本語、5位はドイツ語となりました。

 

DLI プログラム TOP5の言語

言語 学校数
スペイン語 2936
中国語 312
フランス語 182
日本語 37
ドイツ語 31

引用:ARC Completes National Canvass of Dual Language Immersion Programs in U.S. Public Schools

イマージョン教育のデメリット

イマージョン教育デメリット

セミリンガルに陥る可能性

セミリンガル は英語で「semilingual」で、言葉(lingual)に接頭辞である半分(semi)がくっついて下記のような意味になっています。

 

A person who knows two or more languages but exhibits low profile in all of them, that involves having poor vocabulary and wrong grammar.

 引用:Weblio

 

セミリンガル (semilingual)を直訳すると、「言語をいくつか知っているが、語彙不足や文法を誤って使用する人」となり、ネガティブな意味が込められています。子どもの言語発達が不十分な段階でバイリンガル教育を強要すると、第二言語だけではなく母国語も十分に使いこなすことができなくなってしまいます。

 

↓↓詳しくはこちらの記事を参考にしてください。

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母国語の語彙量が少なくなる

2008年に神経言語学の雑誌で紹介された研究では、バイリンガルの語彙サイズはモノリンガル(単一の言語を話す人)よりも語彙力が小さくなるというデータが示されています。但し、バイリンガルのそれぞれの語彙サイズを足すと、モノリンガルと同じ語彙サイズになるとも指摘されています。

 

引用:Lexical access in bilinguals: Effects of vocabulary size and executive contro,2008

 

モノリンガルは単一の言語に集中できるのでその言語では優位性があるということになりますが、バイリンガルの語彙量はそれぞれの言語に分散されてしまいます。

 

モノリンガルについての詳しい内容はこちら↓↓

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イマージョン教育のメリット

イマージョン教育 メリット

総合的な英語力が身に付く

これまで日本の英語教育において、将来役に立つために語彙や文法などの英語を教えてきました。現在は子供達が「もっと話したい」「もっと英語でコミュニケーションを取りたい」と思えるような授業づくりが求められます。そのためには、クラスルームは英語を使う場として機能することが必要です。

 

↓↓ESL教材を出版しているKathy Kampa氏が説明

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そこで、CLILContent and Language Integrated Learning=内容言語統合型学習)という英語の教育方法が注目されています。イマージョン教育などからヒントを得て欧州で始まり、現在は世界各国で導入されている教育アプローチです。CLILの学習理論の特徴は「4つのC」というフレームワークを掲げている点です。4つのCとは以下の通りとなります。

 

CLILの学習理論

  • Content(内容)
  • Communication(言語)
  • Cognition(思考)
  • Culture/Communication(文化・協同)

 

CLILでは、英語を単元的に学習するのではなく思考のツールとして環境問題や人種問題といった学習内容の理解に重きを置き学習をすすめていきます。

 

CLIL

引用:Research and Evaluation of the Content and Language Integrated Learning (CLIL) Approach to Teaching and Learning Languages in Victorian Schools, 2013

 

思考の柔軟性が高まる

バイリンガルはモノリンガルよりも認知的柔軟性が高いという研究が数多く報告されています。モノリンガルは基本的に1つの単語に対して1つのラベルしか許容できませんが、バイリンガルは常に異言語間同義語を獲得する必要があるので、認知柔軟性を高く保つことができているようです。

 

Bialystok,1999の実験では、子ども達に一つ目のルール (例えば同じ形のものを分類する) でカードを分類するように指導し、その後新しいルール (例えば、同じ色のものを分類する) で分類するよう教示した歳に、バイリンガルの子どもがモノリンガルよりも柔軟にルールを切り替えることができるという結果が出ています。

 

他の教科の学力も向上

アメリカのマサチューセッツ州のAmigos Schoolではイマージョン教育が導入されていますが、2019年の総合評価システムテストで科学や数学などの点数が州平均を20%上回りました。

 

↓↓Amigos Schoolでのイマージョン教育

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参考

International Journal of English  and  Education | An Introduction of "Immersion Program"

linkedin | Interview with Dr. Fred Genesee by Lyle French

Department of Psychology McGill University | French Immersion and At-Risk Students: A Review of Research Evidence

The Academic Family Tree | Fred Genesee - Publications

UNIVERSITY OF TORONTO PRESS Journals Division | The Suitability of Immersion Programs for All Children

To Do Canada |These Are the Languages Spoken in Canada According to 2021 Census

鳴門教育大学研究紀要 第22巻 2007| カナダのイマージョン教育の成功を支えた教授学的要因に関する研究

学校法人 加藤学園 | 加藤学園英語イマージョン/バイリンガルプログラム 組織と沿革

学校法人加藤学園 | 加藤学園英語イマージョン/バイリンガルプログラム カリキュラム

Tennessee Research and Creative Exchange (TRACE) | Effects of Language Immersion  of Language Immersion versus Classroom  Exposure on Advanced French Learners: An ERP Study

愛知江南短期大学 |  早期英語教育に関する一考察カナダのイマージョン方式のバイリンガル教育を参考にして小学校の 「総合的な学習の時間」における英語教育のあり方を模索する―

摂津ひかり幼稚園 | Englishイマ―ジョンについて

American Councils | ARC Completes National Canvass of Dual Language Immersion Programs in U.S. Public Schools

CommuniKids | OUR EDUCATIONAL APPROACH

Science direct | Lexical access in bilinguals: Effects of vocabulary size and executive contro,2008

American Journal of Educational Research | Attaining Content and Language Integrated Learning (CLIL) in the Primary School Classroom

Semantic Scholar | Research and Evaluation of the Content and Language Integrated Learning (CLIL) Approach to Teaching and Learning Languages in Victorian Schools

英語のボキャブラリーを増やす学習方法 語彙習得の最新研究を紹介・英単語アプリも効果的?

はじめに

今回は英語のボキャブラリーを増やす学習方法について考えていきます。最新の語彙習得の研究や英単語学習アプリも紹介していきたいと思います。まず語彙知識の種類や習得プロセスを概観し、具体的な記憶術やボキャブラリーの増やし方を紹介していきます。さらに学習とゲームの関係を考察しながら、ゲームフィケーションが組み込まれたおすすめアプリも紹介していきます。

 

第二言語習得研究に基づく英語学習動画を随時追加しています↓↓

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主な参考文献

 

 「英語学習の科学 Q&A」

 

「英単語学習の科学」

 

「英語の学び方入門」

 

英語のボキャブラリー

英語のボキャブラリー

語彙知識の種類

英単語のボキャブラリーを増やすためには、まずは語彙の様々な側面を知る必要があります。そして、英語の語彙を増やすためには下記のような発音や品詞を効率良く整理してくことが求められます。

 

語彙知識の側面

  • 発音(pronunciation)
  • 品詞(word class)
  • 語法(usage)
  • 活用(conjugation)
  • 派生語(derivative words)
  • 熟語(idiom)

 

教育現場では英単語を覚えるという行為は和訳(apple=リンゴ)になりがちですが、英語学習者として語彙を覚えるためには上記の6つの側面を理解する必要があります。語彙知識は最初の出会い(encounter)からはじまり、発音や語法を認識して実際に使用することで発信知識(Productive knowledge)に変容していきます。

 

語彙知識

引用:LEARNING A NEW WORD – HOW DOES IT ACTUALLY HAPPEN?

語彙習得の基本プロセス

上記のように、実は英単語を覚えることは単純に和訳を覚えることとイコールではなく、かなり複雑なプロセスです。一般に、語彙習得は3つのプロセスが必要だと言われています。語彙のスペリング・発音、意味をまずは習得して、その後で語形と意味を結びつけることで語彙が定着されると考えます。

 

語彙習得の基本プロセス

  • 語形の習得(form):スペリングや発音を学ぶ
  • 意味の習得(semantic):意味を学ぶ(母語との意味参照も含む)
  • 語形と意味のマッピング(mapping):語形と意味を結びつける

引用:英単語学習の科学 p4などを参考に作成

 

但し、TOPRA Model(Type of Processing Resource-Allocation)理論では、私たちの利用可能な処理資源は一定であり、様々なタイプの処理に柔軟に割り当てられると言われています。例えば、下図Aのように意味(Semantic Processing )に処理資源を割り当てると、形式やマッピングに割り当てられる処理資源が減ってしまいます。

 

TOPRAモデル

引用:SEMANTIC AND STRUCTURAL TASKS FOR THE MAPPING COMPONENT OF L2 VOCABULARY LEARNING

 

英単語を書いて覚えるのはだめ?

上記のTOPRA Model理論を提唱しているのはワシントン大学のJoe Barcroft氏ですが、彼はTOPRA Model理論を使って単語を書いて覚える学習方法は良くないとも主張しています。Joe Barcroft氏の研究では、「書いて」覚えたグループよりも、単語と意味のペアを「見て」覚えようとしたグループの方が覚えられた単語が多かったという結果が出ています。

 

単語を「書いて」覚えると形や発音に注意が向くことになり、母語での意味や形と意味を繋げることへの注意が弱くなってしまいます。一方で、単語と意味を「見て」覚えた方が3つの注意バランスが良くなると主張しています。

コアミーニングの重要性

日本語訳を利用して英単語を覚える時に有効なのがコアミーニング(core meaning)です。コアミーニングとは多くの語義に共通する単語の中心的な意味を指し、それを先につかむことで、学習効率を高めることができます。

 

英語スキーマ

コアミーニングをつかむためには英英辞書を活用することをおすすめします。例えば、run(走る)という動詞を調べると to move fastという意味が最初に出てきます。コアミーニングを図示したものがイメージ・スキーマで、上記のように派生させることで効率良く単語を覚えることができます。

 

↓↓スキーマについて解説しています

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語彙学習の種類

語彙学習

意図的学習と付随的学習

語彙学習は意図的学習(intentional learning)と付随的学習(incidental learning)に分類されます。意図的学習は語彙学習主目的として、単語帳などを使って英単語を学ぶことです。付随的学習は語彙学習が主目的ではなく、英文に出てきた単語を付随的に覚えることです。

 

子供が第一言語を習得する際は単語を文脈から自然に習得すると言われ、意図的学習は重要ではないと考えられています。ですが、第二言語として英語を学ぶ際には、意図的学習は大切な役割を果たします。特に、英語力が低い内は英文自体を読めなければ、単語を付随的に覚えることは困難です。

 

語彙学習の戦略

引用:A COMPARISON BETWEEN VOCABULARY LEARNING STRATEGIES EMPLOYED BY URBAN AND RURAL SCHOOLS STUDENTS

 

語彙学習の目的(新規の語彙を学習したいのか、あるいは語彙を忘れないようにしたいのかなど)によって、両者の学習を使い分ける必要があります。例えば、私は語彙を忘れないように(retain)、定期的に比較的易しい洋書を読み返しています(付随的学習)。また、マレーシアの小学生を対象に実施されたESL研究(第二言語学習研究)では、多読学習(付随的学習)と語彙学習(意図的学習)をブレンドして実施すると学習効率が高まると報告されています(2019,P. Meganathan)。

文脈からの意味推測

コミュニケーション重視の英語教育では、文脈から単語を学ぶべきという主張ががあります。それは多読などを通して付随的に単語を学習した方が、意味と用法を同時に覚えることができるからです。また、同じ文脈からの学習でも学習単語とより関連のある文脈中(More informative)で学習した方がより効果が高いとする研究もあります。

 

文脈で学習

引用:The Effects of Context on Incidental Vocabulary Learning

 

付随的学習の効果は本当に高いのでしょうか?オランダの大学で文脈による学習と暗記学習を比較した研究が実施されました。1分あたりに習得された単語数を比較したところ、文脈から単語の意味を推測する学習よりも暗記学習の方が8倍以上高く、学習効率も5倍以上高いことが明らかとなりました。

 

英語のボキャブラリーを増やすためには意図的学習と付随的学習どちら正解というわけではなく、学習目的に応じた使い分けが求められます。これまでの研究を見ても議論に決着がついていないようなので、引き続き注視していきたいと思います。

適切なテキスト教材

前述した研究でもあったように、付随的な学習を高めるためには適切な読み物の教材を選定する必要があります。その重要が指標となるのが、カバー率(coverage)です。カバー率とは学習者が知っている単語がテキスト中の何%を占めているかを指します。目安としては、テキスト中の単語のうち95〜98%が既知語であれば、前後の文脈から意味を推測できると言われています。

 

↓↓こちらの記事で易しい洋書を紹介しています

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但し、初学者は一般的な読み物の2,000〜3,000語レベルに至っておらず、最適なテキストを選ぶことは困難です。そこでおすすめなのが、難易度別読み物(graded readers)です。難易度別読み物は簡単な語彙のみを使って書かれているので、初心者でも安心して読むことができます。

セマンティッククラスタリング

セマンティッククラスタリング(Semantic Clustering) とは、同じカテゴリーに属する単語をまとめて覚えることです。意味的に関連した単語は私たちの頭の中でネットワークを形成していると考えられています。例えば、Sundayという単語を見ると、無意識にMondayが頭の中で思い浮かびやすいなどです。しかし、多くの研究者はこの関連語をまとめて覚えると意味の干渉(interference)が起きると主張しています。たとえば、右(right)と左(left)を同時に学習すると、それぞれが競合しあって、どちらが右か左か分からなくなってしまいます。

 

semantic maps

引用:The Easy Guide to Semantic Mapping (With Examples)

 

↓↓作成方法などが紹介されています

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但し、近年の研究では必ずしも、関連語学習が必ずしも語彙学習を阻害しないという結果がでています。実際に、教育現場では学習効率の観点から、関連語・類義語・派生語などはまとめて提示されることが多いこともあり、今後も主要な学習メソッドになることは間違いないでしょう。

記憶術とボキャブラリーの増やし方

記憶術

英単語とジェスチャー

何かを覚える時に体を動かしたり、ジェスチャーを使って覚えるとより脳に定着されやすいと聞いたことがあると思います。例えばdance(踊る、飛びはねる)という単語を覚えたい時は、実際に踊ったり飛びはねたりしながら覚えることを指します。同様に五感を使って覚えるのも類似のテクニックだとも言えます。

 

英単語とジェスチャー

引用:Learning Foreign Language Vocabulary with Gestures and Pictures Enhances Vocabulary Memory for Several Months Post-Learning in Eight-Year-Old School Children

 

2020年にドイツの小学校3年生を対象に英単語学習効果の実験が実施されました。そこでは、ジェスチャーを使って外国語の語彙を学習すると学習後数か月間、語彙の記憶が強化されるという結果が出ました。特に抽象的な語彙学習の際には、ジェスチャーの効果が高いとされています。

語呂合わせ

語呂合わせは昔から教育現場では受験のテクニックとして存在しています。ポイントは英単語と和訳以外の事柄と結びつけて覚えることで、下記のように和訳を忘れた際の保険ととなります。

語呂合わせ

引用:英単語学習の科学 p81を参考に作成

 

語呂合わせはダジャレと似ていると揶揄されますが、立派な記憶術です。英単語と和訳の関係が時間をともない消失しても、語呂合わせの記憶によって両者の関係を復活させることができます

カタカタ語の活用と注意点

ある研究によると頻出3,000語のうち、約半数はカタカナ語として用いられると言われいます。日本人英語学習者はこのアドバンテージを活かすべきという主張も納得できる結果です。カタカナ語は容易に覚えやすいという研究結果もあり、記憶としは定着しやすいのは間違いなさそうです。

 

カタカナ語の研究(Rogers,& Nakata2015)では、カタカナ語として存在する英単語はそうでない単語に比べて習得が容易になると結果がでています。これは当然で、例えばdanceという英単語を覚える時に、すでにダンスというカタカナ語を知っているので意味が容易に想起されます。但し、カタカナ語は実際の英単語と意味や発音に相違がある場合もあります。カタカナ語を使って英単語を学習する際は、和製英語の発音に注意する必要があります。

学習とゲームの関係

学習とゲーム

ゲーミフィケーションの効果

ゲーミフィケーションは、学習にゲーム要素を加えることで学習意欲を向上させる取り組みです。実際に、ゲーミフィケーションを導入した学習に関する数々の調査で、ゲームに没頭するように学習にも集中して取り組めたという結果がでています。

 

ゲーミフィケーションの特徴

  1. The story, plot, setting, characters, and role-play
  2. Goals, badges, progress bars and leaderboards
  3. Competition, cooperation and challenges
  4. Rewards, points and second chances
  5. Choice
  6. Time

引用:6 ways to gamify your English classroom

 

↓↓ゲーミフィケーションを楽しく解説しています

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RPGの学習効果

2014年に学生を対象に実施された調査では、ロールプレイ ゲーム (RPG) 環境で語彙学習をした方が学習のモチベーションが高まったと報告されています。これらのロールプレイ ゲームにはオンラインゲームなども含まれています。

 

RPGの学習効果

引用:Role-Play Game-Enhanced English for a Specific-Purpose Vocabulary-Acquisition Framework

 

2016年に台湾の高校生に実施された研究でも、ロールプレイ ゲーム (RPG) 環境で語彙学習をした方が事後テストの点数が高くなる結果が出ています。このように単純な語彙学習にゲーム性を入れることでモチベーションが向上したり、学習効率が高まることが証明されています。

ゲーミフィケーションを生かした英単語アプリ

英語 ゲーム パズル

英語物語

英語物語は「遊んで英語を学ぶ」をテーマに開発された新感覚英語学習RPGゲームアプリで、フィリピン人講師監修のもと考案された問題は6,000問のボリュームがあります。英単語テストに取り組む受験生からビジネス英語習得・TOEIC高得点を目指す社会人まで幅広いユーザーに対応する学習アプリです。

 

英語物語

 

アプリを立ち上げると、ストーリー設定をします。「日本語ストーリーのみ表示」と「英訳ストーリーも表示」を選択できますが、おすすめは、「英訳ストーリーも表示」です。こちらを選択すれば対訳付きの小説を読んでいるような気分になれます。勉強の目的や自身の英語レベルを設定できるので無理なく愉しみながら学習できます。

 

↓↓古い記事ですがこちらでも紹介していました

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マグナと不思議の少女

英語アニメや英語クイズを楽しみながら、英単語や英語発音が習得できる英語学習アプリです。独自開発のSPEC(音声認識エンジン活用の発音チェックシステム)より、「聞く」「話す」の同時学習ができます。また、プレイヤー個々の学習状況に応じてAIが自動で学習進行スピードを最適化するなど、本ゲームならではの独自の試みを随所に取り入れているのも特徴です。

 

magna.mintflag.com

 

さらに独自開発の音声認識技術を活用した発音チェック機能を搭載している他、AIがプレイヤーの発音をチェックしてフィードバックしてくれます。2019年の第 16 回日本 e-Learning 大賞「AI人工知能特別賞」を受賞しており、次世代の英単語学習アプリと言えます。

Nekotan

Nekotanは英単語を作りながらねこを救出するパズルゲームで、ゲームを楽しみながら英単語を覚えることができます。収録英単語は4万語以上ですが、英単語のヒント機能が充実しているので、英単語が苦手な人でも楽しめます。

 

nekotan

 

積み上げられた箱の中から縦、横、斜めに自由に英単語を作って箱を消し、ネコを下まで降ろしてあげるパズルゲームです。例えば、上記では「work」、「song」、「next」とアルファベットを繋げば猫を救出できます。今までに消したブロックは、ステージ画面の「Word book」に収録。収集意欲が掻き立てられるのも特徴です。

 

app-liv.jp

 

参考

WordDive | LEARNING A NEW WORD – HOW DOES IT ACTUALLY HAPPEN?

Cambridge University Press | SEMANTIC AND STRUCTURAL TASKS FOR THE MAPPING COMPONENT OF L2 VOCABULARY LEARNING

J-STAGE | 読解を通した第二言語の付随的語彙学習における処理資源配分の役割

ResearchGate | Word learning and lexicalization in a second language: Evidence from the Prime lexicality effect in masked form priming

ResearchGate | Situational sets effect on role-play game supported english for specific purposes vocabulary acquisition

Semantic Scholar | A COMPARISON BETWEEN VOCABULARY LEARNING STRATEGIES EMPLOYED BY URBAN AND RURAL SCHOOLS STUDENTS

Semantic Scholar | Incidental and Intentional Learning of Vocabulary among Young ESL Learners

Semantic Scholar | The Effects of Context on Incidental Vocabulary Learning.

Edrawsoft | The Easy Guide to Semantic Mapping (With Examples)

Springer Link | Learning Foreign Language Vocabulary with Gestures and Pictures Enhances Vocabulary Memory for Several Months Post-Learning in Eight-Year-Old School Children

J-STAGE |ゲーミフィケーションの要素を取り入れた 小学校1年生向け電子教材の実践と評価

ResearchGate | Situational sets effect on role-play game supported english for specific purposes vocabulary acquisition

情報処理学会第77回全国大会 | ゲーミフィケーションを活用した語学学習の学習継続効果ならびにパーソナライゼーション 

Cambridge Blog | 6 ways to gamify your English classroom

Semantic Scholar | Role-Play Game-Enhanced English for a Specific-Purpose Vocabulary-Acquisition Framework

言語獲得のプロセスとは? 言語獲得装置や臨界期もわかりやすく解説 母語習得との関係は?

はじめに

今回は言語獲得のプロセスについて考えていきたいと思います。言語獲得装置や臨界期についてもわかりやすく丁寧に解説していきます。まずは言語獲得で議論となっている模倣説や生得説を解説し、普遍文法や言語獲得装置など主要な言語獲得理論について説明します。それらを前提に、母語習得や言語獲得プロセスと語彙の発達について概説していきます。最後に英語学習のヒントなる、第二言語習得研究との違いについて見ていきたいと思います。

 

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主な参考文献

 

「よくわかる言語発達」

 

「入門ことばの科学」

 

「ことばの習得 母語習得と第二言語習得」

 

「新・子どもたちの言語獲得」

 

「こどもとことばの出会い 言語獲得入門」

 

「ことばの発達の謎を解く」

 

言語獲得

言語獲得

言語獲得とは?

言語獲得(language acquisition)とは人が特定の言語を使用できるようになることを指す用語で、特に、幼児期に行われる第一言語獲得のことを指します。両親の人種や民族に関係なく、一般的に子供はどのような言語でも獲得できると考えられています。

 

言語獲得

引用:Language Acquisition And Learning Exam

 

言語獲得は幼児期を対象にしているので一般的に無意識的に言語活動を通して、言語を理解していきます。一方で、成人になってからの言語学習は意識的に言語のルールや文法を学習していきます。

 

言語獲得期はいつ?

胎児は産まれる前から外部の音や母親の声に反応を示し、生まれて数日後から母親と視線や表情による交流を始めると言われ、それらは原会話と呼ばれています。生後3ヶ月から半年でうなり声や喃語(ばぶばぶ、あうー)をあげるようになります。

 

年齢 特徴
出生〜 泣きはじめる
2ヶ月〜 喃語を発話
1歳前後〜 一語文の表出
2歳前後〜 二語文の表出
2歳半前後〜 多語文の表出
4歳〜 抽象的思考の発達

引用:入門ことばの科学から筆者が作成

 

1歳頃になると単語を発音できるようになり、1歳半頃には二語文を使用し始めます。それ以降は急速に言語能力は発達し、4歳頃にはアナロジーやメタファーを理解できるように成長していきます。これらの過程は文化によって多少の前後はありますが、共通した文化普遍的な現象だと言われています。

 

模倣説と生得説

模倣説とはテレビやラジオの音声など、幼児が聞くことのできる言語刺激がある場合、それを模倣することによって言葉を獲得するという説です。また、言葉の発達の遅れについて、知的発達の問題と並んで言語的な環境が一つの要因になると考えられています。たとえば親がとても早口であったり、極端に幼児への言葉がけが少なかったりすると、幼児は模倣を通した言葉の獲得が困難となり、言葉の発達に遅れが生じる可能性があると言われています。

 

一方で、生得説側は言葉を獲得するという能力は先天的に備わっているものと考えます。言葉自体は親の模倣の役割が大きいとしても、幼児は生得的に周囲の音や音楽よりも、人間の声や言葉に対してより高い感受性を示します。言葉の獲得や言語発達の基礎となる認知発達は多少の個人差はあるものの、ある決まった道筋をたどります。この道筋が規定されていることも、ある程度は環境に左右されない、生得的な側面があることを支持しています。

言語獲得の臨界期

レネバーグは言語の獲得には年齢限界があると提唱しています。乳児期から思春期(11~12歳)までの成熟期間を過ぎると,母語話者並みの言語を獲得できなくなるという年齢限界があるとしています。

 

レネバーグは脳損傷により失語症になった患者が言語を回復する経過について調べたところ,思春期を超えて失語症になった場合の回復ははとんど期待できず、母語が完全に回復することはないと考えています。

 

言語の臨界期引用:Critical period effects in second language learning

 

神経学者のジャックリーン・S・ジョンソンとエリッサ・L・ニューポートはアメリカに移住した韓国語や中国語を母語とする子供の、英語学習を始めた年齢と英語の習熟度の相関関係を調査したところ、アメリカに移住した年齢が早いほど英語の習熟度が高いという結果が出ており、これも言語獲得の臨界期を支持する結果となっています。

 

バイリンガル教育についてはこちら↓↓

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言語獲得理論

言語獲得

言語獲得の2つの理論

言語獲得を巡る2つの中心的な論争は、生成文法理論に基づいた理論と認知的アプローチに基づいた用法基盤モデルです。生成文法よりの理論では言葉を獲得するのには遺伝的に規定された仕組み(普遍文法)があるという生得説に近い態度をとりますが、用法基盤モデルでは、言語知識の生得性は認めず、言語獲得もスポーツの能力などと同じように一つのスキルとして考えます。

 

  • 生成文法理論に基づいたアプローチ」(principles and parameters approach)
  • 「用法基盤モデル」(usage-based model)

 

言語学習を経験している人は、用法基盤モデルを支持するかもしれません。言語は使用をしながら、少しずつ自分のスキルとして獲得していくというのはイメージしやすいかもしれません。但し、不完全な文法知識しかないのに、なぜアウトプットをすることができるのか?時にはインプット以上のアウトプットができてしまうこともあります。

不完全なアウトプット

 

普遍文法

かつての言語学者は個別かつ例外だらけの言語をどうにか帰納的に説明しようと四苦八苦していました。その流れを断ち切ったのが、チョムスキーの「私達の言語機能は普遍文法(=言語の共通ルール)によって説明できる」という主張です。彼は文法的現象を演繹的に記述し、私達の言語を説明しようとしました。そこで誕生したのが生成文法という理論です。

普遍文法

私たちはユニバーサル文法を保有しているが、パラメータの変換によって個別の言語を話せるようになるという考え方です。私達が使用している個別かつ例外だらけの言語それぞれが、一つのきちんと生成できるルールに基づいていると主張しました。しかし、生成文法は言語活動と認知が独立しているため、私達の個別の経験や体験を言語表現に反映できないという欠点もあります。

 

英文法についてはこちらを参考に↓↓

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言語獲得装置

もう少しチョムスキーについて説明していきましょう。実は人間が母語を習得できるのはなぜか、という問いに関する答えとして1950年代まで広く信じられていたのは、さきほど説明をしたImitation Theory(模倣説)でした。幼児は周囲で使われる言語を暗記し、それを徐々に自分のものとしていくという説です。

 

しかし、模倣説では先ほども言及しましたが、幼児が時に私たちが教えていない言葉や発音を発するのはなぜかという問いに答えられません。これに対し、チョムスキーは、幼児の脳には言語発達に必要な能力が生まれながらに備わっていると主張し、この能力を言語習得装置(Language Acquisition Device)と名づけました。

 

言語獲得装置

引用:How Nature Meets Nurture: Universal Grammar and Statistical Learning

 

言語習得装置(Language Acquisition Device)

  • 入力された情報に基づいて、文法を形成する
  • 言語を成り立たせる決まりや原則を発見する
  • 原則は構文(Syntax)、語義(Semantic)、語用論(Pragmatics)

 

言語は、そもそも数々のルールによって成り立つ体系(システム)です。ここでいうルールとは文法に限らず、構文や文章の成り立ち(Syntax)、単語に付されたさまざまな意味(Semantic)、どういうときにどのように使うかといった実用的な言語使用(Pragmatics)なども含みます。

 

上記の膨大な言語に関するルールの数をゼロから幼児に教えることは不可能であり、幼児は生まれながらにして言語にかかわる情報をインプットできる装置が備わっていると考えます。母語習得には文法書を必要としないのはそのためであると主張します。

 

用法基盤モデルにおける言語獲得のプロセス

言語獲得プロセス

母語獲得に必要なスキル

用法基盤モデル(usage-based model)を考案したのは、心理学者のトマセロで、彼は幼児の母語獲得にに必要なのは生得的な普遍文法ではなく、学習メカニズムであり、そこには認知能力が働いていると考えました。それらの認知能力とは意図の読み取り(intention-reading)とパターン発見(pattern-finding)です。

 

意図の読み取りとは、他人がどう考えて何をしようとするのかを理解する力で、生後9〜12ヶ月頃から発達すると考えられています。意図の読み取りができると、以下の3つのことができるようになります。

  • 共同注意フレーム(joint attention frame)
  • 伝達意味の理解(understanding communicative intentions)
  • 役割を伴う模倣(role universal imitatiion)

例えば、幼児の背後のあるものを大人が見つめると幼児は視線追従の他に、指差しをするようになる(共同注意フレーム)、大人+幼児+モノの3項関係を構築しながら幼児の後ろに何かがあるというメッセージを理解(伝達意味の理解)、大人が背後にあるものを取って「危ないね」と言うのを幼児が模倣(役割を伴う模倣)。

 

もう一つのパターン発見は、例えば幼児に「ga-ti-ga」や「li-na-li」のようなABAのパターンのある音声を長時間聞かせる。その後、幼児にABAパターンの音声と、パターンが異なるABBの音声を2つ聞かせると、最初の刺激と同じABAパターンの音声連鎖に興味を示すようになります。トマセロはパターン発見の蓄積により、高度な記号操作としての言語が獲得されると主張しています。

母語の発達過程

用法基盤モデルによる母語の発達過程では、生後 18ヶ月頃に軸語スキーマ(pivot schema)を見出すと言われています。例えば、more care, more cereal, more cookieなどのようにmoreの後に続けて物の名前が使われるようになります。軸語スキーマは生産的に使われますが、まだ文法規則として機能しているわけではありません。

 

pivot の例文

引用:Construction Grammar and First Language Acquisition

 

2歳頃までには、項目依存構文(item-based construcion)を使用します。例えば、put onやtake offな動詞のそれぞれの固有の規則を見つけることができるようなり、これられは動詞の島仮説(verb island hypothesis)と呼ばれています。3歳以降になると、幼児は徐々に規則の一般化を行うようになり、動詞は島ではなく様々な抽象的統語文(abstract syntactic construction)として使われるようになります。

 

母語が正しく習得されないとセミルンガルになる恐れがあります↓↓

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語彙の発達

語彙の発達

幼児の年齢と語彙数の関係

個人さもありますが、幼児は1歳半を過ぎた頃から語彙数を急増させていきます。語彙急増が起こる理由は諸説ありますが、語は特定の自分を指しているのではなく、カテゴリーを指していると理解できるようになる、あるいは音韻体系の性質の変化が寄与しているのではないかとも言われています。

 

語彙急増期

引用:Variability and Consistency in Early Language Learning The Wordbank Project

 

象徴機能の発達

上記の語彙爆発を支えているのが象徴機能の発達です。例えば、「バス」という語は、basuという音声と、それが意味する「バス」のイメージ(表象)と結びついています。言語の意味作用は語の音声のもつ聴覚表象(能記:いみみするもの≒能力を記す)と、それによって指示される対象(所記:意味されるもの)の表象関係からなると考えられています。この関係性を理解できる能力が、言語獲得には必要とされています。

象徴機能の発達

引用:よくわかる言語発達 p40を参考に作成

 

スキーマについてはこちらで詳しく解説しています↓↓

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言語獲得と第二言語習得研究

言語獲得と第二言語習得研究

母語獲得と第二言語学習の違い

母語獲得途中の2〜3歳児は空間的及び時間的な概念を十分に理解しておらず、この時期の幼児に様々な概念を、大人が言葉を通して伝えることは難しいと言えます。一方で、第二言語学習者は様々な概念を母語を通して身につけています。語彙習得に関して第二言語学習者がすべきことは母語で身につけた概念を、第二言語ではどのような音形や形態で表すかを学習することと言えるでしょう。

 

そもそも母語話者が、第二言語を習得使用すると下記の中間言語を形成するとも言われています。中間言語という概念はラリー・セリンカーによって1972年に提唱され、人間の頭の中には潜在的な言語体系があり、第二言語学習者が目標言語を習得していくプロセス、その言語体系を参照しつつ、独自の言語体系を構築すると主張しました。

中間言語

中間言語が存在するということは、母語獲得と第二言語習得には異なるアプローチが必要ということになります。ちなみに、学習者の習得レベルが上がるにつれ中間言語は変化します。学習者がネイティブに近いレベルになると中間言語は消滅すると言われています。

 

第二言語習得研究の全体像はこちら↓↓

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形態素の習得順序

母語第二言語の習得順序の研究もこれまで数多く実施されており、心理学者のブラウン氏は母語話者に対して、文法項目はある決まった順序で身につけられる自然順序仮説(the natural order hypothesis)を提唱しています。一方で、言語学者のクラッシェン氏は第二言語習得者の習得順序を明らかにしようとしています。

 

形態素の習得順序

引用:入門ことばの科学 p49を参考に作成

 

入力のレベルの違い

入力レベルに関しても数多くの議論が交わされています。母語獲得をする幼児に対して、周囲の大人は一般的に明瞭な発音で簡単な語彙を使用してわかりやすく話しかけるマザリーズ(motherrese)を実践しています。実は第二言語学習者に対しても、似たようなフォリナートーク(foreigner talk)を実践する場合が多くなっています。

 

フォリナートークの特徴

  • ゆっくり話す
  • 文と文の間のポーズを長めにとる
  • イントネーションを誇張する
  • 標準的な発話で話す
  • 口語や俗語はできるだけ使用しない

 

フォリナートークは特定の言語項目を目立たせたり、その項目を学習者に特別に意識させることで理解可能なインプット(comprehnesible input)の量を多くさせるので、第二言語習得を促進させるという研究成果もある。一方で、人工的に調整された話し方を理解できたとしても、ネイティブの音声についていけないという反論もあり、実践で話されている音声をインプットした方が有効だという主張もある。どちらの説が正しいかは、今後の研究に委ねられている。

 

参考

BILINGUAL KIDSPOT | Language Acquisition vs Language Learning – What is the difference?

ProProfs | Language Acquisition And Learning Exam

Semantic Scholar | Critical period effects in second language learning: The influence of maturational state on the acquisition of English as a second language 

Semantic Scholar | How Nature Meets Nurture: Universal Grammar and Statistical Learning

Semantic Scholar | Construction Grammar and First Language Acquisition

wordbank.stanford | Variability and Consistency in Early Language Learning

The Wordbank Project

外国語教育 ―理論と実践― 第42 | 第二言語習得(SLA)における明示的知識(Explicit knowledge)と暗示的知識(Implicit knowledge

外国語教育メディア学会 (LET) 関西支部 メソドロジー研究部会 2012 年度報告論集 | 第二言語学習者䛾暗示的文法知識䛾測定法 

早期英語教育とは? メリット・デメリットを徹底検証 効率的な英語学習法のヒントは??

はじめに

今回は早期英語教育とは?というテーマで小学校英語教育について改めて考えてみました。ここ数年早期英語教育熱が高まっているので、そのメリット・デメリットや問題点などの現状を徹底的に考えていきたいと思います。理論面では、早期英語教育をめぐる2大論点を外観しながら、小学校英語教育法を解説していきます。最後に、子供への効率的な英語学習方法を考えていきます。

 

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主な参考文献

 

「児童英語教育を学ぶ人のために」

 

「新学習指導要領にもとづく 英語科教育法」

 

「日本の小学校英語を考える」

 

小学校英語教育法入門」

 

小学校英語指導法ハンドブック」

 

バイリンガル教育の方法」

 

小学校英語と中学校英語を結ぶ」

 

日本の小学校英語教育

小学校英語教育

小学校英語教育とは?

日本の小学校英語教育は2002年に3年生以上の生徒に対して「総合的な学習の時間」の中で、国際理解に関する学習の流れで外国語活動ができるようになり、本格的にスタートしました。近年では2020年に英語学習が小学校で必修化され小学校英語教育について活発に議論がされるようになっています。

 

www.j-shine.org

 

小学校英語指導者認定協議会 (J-SHINE) は、日本における「小学校での英語教育の普及・発展を支援する」という趣旨のもと、2003 年 に特定非営利活動法人としての申請を行い、民間主導で設立された英語教育指導者の資格認定を行うNPO法人です。このような英語教育指導者の育成が求められています。

小学校英語教育導入の背景

小学校で外国語活動が導入されたきっかけは外国語教育、特に英語教育が世界各国と比べて著しく遅れをとっていたからで、産業界や政府の諮問機関からしばしば批判を受けていました。日本人の英語運用能力を高めるために、早期英語教育が叫ばれました。2021年の英語ランキングを見ても、まだ先進国に比べて遅れをとっています。

 

英語ランキング

引用:EF EPI 2021 – EF 英語能力指数

 

中国と韓国のTOEFLの点数を比較しても、大きく点数を離されています。日本人が得意とするリーディングも低くなっているのは驚きです。

 

  リーディング リスニング スピーキング ライティング 合計
韓国 21 21 20 21 83
中国 21 19 19 20 79
日本 18 18 17 18 71

引用:TestsTest and Score Data Summary, 2019

 

日本の英語教育の歴史

文明開花と実学英語

日本の英語教育の始動は幕末期まで遡ることができます。当時は西洋文化を吸収するために実学中心主義でしたが、明治14年には森有礼文部科学大臣になると英語推進の動きに拍車がかかり英語熱は高まっていきました。

 

英語(外国語の)授業時間数 ※尋常中学校(12歳以上、5年間の場合)

  1年生 2年生 3年生 4年生 5年生
明治14年 6 6 6 6 6
明治19年 6 6 7 5 5
明治27年 6 7 7 7 7
明治34年 7 7 7 7 6
明治44年 6 7 7 7 7

引用:日本における英語教育の歴史と現状の課題 英語科教育法Ⅰ-1

 

明治14年から〜44年の英語の従業時間数は週に5〜7時間確保されていました。数学や歴史地理が週に3〜4時間ということを考えると、英語学習に力を入れていた事がわかります。

英語教育改革と英語排斥運動

大正11年には、イギリスからパーマー氏(Harold E. Palmer)が来日して英語教育の大きな転換点となりました。そこでは母語を介しないオーラル・ワーク(口頭作業)を重視するオーラルメソッドの普及に努めました。オーラルメソッドはこれまでの文法・訳読中心主義の教授法に対立する教授法として開発されました。

 

彼は文部省の英語教授顧問として活躍し、英語学習において実際の生活場面でコミュニケーションの道具として使えるような技術、すなわち「speech」の重要性を説き、以下の5つの習性をキーワードに挙げました。

 

パーマー氏の5つの習性

  • 音声の観察(auditory observation)
  • 口頭での模倣(oral imitation)
  • 口頭での反復(catenizing)
  • 意味化(semanticizing)
  • 類推による作文(composition by analogy)

引用:パーマーのオーラル・メソッド受容についての一考察より作成

 

但し大正12年1924年)にアメリカで日本からの移民を禁止する新移民法が制定されると、日本で英語を廃止する動きが活発になります。その後昭和に入り、国家主義的な風潮が顕著になる中で、大学では英米人の教師が解雇されるなど、英語排斥運動が出てきてしまいます。

大衆英語

戦後のになると再び英語ブームが再熱しラジオの英会話講義が始まりました。昭和22年(1947年)に教育基本法・学校教育法が公布され、6・3・3制が始まり、中学教育過程に選択学科として外国語が盛り込まれるなど、英語教育の整備が進んでいきます。その後、昭和40年代には大学進学者が100万人を超え、高校進学率も90%を突破し、教育の大衆化時代に突入します。日本経済が発展する中で、事業界を中心に学校教育で実用的な英語を教えるべきであるという声が高まっていきます。

 

www.seibundo-shinkosha.net

 

昭和22年(1947年)に出版された「日米会話手帳」は当時360万部を売れたそうで、多くの人が英会話に興味をもっていたのかわかります。復刻版が出ているようなので、興味がある方はチェックしてみてください。

 

コミュニケーション英語と外国語必修化

グローバル化が進む中で従来の日本の英語教育では国際競争力を持つ事ができないという批判が高まっていきます。そうした中で1989年に告示された学習指導要領では「実践的コミュニケーション能力」を重視する方針が出され、いよいよ高等学校で実践的な「オーラル・コミュニケーション」が導入されます。

 

シラバスも従来の文法シラバス(grammar syllabus)から概念・機能シラバス(notitonal-functonal syllabus)が主流になってきます。文法シラバスでは、学習の単元が「一般動詞」、「未来形」などに割り振られますが、概念・機能シラバスでは「あいさつ」や「買い物」などのように場面ごとの課題をクリアしていく構成になっています。より実際のコミュニケーションに応用しやすいようになっていると言えます。

文法シラバス

コミュニケーション能力の習得を言語教育の柱とする考え方は、コミュにニカティブ・ランゲージ・ティーチングと称され早期英語教育とも関わっています。そして、1998年に告示された中学校学習指導要領で外国語が必修となります。

 

早期英語教育をめぐる2大論点

早期英語教育

言語の臨界期

実は英語に触れる年齢が早いほどバイリンガルになる可能性が高まるという研究があります。大人になってから英語を学習するのではなく、小さい頃に始めた方がより高いスコアを取るという結果が出ています。

 

言語の臨界期

引用:Critical period effects in second language learning

 

神経学者のジャックリーン・S・ジョンソンとエリッサ・L・ニューポートはアメリカに移住した韓国語や中国語を母語とする子供の、英語学習を始めた年齢と英語の習熟度の相関関係を調査したところ、アメリカに移住した年齢が早いほど英語の習熟度が高いという結果がでました。

2言語共有説

2つ目の理論は「二言語共有説」です。カミンズ氏は第一言語第二言語の間には共有できるCommon Underlying proficiency(CUP)があると主張しています。第一言語能力(母国語)と第二言語は独立しておらず、相互に依存しているという理論です。

 

引用:Teaching for Cross-Language Transfer in Dual Language Education:Possibilities and Pitfalls (Jim Cummins,2005)

 

カミンズ氏は、「二言語共有説」を証明するために言語能力をBasic Interpersonal Communicative Skills(対人伝達言語能力)とCognitive Academic Language Proficiency(認知・学習言語能力)に分けました。

 

  BICS CALP
特徴 具体的・インフォーマル 抽象的・フォーマル
語彙数 3,000語以下 100,000語以上
文章の特徴 短くてシンプル 長くて複雑
コミュニケーションの形式 文脈重視 非文脈下
能力形成までの時間 1〜3年 5〜10年以上

引用:2livnlearnAre You Judging Your English Learners on Their BICS Instead of    Looking for CALP? を参考に筆者が作成

 

Basic Interpersonal Communicative SkillsBICS)は日常の場面に密着した言語使用が特徴ですが、Cognitive Academic Language ProficiencyCALP)は学問的な思考をするときに必要な言語能力のことを指します。 言語形成の土台にあたるCALPの育成が大切だと主張しています。

 

小学校英語必修化

小学校英語必修化

必修科の背景と歴史

小学校英語必修化は、臨時教育審議会の答申から小学校の英語教育について検討が提言が始まりました。その後、1998年に告示された新学習指導要領で総合的な学習の時間に国際理解が導入されたことで、小学校でも外国語活動が取り入れられます。そして2011年に移行期間を経て小学校5、6年生で外国語活動がスタートしたことで、実質的な英語必修化となりました。

 

小学校外国語教育に係る経緯

  • 1986年:臨時教育審議会答申、小学校の英語教育について検討が提言
  • 1998年:新学習指導要領の告示
  • 2002年:学習指導要領に総合的な学習の時間(国際理解)を導入
  • 2008年:新学習指導要領の告示〜移行期間
  • 2011年 :5、6年生で外国語活動実施スタート(実質必修化)
  • 2017年 :新学習指導要領の告示〜移行期間
  • 2020年:4、5年生で外国語活動、5、6年生は教科として英語実施

引用:「小学校英語活動実施状況調査(平成18年新学習指導要領全面実施に向けた小学校外国語に関する取組について」などを参考に作成

 

2017年に新学習指導要領が告示され、2020年からいよいよ小学校の5、6年生で教科として英語教育が導入されました。

 

新学習指導要領の変更点

これまで小学校では、音声を中心に英語に慣れ親しむために週に1コマの外国語活動にとどまっていましたが、新学習指導要領では週3コマに大幅に拡大します。5、6年生においては「音声に十分慣れ親しんだ上で、段階的に読む事、書くことを目指す内容となっています。

 

新学習指導要領

引用:令和元年 教育課程部会 新学習指導要領全面実施に向けた小学校外国語に関する取組について

 

中学校は小学校と連携させるため2021年から全面的に、2022年から高校で順次新学習指導要領されるスケジュールとなっています。

 

新学習指導要領移行

引用:スタスタ塾|新学習指導要領はいつから?ポイントをわかりやすく解説

 

小学校英語教育法

小学校英語教育法

英語教授法

CLT(伝達中心指導法)

CLT(Communicative Language Teaching)は現在最も広く受け入れられている指導法で、言語習得において文法構造の習得だけではなく、コミュニケーション能力(communicative competence)の育成に焦点を当てる必要があるという考えがベースにあります。

 

コミュニケーション能力の4つの要素

  1. 文法能力:語彙や文法などを操る力
  2. 社会言語学的能力:場面に応じて適切に言語を使う力
  3. 談話能力:一貫性のある談話を行う力
  4. 方略的能力:コミュニケーションを円滑に継続する力

引用:小学校英語教育法入門 CLTの特徴

 

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TBLT(タスク中心指導法)

TBLT(Task-Based Language Teaching)はタスクあるいは課題を目標言語を通じて遂行すことを指導の中心にするのが特徴です。CLTとの違いはタスクを達成するために、グループ内で意思決定をおこなったり、各自が持っている情報を引き出しながら結論を導くことです。様々なタスクをクリアする事で、学習者の英語使用能力を目指すのが狙いです。

 

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タスク内容を説明するデモンストレーションや、グループ内でモチベーション高く活動させるために教師の力量が試される指導とも言えます。念入りな学習指導計画の作成も求められます。

TPR(全身反応指導法)

TPR(Total Physical Response)はASherが提唱した母語習得をモデルにした聴解中心の指導法です。幼児は相手の発話の意味を体で反応を示す沈黙期(silent perido)を通過して、その後しだいに発話が生まれるようになると言われています。

 

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TPRの利点は、学習者が緊張したり、不安を覚えたりすることなく学習に取り組めることです。聞く以外の技能への配慮が少ない事が難点ですが、授業のウォームアップや新しい単元で初めて触れる語彙や表現の学習には適していると言えます。

こどもの外国語学

発音指導

発音指導は単に個別の音声を扱うのはではなく、音声意識(sound awareness)を高めさせる必要があります。日本語にはない音に気づかせる工夫や、類似している2つの音を見つけさせる場合もあります。小学校英語の指導目標として、英語の音声に慣れ親しむという項目が重要視されています。

 

小学校段階における英語の発音指導

  1. 個々の音と英語に多い子音結合(consonant clusters)
  2. 音節(syllables)と強勢(stress)
  3. 複合名詞・動詞・形容詞・長い語中での強音節と弱音節
  4. 句や文における強勢の働き
  5. 事物を対比するための強勢の働き
  6. 文中の意味を対比させるための強勢の働き
  7. 句や文中における語相互間の音連続
  8. イントネーションが表す旧情報
  9. イントネーションが表す新情報
  10. イントネーションの付加疑問中での働き

引用:「小学校英語」指導法ハンドブック

 

但し、音声に特化して指導してしまうと、英語嫌いになる可能性もあるので一般的にはゲームやアクティビティを通して英語の音に慣れていきます。例えば同じ強勢パターンのカードを組み合わせるゲーム(強勢スナップ:Stress Snap)は下記の動画のようにペアで実施することができます。

 

↓↓8:20〜からゲームが始まります

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フォニックス・ソング(Phonics Song)は片面に2文字音(thやchなどで一つの音声を構成)を、もう片面に歌に出てくる動物や事物を記入。歌に出ている音や絵が出てきたらカードに触るゲームです。Youtubeで簡易的なフォニックス・ソングが用意されているので興味ある方はチェックしてみてください。

 

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語彙

外国語の語彙を教える場合は子供はまだ母語の語彙を形成中であり、概念を習得し構成している過程にあることを念頭におく必要があります。子供は外国語学習に直面するときに、ラベリング(Labeling)、パッケージング(packaging)、ネットワーク構築(network-building)という3つの異なる語彙学習タスクに直面します。こどもの外国語学習の現実的な目標は年間ほぼ500語程度と言われており、学習難易については下記の7つの要因があります。

 

学習難易の7つの要因

  1. 明示性:意味がわかりやすいか
  2. 母語との類似性:母語と関連しているか
  3. 簡潔さ:短い語彙の方が覚えやすい
  4. 文法の規則性:語の形式に規則性がある
  5. 学習負荷:子供がその言語の一部をすでに知っている
  6. 使用機会:子供の環境要因
  7. 興味の中心:子供がその語に興味をもっているか

引用:「小学校英語」指導法ハンドブック, White(1988)の7つの要因

 

児童に行ったある研究によれば、「興味の中心」要因が最も重要であると指摘され、語彙に興味があれば、その語句を相手に本当に伝えたくなりと指摘されています。小学校での語彙学習は効率性などを意識するのではなく、モチベーションを維持させることが重要だと言えます。

小学校英語教育のメリット

英語教育のメリット

英語に親しむ時間が増える

1973年にアメリ国防省の付属機関がまとめた資料によると、日本語を母国語とする日本人が日常生活に困らないレベルの英語力を身につけるには、およそ2,400~2,700時間の学習が必要であると示しています。旧学習指導要領における学校教育では、小中高に大学を加えたとしても英語の学習時間は1,000時間にも及ばないので、時間が足りていませんでした。

 

↓↓英語の親しむ時間が増えればマルチリンガルにも一歩近づきます

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今回の新学習指導要領で英語教育を小学校に前倒しすれば英語に親しむ時間が増えるため、足りない学習時間を補うことができます。小学生は比較的素直に学習を受け入れやすいため、強制をしなければ比較的自然と英語に親しむことができます。

日本語を介さずに考える「英語脳」が育つ

英語脳とは、脳内で日本語に変換することなく、英語を英語としてダイレクトに理解することを意味していますが、中高生になってからでは英語脳を育てるのは難しいとされています。語学者レネバーグは、言語は12~13歳までに習得され、それ以降はスムーズに吸収されなくなるとの仮説を立てています。このことから、臨界期となる12~13歳、つまり小学校高学年までに本格的な英語学習をおこなうことは、英語脳を養うのに有効なのです。

 

 

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さらに、日本語と英語は周波数帯が異なるため、英語特有の発音やイントネーションを聞き分ける「英語耳」の習得も、実践的な英語を身につけるカギを握ります。小学生のうちから少しでも多くの英語に触れておけば、英語耳を育てることにもつながります。

 

小学校英語教育のデメリット・問題点

小学校英語教育 デメリット

教員の指導力や体制の不安

イーオンが行った小学校の英語教育に関する教員意識調査2021夏によると、7割以上の小学校教員が不安や自信がないという回答をしています。

 

小学校5-6年生で英語を「教科」として教えている先生の授業運営の状況

イーオン 調査

引用:「小学校の英語教育に関する教員意識調査2021夏」

 

特に、これまで教科として馴染みがなかった小学校3-4年生を担当とする生徒は、高学年の生徒に比べて、不安や自信がないという回答の比率が高くなっています。

 

小学校3-4年生で英語を「教科」として教えている先生の授業運営の状況

引用:「小学校の英語教育に関する教員意識調査2021夏」

 

専科教師(外国語教育のみを担当する教師)の任用も増えていますが、まだ学級担任が英語を教えているケースが多いようです。

 

小学校英語教育 担当

引用:令和3年度「英語教育実施状況調査」概要

小学校・中学校への連結

令和3年に実施された英語教育実施状況調査によれば、小学校との連携に取り組んでいる中学校の割合は72.5%であり、全ての学校でには至ってないという結果がでました。

 

小学校英語 小中連携

引用:令和3年度「英語教育実施状況調査」概要

 

小学校と中学校の連携は地域によってばらつきがあり、100パーセント連携している地域もあれば、10パーセント未満にとどまっている地域もあるようです。

 

小学校連携 地域格差

引用:令和3年度「英語教育実施状況調査」概要

 

小中連携の音声指導

中学校との接続で音声中心で学んだことから文字への学習が円滑に進んでいない、活動を通じて日本語と英語の音声の違い、英語の発音と綴りの関係などを以降の学習につなげることがうまくできていないなどの批判があり、小学校学習指導要領は以下のように告示されました。

 

⑴ 外国語を通して,言語や文化について体験的に理解を深め,日本語と外国語との音声の違い等に気付くとともに,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにする。

⑵ 身近で簡単な事柄について,外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを伝え合う力の素地を養う。

⑶ 外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め,相手に配慮しながら,主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。

引用:小学校学習指導要領(平成29年告示)

 

GA指導モデルでは、英語の多様な訛りに対応できるように小学校では標準的なアメリカ英語を学習した後で、中学校・高校以降で少しずつ多様な英語に触れることが推奨されています。このGA指導モデルを小中で共有する事で、スムーズな発音学習を進めることができます。

 

学習段階と指導モデルとする英語音声との関係

標準英語

引用:小学校英語と中学校英語を結ぶ p94 図1

 

小学生の音声指導は、英語に親しみをもてるように楽しさを重視することが求められ、その後少しずつ正確さを意識するのが良いとされています。

 

学年進行と音声3要素の関係

英語の

引用:小学校英語と中学校英語を結ぶ p100 図3

子供への効率的な英語学習法

英語学習法

イマージョン教育

イマージョン教育とは、未修得の言語を身につける学習方法の一つであり、その言語の環境に浸すことによって、その言語を身につけさせる方法です。 しかし、イマージョン教育は単にその言語の言葉を習うのではなく、教科をその言語で学ぶことで、自然とその言語を習得するという方法です。 1960年代英語とフランス語を公用語にしているカナダで始まり、外国語習得の最も効果的な方法として現在世界各地の学校で導入されています。

 

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イマージョンとは、英語の「immersion」(浸すこと)という単語の発音をそのままカタカナで表わしたものです。バイリンガル教育においては単にその言語を使用するということではなく、教科などの学習もその言語で行うことで自然とその言語を習得していく教育を指します。

 

6つのイマージョン方式

  • 早期トータル・イマージョン
  • パーシャル・イマージョン
  • 中期イマージョン
  • 後期イマージョン
  • 教科別補強フレンチ
  • トライリンガル・イマージョン

参考:バイリンガル教育の方法  第5章イマージョン方式の教育より抜粋

 

イマージョン方式のバイリンガル教育は1967年のカナダで始まりました。イマージョン方式の原型はカナダのケベック州を中心に広がっていきます。ケベック州公用語が英語とフランス語であり、イマージョン方式がその存続を支えてきました。イマージョン方式のバイリンガル教育は様々な地域の特性やニーズに応じて変形されてきましたが、主に6つのパターンがあります。

 

早期イマージョン(5歳から)と後期イマージョン(12歳から)の教育を受けた子供を比較するフレンチイマージョンの実態を調査した研究では、下記のように聴解力と読解力に差が出ました。早期イマージョンの子供は聴解力に優れる一方で、後期イマージョンの子供は高い読解力をもっていることがわかりました。

 

  早期イマージョン(4,000時間) 後期イマージョン(1,400時間)
聴解力 15.2 12.0
読解力 14.8 18.2

引用:バイリンガル教育の方法  第5章イマージョン方式の教育より抜粋

 

適切なバイリンガル教育

バイリンガル教育とは、一つの言語を使う「モノリンガル」に対して、「二つ(以上)の言葉をきちんと使い分ける力を持った人」という意味での「バイリンガル」を育成する教育です。バイリンガル教育」と一口にいわれますが、実はさまざまなタイプがあり、家庭で実践するバイリンガル教育もありますし、イマージョン方式(対象言語に浸る)など多彩な教育です。

 

Definition of bilingual education

education in an English-language school system in which students with little fluency in English are taught in both their native language and English

引用:Merriam-Webster

 

↓↓子供への適切なバイリンガル教育を解説しています

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母国語の確立

第二外国語母語 与える影響はカミンズ氏が立証してきました。たとえマイノリティの母語と言えども、疎かにしてしまうと第二外国語に悪影響を与えてしまいます。特に幼少期に年齢に応じた母語教育を受ける事が大切です。特定の時期を過ぎてしまうと、大人になってから学習するのが難しくなってしまいます。

 

母国語の確立

 引用:ベネッセ教育総合研究所母語以外の言葉を子どもが学ぶ意義

 

では、母国語と母文化の形成時期はいつ頃なのでしょうか。話し言葉の形成は一般的に4〜6才ぐらいで、2~3才ぐらいの時期に母国語の文化も形成されるようです。まずは、セミリンガルを防ぐには幼児期に母国語の形成を促す環境を整えることが大切なようです。

 

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参考

EF|EPI 2021 – EF 英語能力指数

TOEFL iBT® |TestsTest and Score Data Summary, 2019 

東京外国語大学|日本における英語教育の歴史と現状の課題 英語科教育法Ⅰ-1

パーマーのオーラル・メソッド受容についての一考察より作成

Semantic Scholar | Critical period effects in second language learning: The influence of maturational state on the acquisition of English as a second language 

The University of Toronto TorontoTeaching for Cross-Language Transfer in Dual Language Education:Possibilities and Pitfalls Jim Cummins,2005

2LivNlearn|Are You Judging Your English Learners on Their BICS Instead of Looking for CALP?

文部科学省|令和元年 教育課程部会 新学習指導要領全面実施に向けた小学校外国語に関する取組について

スタスタ塾|新学習指導要領はいつから?ポイントをわかりやすく解説

イーオン|「小学校の英語教育に関する教員意識調査2021夏」

文部科学省|令和3年度「英語教育実施状況調査」概要

Merriam-WebsterDefinition of bilingual education